触れられて巡る予感


まずい。そう思った瞬間には既に遅かった。

ミストを庇おうとして飛び出した私の体はデイン兵にはじき飛ばされて、崖の上から落ちていた。
はじき飛ばされた瞬間、アイクやミストがとても言葉では言い表せない表情になったのが微かに視界に入った。
これだけの高さがある崖から落ちたら、どう考えても助からない。
みんなの叫ぶ声が耳に入るけれど、私の体の感覚は浮遊感が占領していた。
私もここまで、かな。みんな、私は先に逝きます。役立たずで、ごめんなさい。
それでも、大好きなミストを助けることが出来てよかった。
私を救ってくれたグレイル傭兵団に、少しでも恩返しをすることが出来ただろうか。
そう想いながら、静かに目を閉じてあと数秒で体に伝わる痛みに備えていたのに。
ひゅうと、風の切る音が聞こえたと思ったら私の体は見覚えのある腕に抱かれていた。

「よお、無事か?」
「た、鷹王様!?」

私の体をすっぽりと受け止めてくれたのは鷹王ティバーンだった。
まさか、鷹王に助けてもらえるなんて。
別軍を率いていたはずの鷹王がどうしてここにいるのかは分からない。
ふと視界にヤナフとウルキがいるのが見えた。
恐らく、作戦完了の報告に飛んできた所だったのだろう。

「鷹王様に助けていただけるとは思っていませんでした」
「なんだ、嫌だったか?」
「まさか……助けてくださってありがとうございます……」

同じ軍にいるとは言え、それでもベオクに対して複雑な感情を持っている鷹王がベオクである私を助けてくれた。
それはきっと、鷹王が私のことを少しでも理解してくれているから、だと思いたい。
何だかほっとしたら、体の力が抜けてしまった。
さっきまで死を意識していたのに、生き延びることが出来るなんて。
じわりと体から大量の汗が出てきた。
心臓の鼓動も痛いくらいに早くなってきて。今頃になって私の体は死の恐怖に反応したらしい。
何だか居たたまれなくなって、ぎゅっと鷹王の服の裾を掴むと、異変に気付いた鷹王は不思議そうな顔をしていて。

「セシル、どうした?」
「いえ、助かったと思ったら急に震えが……」

ぶるぶると小刻みに痙攣している私の手を見ていた鷹王は、そのまま私の手を握る。
ぎゅっと、そして力強く握られた手はとても温かかった。

「た、鷹王様?」
「お前は、こんな所でくたばるタマじゃねえだろう?」

俺に喧嘩を売ってきたベオクの女はお前が初めてだからな。
こんな所で死んでもらっても、つまらねぇ。そう言って鷹王は楽しそうに笑う。
とん、と鷹王が元の崖の上に着地して。そのまま私の体も地面に降ろしてくれた。
鷹王は崖の上に来るまで、ずっと私の手を握ったまま離さなかった。
いつの間にか震えも収まっていたし、鷹王の手は何故だかとても心地良かった。
ミストやワユが少し離れた所から駆け寄ってくるのが見えたけれど、鷹王の手を離せなかった。
いや、離せなかったと言うよりも、離したくなかった。
もっと鷹王に触れていたいと思ってしまった。自分でも、どうしてそう考えたのかよく分からない。
でも、もしかしたら。手を握られた瞬間に、私の心は鷹に奪われてしまったのかもしれない。




恋したくなるお題 「きっかけの恋のお題」




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