磁力のように惹かれてく
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「触れられて巡る予感」の続き
無意識、というものは時として非常に恐ろしいと思う。
本隊を率いるアイク傭兵団に作戦完了の報告に行く途中、デイン兵の攻撃を食らって崖から落ちるセシルの姿が目に入った。その瞬間、俺はセシルを助けていた。まさに無意識だったとしか思えない。
彼女を受け止めたという自分の行動にも驚いたが、セシルの体の軽さに思わず驚いた。
こんなに小さな体であれだけの敵をいとも簡単に仕留めていくのかと思わずにいられなかった。
そんなセシルが震える手で俺の服の裾をぎゅっと握る様子は、今まで常に気丈に振る舞っていた彼女の意外な一面を見た様で少しだけ胸がざわついた。
衝動的に手を握ってしまったが、セシルもそれがまんざらではない様子だった。
崖の上に降ろしても、セシルは握った手を離そうとしなかった。
それを嬉しいと思った俺は、既に彼女に落ちていたのかもしれない。
セシルとの出会いは、ある意味強烈だった。
軽い身のこなしでダガーを俺の喉元に突きつけてきたのは、ベオクの女ではセシルが初めてだった。
ベオクとラグズという種族の違いの前に、男と女という圧倒的な力の差があるのにセシルは臆することなく刃を向けてきた。
そんな彼女を面白いと思ったし、1人の戦士として認めていた。
だが、セシルに触れてしまったことが俺の中の眠っていた感情を引き起こしてしまった。
もっと触れたい。彼女が欲しい。
一度蘇った欲情はそう簡単には収まらない。フェニキスを束ねる王である自分が、ベオクの女を欲している?
ありえない。そう思いたかった。
「……ひとっ飛びしてくるか」
らしくない、そう思いながら気を紛らそうと幕舎から出ようとすると、ちょうど入れ違いざまに誰かとぶつかった。
ぶつかった感触からして、ベオク、恐らく女だろう。
ぐらりと体勢が崩れるのが分かった。
「おっと、悪い」
「こちらこそ、すみません」
大丈夫か、と手を差し出して体を支えた相手は、今一番会いたくて、会いたくないセシルだった。
俺に気付いたセシルは一瞬はっとした様な表情をして、何かを言いたそうな顔をしている。
セシルの背中に触れている手がひどくもどかしい。
こうやって少し触れている間にも、俺の中で言いようのない欲情が息づいている。
「セシル、ちょっと付き合え」
「は―――?」
答えを聞く前に俺はセシルを抱き上げ、空へと羽ばたいた。きっとセシルは知らないだろう。
鷹は狙った獲物は逃さない、ということを。
恋したくなるお題 「うつろう恋のお題」
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