思考回路すらも犯してあげる


#「生まれたばかりの恋心を飲み込んだ」の続き


あれ以来、セシルに変わった素振りはない。
確かにあの時、俺の言葉に驚いた表情をしていたはずだが。
流石に武人と言ったところか、感情をうまく殺しているのだろうか。
やはりそうでなければ面白くはない。

「ジョルジュ殿!!」

飛竜に跨っていた セシルが血相を変えて飛び降りてきた。
危うく敵兵に刺し殺されるところ、だったらしい。
目の前に手槍が突き刺さり絶命している敵兵を前にして、ようやくここは戦場で今まさにアカネイア軍との戦闘中だったということを思い出した。
俺としたことが、そこまで考え込んでいたのかと思うと自分でもおかしくなってきた。

「すまんな……」
「……どうかなさったのですか?まさかどこかお怪我でも?」
「問題ない。少し、考え事をしていただけだ」

考え事をしていたのは紛れもない事実だ。
ただ、戦闘中に考えていることがいつもの様な戦略ではなく、お前のことを考えていたのだが。

「戦場で考え事とは……私は持ち場に戻ります」
「お前の持ち場は俺と正反対だったはずだが、俺を気にしていてくれたのか?」
「い、いえ。そう言う訳では……。さ、先程からぼんやりして動かない人がいれば誰でも気になると思いますが……」
「そうか、それは残念だな」
「ジョルジュ殿、いい加減にしてください。今は戦闘中なのですよ?」

明らかにセシルの声色が変わった。
俺に対する怒りではなく、考えが見透かされたという焦り。
俺の様子を確認していたと言うことは、やはりこの間の言葉は彼女に効いている。
そう確信した。

「分かっているさ。今からお前を守ってやろう」
「なっ。いいえ、私1人で十分です!」
「やれやれ、可愛くないな?もう少し体を大事にすることだ。ただでさえ、他の奴らが気付いていない傷が多いのだからな」
「な、何故それを……」

男からの言葉に免疫の少ない彼女は、きっと考え込むだろう。
その言葉の意味を。
それこそが、俺の計算。彼女の思考回路に俺が進入してしまえば、あとは深みにはまるのを待つだけ。
まぁ、それもあと少しだ。




狸華 「愛」




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