おでこにキスをしよう


「ダッツさん! 本当に大丈夫ですから!」

赤く腫れ上がったおでこを隠しながら、彼女 ― 蓮見名前#は後ずさりを続ける。

「しかし、怪我をさせてしまった俺に責任がある! 大人しく手当を受けるである!」
「そうだよ、摩耶ちゃん。せっかくだし手当てしてもらいなよ」
「うう……分かりました……」

「反逆の龍」の隠れ家、もとい旧ドゥルク弁護士事務所に潜伏していた俺は暗闇の中侵入してきた輩を撃退した。伸びているふたり組のひとりは先程まで大法廷にいた弁護士の成歩堂、もうひとりは見覚えのない女性だった。恐らく日本人で成歩堂の関係者だとは思ったが、状況が状況だったとは言え、女性を殴ってしまったことは申し訳なさが募る。

「本当にすまなかったである」
「いえ、急に忍び込んだ私達にも責任はありますし……」

そっと彼女のおでこに触れ、うっすらと赤みを帯びたそこに痛み止めの薬を塗る。本当は冷やしてやるのが一番いいのだが、電気の供給が不安定なこの場所にそんなものはなかった。目のやり場に困るのか、彼女はずっと瞳を閉じたままだった。見知らぬ土地で、見知らぬ人の前でいくらなんでも無防備ではなかろうかと思いつつも、ふと悪戯心が芽生える。

「摩耶どの」
「はい?」
「ちょっと痛いがもしれんが、我慢してくれである」
「分かりました」

救急箱の中にあった一番大きな絆創膏をゆっくりと貼る。成歩堂は部屋の中を物色中でこちらを見ていない。絆創膏の上から、そっと触れるだけのキスをする。もしかしたら、気付いたかもしれないが、目を伏せたままの彼女の表情からは読み取れない。

「よし、出来たである」
「ちょ、ちょっとダッツさん! こんなんじゃ外歩けないですよ!」

べたべたとおでこを触った途端、自分の姿を想像したのか顔を赤くしながら彼女はすぐに鞄から手鏡を取り出して自分の姿を確認する。

「ダッハッハ!! とても可愛らしいであるぞ! 摩耶どの!」
「本当だ。おでこに絆創膏なんて、めったに見られなくて可愛いよ」
「成歩堂さんまで! これ恥ずかしいんですよ!?」
「それに、ダッツさん……さっきの」
「ん? なんであるか。同志ナルホド」
「いいえ、ダッツさんの名誉のためにここは口を閉ざしておきますよ」
「そうか、悪いなであるな!」

成歩堂、侮れない奴。諸々の詫びとして隠し部屋の鍵を成歩堂に渡すと、ふたりは来た道を戻って帰っていた。次にまた会う機会があれば、今度はもう少し違った表情の摩耶殿を見てみたい。今日は困り顔のような表情ばかりだったから、なんて。自分の中に芽生えた気持ちに苦笑した。



帰り道、おでこにキスって「可愛い」とかの愛情表現だったよなあ……気付いてるかな、とダッツのキスシーンを偶然見てしまった成歩堂が隣で歩く摩耶を見ながらひとりごちるのは、内緒の話。




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