夏の終わりに




pkmn,ダイゴ



ホウエン地方の夏は暑い。
少なくともシンオウ地方の東側から来た名無しにとっては。
季節も変わろうという暦だというのに、この暑さは彼女にとってはつらい。
強いて言えば地元と違い湿度が少ないのが救いではあるが。

「……涼しい」
「エアコン直風の場所にいたらそうだろうね」

ダイゴの家。エアコンの風がダイレクトに当たる場所で、メタグロスに張り付く名無しを見て彼は苦笑してた。
ダイゴは磨き終えた石のコレクションケースを元の場所に戻すと、エアコンのリモコンを手に取る。
かなり温度を下げているのがわかる。

「あんまり冷たい風に当たると体冷えるよ」
「うーん……わかってるんだけどね」
「君すぐ冷房病みたくなるんだから……少し温度上げたからね」
「うん……」
「あとメタグロスのワックスコーティングするからそろそろ離してあげて」
「OK。ありがとうね、メタグロス」

メタグロスの頭を撫でると、嬉しそうに震えた。
ダイゴのメタグロスは夏になり、エアコンの下にいると名無しのスキンシップが増えるため、敢えてそこにいることが多い。
メタグロスは、自分から甘えにくることが少ないとダイゴは語っている。
メタグロスのさりげない甘えだと思うと、ダイゴも名無しも微笑ましく思い、そんなメタグロスの要望に応えつつ、自分たちも涼むという方法を享受している。

「そういえばこの前の視察先でね、花火もらったんだ。夜やろうか」
「花火? いいね」

ソファに腰掛けるた名無しにそう声をかけたダイゴの言葉に、もう何年もやってないな、と過去を振り返る。
最後花火をしたのは子供の頃だった気がする。
最近は花火大会があった時に、自宅の窓から小さく見切れた打ち上げ花火を見るくらいだった。

「線香花火だけで、一度開けて四天王のみんなで分けたから多くはないけど」
「ありすぎても2人じゃやりきれないでしょうし、少なくて充分だよ。夜が楽しみなっちゃった」
「見た目綺麗だから気にいると思うよ」
「そうなの? 見せて見せて」
「うーん……夜までおあずけ、かな」
「えーっ」
「あはは」

柔らかな付近でメタグロスを磨き上げながら、ダイゴが声をあげて笑った。
そこまで言うなら期待して、夜を待つことにしよう。
名無しは楽しそうにメタグロスを磨くダイゴを、黙って見守ることにした。



気づけば日は暮れて、太陽が沈んだことで暑さが幾分か和らいだ。
幸い天気も崩れることなく、星が夜空で輝いている。
夕食を終えてダイゴが自室から持ってきたのは、小さな桐箱だった。

「はい、お待ちかねの線香花火」
「桐箱に入ってる花火なんて初めて見たよ……開けていい?」
「どうぞ」

ダイゴから桐箱を受け取ると、名無しは蓋を開ける。

「わぁ……え、これ線香花火なんだ」

線香花火というと花火セットに入ったビニール袋に入ったものくらいしか見たことがなかったが、こんなものもあるのかと名無しは関心する。
白色の和紙で作られた数本の線香花火。
持ち手の部分が花の造形で、趣のある、工芸品のなそのひとつひとつに、思わず感嘆の声が漏れた。
ご丁寧に蝋燭と蝋燭立てが同梱されていて、普通にスーパーやホームセンターで買えるものではないのがよくわかる。

「すごいよね、僕も見た時驚いたよ。綺麗だよね」
「普通にインテリアにできるよね」
「そうだね、君のヒノアラシが火をつけたら家の中で花火大会だ」
「よし、ありがたく普通に花火しよう」

庭先に出て折り畳みの椅子に腰掛けて、蝋燭に火を灯す。
ゆらゆらと小さな灯りが風情があって、ずっと見ていられそうだ。
蝋燭の炎にそっと線香花火の先をあてる。
炎は紙を伝い火薬までたどり着くと、小さな火の玉になった。
そしてすぐに、パチッと火花が散る。

「…………」
「…………」

パチパチと火花は感覚を短くし、アーチを描くように散る。
その様子を2人は黙って見つめている。
少しすると火花が徐々に少なくなり、火の玉はポトリと地面に落ちていった。

「……本当に綺麗だと黙っちゃうね」
「うん、線香花火ってこんなにきれいだっんだ。ありがとうダイゴさん」
「どういたしまして。僕も次そこに行った時に改めてお礼しないとね。今度はプライベートで一緒に行こうか。君の好きそうなお店とかもあったし」
「いいね。休み合わせて行きたいな」

街を散策するのも良い。宿を取って泊まりで行くのも良い。
考えると、どんどんやりたい事が浮かんでくる。
忙しい仕事にもやる気が出る。
次の線香花火に火を灯し、静かに会話を弾ませながら、美しい時間に浸りながら夜を過ごしていった。

来年もその先も、こんな時間が過ごせることを願いながら。





夏の終わりに
穏やかな昼と静かな夜を



(……? い、いちまんごせんえん!?)
(へぇ、やっぱりスーパーで買うのとは違うんだね。今度は自分で買おうかな)
(!? ……ブ、ブルジョワめ)
(?)




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