温もりとまどろみは




pkmn,キバナ



「キバナさん、お邪魔します……キバナさん?」

合鍵を使ってキバナの部屋に入った名無しは、部屋の主の反応がないことに疑問を抱く。
いつもだったら「おー、いらっしゃい」などと出迎えてくれる彼は、珍しく玄関先にやってこない。
キバナのマンションを待ち合わせにしたので、この時間にいないはずはないのだが。

「入りますよー」

返答はないが、沈黙は肯定という言葉もある。
名無しはそのまま部屋の中へと歩みを進めた。

返答がないはずだ。キバナはリビングのソファにだらりと体を預け、眠りの世界に旅立っている。
ポケモンたちが自由に動けるようにと選んだと聞いた広いリビングに、キバナの身体の大きさに合わせて作られたオーダーメイドのソファ。
そこに収まるキバナと、周りを取り囲むように彼のポケモンたちがスヤスヤと眠りについていた。

「……あ、ジュラルドン。勝手に上がってごめんね」

少し日陰になるところで、唯一起きていたのかこちらを見つめて佇んでいたジュラルドンに声をかけると、首を振るように身体を揺らした。
実際にはジュラルドンには振る首がないので、こちらがそう認識しているだけなのだが。
名無しがそばによって触れると、少し暑い。
炎が弱点ではないとはいえ、鋼の体に直射日光がこたえたのだろうか。
自分で日陰に移動したのだろう。

「あなたには少し暑かったかな。ボールに戻る?」

名無しがテーブルに置かれているポケモンたちのモンスターボールを取ると、ジュラルドンがゆっくりと近づいてきた。
そのまま開閉ボタンに身を当てると、シュン、と一瞬でジュラルドンがボールに収まる。
名無しはそのボールを日陰になるダイニングテーブルに置いた。
そしてすやすやと寝息を立てるキバナに向き直る。
バンダナが少しずれ、だらしない顔で気持ちよさそうに眠っている。

「……ふふっ」

バトルの時の荒々しさは微塵もない、まるで少年のような寝顔に思わず笑みが溢れた。
自分の荷物をダイニングの椅子に置き、カバンからスマホを取り出した。

恋人の寝顔ほどカワイイものはない。
今はまさに無防備なキバナを写真に収める絶好のチャンスなのだ。
これはファンには絶対に撮れない、恋人の特権というものだろう。

「静かにね」
『了解ロト……』

静かにスマホと共に近づき、アングルを調整する。
数十秒ほど思案したのち、極小のシャッター音が小さく響く。

『どうロト……?』
「オッケー……ナイスよロトム。ありがとっ……わっ」

起きたら見せてからかってやろう。
満足してゆっくりその場から離れようとした瞬間、何かに腕を思いっきり引かれた。
そのままソファに思いきり倒れ込む。
ボスンと音を立てたが、すでにそこにいた人物のおかげで痛みはない。
すっぽりと包み込まれ、驚きで数秒停止した名無しは、その人物に首を向けた。

「……起きてたんですか?」
「んー? シャッター音したから起きた」
「あの小さい音で……?」
「よく撮られるから俺様」
「さすが人気ジムリーダー」
「まあな……で、どうすんの?」
「?」
「SNSあげてもいいぜ?」

ニヤリとイタズラっぽく笑うキバナに、名無しは苦笑した。
こんな写真をSNSにあげた日には、彼のファンは卒倒するし、名無しのアカウントはそんなファンたちの力で間違いなく炎上するだろう。
わかってて言ってるのだろう、キバナはそういうところはよくわかっている。

「恐れ多くて無理ですよ」
「じゃあ俺様あげちゃおうかなー」
「『この写真撮ったの誰よ!』って言われたら責任とってくださいね」
「カノジョって言えばOK?」
「……ダメ」

それは火に油である。

「俺は公言してもイイんだけどな」
「それは……私の心の準備が足りないので……」
「はははっ、わかってるよ」

頭を撫でるキバナは先ほどとは違う優しい眼差しで名無しを見つめている。
周りからの目が変わるのが怖くて踏み出せない名無しに、キバナはいつも合わせてくれている。

「すみません」
「謝るんじゃなくて」
「……あ、ありがとう」
「正解」

恥ずかしくなってきた名無しは、そろそろソファから降りようと身体を動かそうとした。

「……」
「……キバナさん」

身体は、キバナの腕にがっちりとホールドされて身動きができない。
再度動こうとすると、さらに腕の力が強くなった。
キバナを見ると再びイタズラっぽい笑みを浮かべている。

「どうせだし、このまま昼寝しようぜ」
「え」
「ほら、日差しもあったけーし。俺様もまだ眠いし」

そう言われてみれば、暖かな日差しがちょうど良くソファを照らし、暖めている。
それ以上に、キバナの温もりと心臓の音は、何よりも心地良く、安心する。

「……まあ、いっか」

眠気が一気に押し寄せてきた名無しは、そのまま腕の中で微睡に落ちていった。





温もりとまどろみは
なによりも安らぎを与えてくれる




(そういや出かける予定だったわ。ワリィ……)
(また今度でいいですよ)




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