階段を上りきると、巾着の形をした賽銭箱がある。
ああ、ここの絵馬っていかにもって感じがするから恥ずかしいんだよな。
「政宗は、絵馬に願をかけたいの?」
「縁結びなんだろ?」
政宗は当然だというように頷くので、私は恥ずかしさから溜息を吐いた。
「ここの絵馬って恥ずかしいんだもん。ハートの柄をしていて、二人の名前を書くんだよ?」
「別にいいじゃねぇか」
「政宗ってこういうの好きなの?」
昨日も、政宗は竜宮大神や龍恋の鐘に願いを託していたから、ふと疑問に思って訊ねる。
「別に神とか信じているわけじゃねぇが、戦に出る前とか、願掛けに行って士気を上げたりするから、普通だろ?こういうのは縁起物だ」
「そっか……」
「でもな、俺は今、いないかも知れねぇ神にすら縋りたい。俺がいなくなったら、お前の心は、また誰かのものになるんじゃねぇかって。そう思うとやりきれねぇ。こんなものでお前の心を縛れるわけねぇのは分かってるが、それでも俺はお前の心を縛りたい」
政宗は切なそうに呟いた。
政宗の想いがひしひしと伝わってくる。
私の心を縛るのは、絵馬なんかじゃなくて、政宗の仕草や言葉なのに。
そんなことを言われたら、ますます政宗に惹かれてしまう。
「私の心を縛るのは、政宗の言葉だよ。絵馬なんかじゃない」
「それなら、俺はもっとお前に愛を囁いてやるよ。いくらでも。それでも足りないから、俺は願掛けをしたい」
政宗がじっと私を見つめて言うので、私は絵馬を買い、ペンをバッグから取り出した。
ハートの中に自分の名前を書いて、政宗に渡す。
政宗は相変わらず達筆な字で私の名前の隣に名前を書き、その下にメッセージを書いた。
Please don't tear our hearts apart.
どうか俺達の心を引き裂かないでくれ。
政宗が、いかに私の心が離れてしまうことを恐れているか伝わってきて切なくなる。
こんなことをしなくても、とうに私の心は政宗のものなのに。
「大丈夫だよ。弁天様に願わなくても、私はずっと政宗を愛し続けるから」
私はそっと政宗を抱き締めた。
どれほど政宗のことを想っているか、その想いが伝わればいいという願いを込めて。
政宗はそっと私の髪を撫で、そして、私をぎゅっと抱き締めてくれた。
江ノ島を出て、二人で海沿いの道を鎌倉方面へ歩く。
「ねぇ、政宗。お腹空かない?何か食べたいものある?」
「Ah〜、昨日の店にもう一度行きてぇな」
「政宗、そんなにあのお店気に入ったんだ。よかった」
「ああ。それにちょっとな」
「ん?」
「何でもねぇ」
政宗はニヤリと笑うと海風が気持ちいいと言って目を細めた。
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