陽炎が揺らめく景色の向こう側には、江ノ島が見えた。
昨日、俺が想いを遙に告げた島。
まさか遙が恋しく思っている男が自分自身だとは知らなくて。
随分と焦れた。
でも、遙とこうして結ばれて。
手を握ればそっと握り返されて。
目が合うと嬉しそうに微笑みかけられて。
ああして焦れていたこともどうでも良くなる。
いや。
あれほどまでに焦れて想いが募り。
そしてやっと結ばれたからこそ、こうして甘い幸せを噛み締めることが出来るのだと思う。
江ノ島の桟橋に差し掛かると、カップル達が手を繋ぎ、寄り添って歩いている。
俺達も、そのカップルの中の一組だと思うとくすぐったい気持ちになる。
昨日、ここへ差し掛かったときに遙が浮かべていた憂いの表情はもう過去のものだ。
長い髪を風にそよがせ、気持ちよさそうに目を細めて海を眺めると、視線を俺に移しふわりと微笑む。
遙の甘い微笑が、俺だけに向けられていることが嬉しくて。
そっと肩を抱き寄せ、額に口付けた。
弁財天への階段をゆっくりと上っていく。
遙は途中で息を切らし、階段の上を振り仰いだ。
「はぁ、階段って苦手」
「辛かったら抱き上げてやろうか?」
「いやいやいや、いいよ!だって恥ずかしいもん」
昨日もこうして恥らっていたことを思い出すと笑いがこみ上げてくる。
「エスカー使うか?あれ使うと楽なんだろ?」
「うん、そうだね。でも、こうして政宗と歩くのは楽しいから」
遙は俺の手をぎゅっと握った。
「不思議だな。昨日、ここに来た時は、憂鬱で、怖くて。政宗に振られると思っていたから」
「I told you. 言葉にしないと伝わらないこともあるって」
「だってだって……。政宗に好きな人がいるって思ってたから……」
しゅんと遙がうなだれる。
俺は、遙の肩を抱き寄せ頬にkissをした。
「俺が惚れた女は、お前が初めてだ。そして、これからも、ずっとお前だけ。お前だけを愛してる」
「初めて…?」
薄っすらと頬を染めた後、遙は問いかけた。
「ああ。前に言っただろう?愛なんてわからねぇって。あれは本心だ。今まで愛なんて感じたこともねぇ。お前を愛するまでは」
「でも……」
遙は口ごもり、俺の耳元に唇を寄せて囁いた。
『政宗って何だか手馴れているから』
頬を紅く染めて遙は俯く。
遙の言わんとしている事を察して、俺は思わず笑ってしまった。
「そんなに良かったか?」
ニヤリと笑って囁くと、遙はますます頬を染めて顔を逸らして階段を駆け上がっていく。
俺は遙に追いつき、その手首を掴んだ。
「政宗の意地悪」
「Sorry, come around」
ふいと顔を背ける遙の肩を抱き寄せ俺は耳元で囁いた。
「男なんてな、愛がなくても女は抱ける。でもな、心底愛し愛された女を抱いた時の快楽は、どんないい女を抱くのにも勝るって昨日初めて知った。あんな抱き方したの、お前が初めてだぜ。大切にしたいと思った」
「政宗……」
「これからも、大事に大事にお前を愛してやるよ」
そう言って頬に口付けると、遙は恥ずかしそうに目を細めた後、こくりと頷いた。
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