世界で一番熱い夏 -3-

棚に所狭しと飾られている写真は気になっていた。
遙と顔立ちが似ている少女と写っている写真もある。
きっと遙の妹だろう。
少しおっとりとした雰囲気の遙とは対照的に快活な雰囲気だ。
少し美紀と似ている。

そして……。
遙が愛しげに男を抱き締めている写真があった。

棚に目を向けると嫌でも視界に入ってしまうので今まで目を背けていた。
他にも、手を繋いで街を歩いている二人の写真や、見つめ合っている二人の写真もある。
遙の笑顔が幸せそうで胸が苦しくなる。

俺の知らない遙がそこにはいた。

遙の笑顔が優しげで。
遙が前の男を愛していた事がひしひしと伝わって来る。

俺と出会う前の事なのだから俺にはどうしようもない。
それでも悔しくて。
思わず唇を噛み締めた。

「ゴメン、政宗。私、無神経だったね。こんな写真、見たくないよね。嫌だよね。すぐにその写真捨てるから。未練があった訳じゃないの。きっかけがなかっただけ」

写真立てに手を伸ばす遙の手を取る。

「本当に未練はないのか?」

写真の中の遙はこれだけ幸せそうにしているのだから。
俺と出会った頃はこの男の事を想って泣いていたのだから。
まだ未練があるからこの写真を捨てないでいたのでは、と勘ぐってしまう。
遙は首を縦に振った。

「うん。もう未練はないよ。懐かしいとは思うけど。ただそれだけ」

じっと探るように遙の瞳を覗きこむ。
遙の瞳には少し切なそうな色が揺れていた。

切ないのは、まだ遙の心の中に前の男との思い出が残っているから?
こいつを愛していた事を思い出しているから?

じっと遙を見つめていると、遙は俺に抱き付き、そして触れるだけのキスを唇に落とす。

「政宗、愛してる。今日、元彼の写真全部処分するね。今はこの棚のだけ。帰って来たら、アルバムに入っている写真も処分するから」

そう言うと、写真立てから無造作に写真を抜き取り、遙は何の躊躇いもなく、それを破り捨てた。

遙が過去に執着していない事が分かり安堵すると同時に。
子供じみた独占欲が満たされていくと同時に。
遙の優しい笑顔の写真までも破り捨てられる事に胸がチクリと痛む。

「お前の笑顔だけでも切り取っておけたらな。何だかもったいねぇ」

そう言うと遙は驚いたように目を瞠った。

「本気でそう思う?私だったら嫌だな。例え政宗の笑顔の写真でも、それが他の女の子に向けられた笑顔なら、私は嫌。嫉妬しちゃう」

普段はおっとりとしている遙の意外な激しい一面を知って驚くと同時に、そんな遙の一面がいじらしくて愛しさが込み上げて来る。
遙の甘い束縛が心地良い。

「私、政宗が思っているよりもっと独占欲強いよ?今日、政宗と美紀があんまり仲良くしてたら、きっとやきもち妬いて拗ねちゃうんだから」

そんなsceneを思い浮かべているのか、少し拗ねたような表情になる遙が愛しい。
甘えるように抱き付く遙を抱き締める。

遙の心が真直ぐに俺に向いている事が嬉しくて堪らない。
遙の心をずっと縛り付けたかったから。

「Don't worry. 俺にはお前しか見えねぇよ」
「本当?」
「ああ。今日、たくさん写真撮ろうな。さっきの写真よりももっといい写真が欲しい」

額に口付けると遙は嬉しそうに微笑み頷いた。
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