世界で一番熱い夏 -4-

待ち合わせの東京駅には、約束の時間より大分早く着いた。
久々に遙のサンドイッチが食べられるのが嬉しい。
そして何より、あの二人が無事結ばれた事が嬉しかった。

政宗の誕生日の翌朝、遙から連絡をもらった時は本当にホッとした。
なかなか連絡が来ないから、もしかしたら遙はフラれたんじゃないかとか、結局勇気が出なくて告白出来なかったんじゃないかとか。
それで独りで泣いてるんじゃないかって心配だったけど。
それは杞憂だったようだ。

早く近況が聞きたかったけど、私は連絡出来なかった。
だってそんなの野暮だし。
ようやく遙と会えるのが嬉しい。
付き合い出したあの二人がどんな感じなのか興味がある。

この数日音沙汰がなかったのはきっと政宗が遙を片時も離さなかったからなんじゃないかと見当を付ける。
そこで、私は盛大に溜め息を吐きたくなった。

遙、大丈夫かなあ…。
連絡も出来ないくらいベッタリって、それって、それって……。
BASARAの政宗ってドSだから、もしかしたら……。

頭がピンク色の妄想に染まりかけて私は慌てて首をプルプルと振った。

昼間から何考えてるのやら。

はぁっとまた溜め息を吐いて視線を上げると、改札の向こう側に遙と政宗の姿が見えた。
トートバッグを政宗が肩にかけて持ち、仲良く手を繋いで歩いて来る。
遙は私が想像していたよりずっとずっと元気そうで、政宗を見上げる笑顔が輝いていて可愛らしかった。

良かった……。
一応、政宗に酷い事はされてないのね…。

遙は私に気付くと、嬉しそうに微笑み手を振った。

「あれ?美紀、早かったね!ゴメンね、急に呼び出したりして」

遙は私に小走りに駆け寄ると、にっこりと笑った。

「ううん、全然大丈夫。今日は暇してたし。遙が元気になって本当によかった」

遙の頭をよしよしと撫でると、政宗が後ろから悠然と歩いてきた。
その眉間に皴が寄っている。

「コラ、人の女に手ぇ出してんじゃねぇ!」

ちょっと、開口一番それはないんじゃない?

むっとして政宗を見上げる。

「ちょっと〜。他に言う事ないのかなぁ?久しぶり、とかさ」
「Oh〜、そう言えばそうだったな。久しぶりだな」

そう言ってわざとらしくニヤリと笑う政宗に、やっぱりこいつSだと確信する。
全く誰のお陰で結ばれたと思ってるのやら!!
こめかみに思わず青筋が出そうになる。
遙はそんな私に気付いたのか、政宗に構うことなくにこにこと私に話しかける。

「サンドイッチ作ってきたよ。あとコーヒーも。ねぇ、暑いからアイスでも買っていく?皇居外苑でのんびりしよ?」
「うん、いいね。じゃあ行こうか」

思わず癖で、遙の手を取って歩き出すと、政宗がべりっと私達を引き剥がした。

「I told you. 人の女に手ぇ出すんじゃねぇ!!遙は俺のだ!」
「ねぇ、政宗。美紀は特別だから、許してあげて?」
「特別?俺よりもか?」
「それは……」

ふと真顔になって問い詰める政宗の言葉に遙が言いよどむ。
それでも否定しないのだから、思わず嬉しくなる。

ざまぁみろ!

「政宗の特別と美紀の特別は違うもの。政宗だって……小十郎は特別でしょ?」

遙、よく言った!!

そうだそうだ!と後ろからはやし立てるように私が言うと、政宗はむっとした表情で私を睨み付けた後、遙に視線を移すと拗ねたような表情になった。

「俺は小十郎と手ぇ繋いだりしねぇ。そりゃ、餓鬼の頃は繋いでたかも知れねぇけど…」

むすっとした表情で言った台詞は予想外に可愛くて、私は思わず後ろを向いた。

その表情でその台詞は反則だよ、政宗!
やっべ!めっさ可愛い!!
ってか、これが噂の萌えってやつ!?

ダメだ、顔が笑っちまう……!

思わず小十郎の台詞が脳内でこだまする。
おかしくて噴出しそうになるのを必死に堪えるけど、にやけが止まらなかった。

政宗がやっと遙におおっぴらに愛情表現しているのが何だか嬉しくて、私はにやけた顔を何とか繕って遙の方を向くと、手をひらひらと振った。

「はいはい。遙は政宗と手ぇ繋いで歩きな」
「当たり前だ」

政宗はふんと鼻で笑うと、遙の手を取り、指を絡ませるようにして繋ぐと歩き出した。

三人でジェラートをデパ地下で買って地上に出る。
溶けてしまうので、歩きながら食べる。

「ねぇ、遙。一口頂戴」
「うん、いいよ」

遙のジェラートにかぶりつく。
やっぱり誰かと一緒に食べると分けてもらえるからお得だな、なんて思いながら政宗に視線を移すと、私を睨み付けていた。

あ、間接キスとか思って嫉妬してるんだ、きっと。

そう思うと、笑いがこみ上げてくる。
政宗が嫉妬すれば嫉妬するほど、それだけ遙にのめりこんでいるのだと思うと嬉しいし、可愛くもある。

「私も一口頂戴」

遙は政宗の視線に気付かず、いつものように私のジェラートを一口かじった。
遙は余程気を許した相手としかこうして食べ物を分け合わない。
だから、遙とこうしてアイスを一緒に食べるのは親友の証のような気がして嬉しい。
遙の目が嬉しそうに細められる。
ああ、本当に可愛いな、もう。

「そんなに遠慮しないでもっと食べなよ」

ふと、むくむくと悪戯心が湧き上がってきてそう言うと、政宗は眉間の皺を深くした。
政宗の思った通りの反応に私は笑みを深めた。

「そう?じゃあ、遠慮なく」

遙はさっきよりも思い切りよくジェラートをかじった。

「Hey, 俺にも美紀のジェラートを食わせろ」

政宗の要求に私は即答した。

「やだね!」

ふふんと鼻で笑うと、政宗はニヤリと笑った。

「あんたには聞いてねぇよ」

言うが早いか、政宗は遙に深く口付けた。

「んっ……!!」

遙が驚いて身を引こうとするのに、政宗はトートバッグをぶら下げた腕で器用に遙の頭を固定している。
遙のくぐもった声から、しっかりと舌を絡められている様子が伝わってくる。

あーあ、もう、見せ付けてくれちゃって……。
丸の内のサラリーマンとOLの視線釘付けだよ、もう。

突き刺さる視線が痛かった。
今ほど他人のふりをしたいと思った事は今までになかった。

キスを交わしながら、ちらりと横目で私の事を政宗が見る。
政宗をからかおうと思ったけど、やっぱり政宗の方が上手か。
思わず深い溜息が漏れた。

全く、してやられたよ…。

ようやく唇を離すと、遙はぼんやりと潤んだ瞳で政宗を見上げた。

「政宗……」
「美味かったぜ。美紀のジェラート」

そう言って、ニヤリと笑ってもう一度遙の唇に掠めるようなキスを落とすと、バッグを肩にかけなおし、遙の手を取って政宗は歩き出した。
その口元には満足そうな笑みが浮かんでいる。

政宗って、やっぱりドSで嫉妬深くて、それに負けず嫌いなんだ…。
分かっていたことだけど。
遙も大変な男に惚れたもんだよねぇ。

私はまた一つ溜息を吐くと、アイスをかじりながら二人の背を追いかけた。

二人は、さっき私と遙がしていたように、アイスの交換をしている。
それが、いかにもラブラブカップルという雰囲気で、甘ったるい。

遙のジェラートを政宗が一口食べて、嬉しそうに目を細める。
私の前ではあんなに生意気な笑顔しか見せないくせに。
政宗の幸せそうな笑みに何だか胸がキュンと疼いた。
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