世界で一番熱い夏 -5-

皇居外苑は一面芝生で、よく外国人が座り込んで読書をしている。
遙も家で勉強が煮詰まると、息抜きに来ているお気に入りの場所だ。

私達は木陰に腰を下ろした。
遙が政宗からバッグを受け取りサンドイッチとコーヒーを取り出す。

「はい、美紀の好きなローストビーフのサンドイッチ。もう一つはスモークチキンね」
「サンキュ!遙のサンドイッチは材料にこだわるから美味しいよね!」

ちゃんとお手拭きも用意されている。
何だか小学生の頃の遠足みたいで楽しい。

頂きますと言ってサンドイッチにかぶりつく。
肉の旨味が口の中に広がり幸せな気分になる。

「美紀が喜んでくれて良かった。美紀には本当に感謝しているの。今度もっとちゃんとお礼するね」
「気にしなくていいよ。それより、告白の事の方が聞きたいな。それでチャラにしてあげる」
「Ha!!もったいなくて聞かせられるか!」

政宗が間に入ってくる。

「え〜?別にいいじゃん。減るもんでもないし」
「ダメだ。何かが減る」

む〜っと口を尖らせると遙が小さく笑った。

「少しだけならいいでしょう?美紀には聞いてもらいたいな。というか、聞きたい事もあるし」

ダメ?と遙が小首を傾げて問うと、政宗は小さく溜め息を吐いた。

「仕方がねぇな。俺はお前に弱い。……少しだけだからな。あまり深く話したらお前の口、無理矢理塞ぐぞ」

そう言ってふいと横を向く政宗の頬に遙は軽くキスを落とした。
拗ねたようだった政宗の表情が一瞬ふわりと柔らかくなる。

ああ、政宗は本当に遙に惚れてるんだなあとしみじみ思う。

「じゃあ、結論だけ言うね。政宗から告白してくれたの」

遙は思い出しているのか、照れたような、それでいて蕩けるような甘い表情で言った。

やっぱり思った通り。
龍恋の鐘にして正解だった。
きっと政宗はあの鐘の謂れを読んで遙の意図を察したんだ。

そう思い、口許を綻ばせると、遙が私の顔を覗きこんだ。

「ねぇ、美紀。もしかして政宗に鐘の事教えた?」
「えっ!?どうして?」

私は遙の台詞に驚いた。

「やっぱり美紀じゃないよね…。不思議なんだ。政宗にフラれると思っていたから、私、あの鐘の前に行きたくなかったの。でも、政宗が私を無理矢理抱き上げてあの鐘に連れて行ったの。思い返すと、まるで鐘の事知ってたみたいで…。でも、美紀じゃないんだね…」
「だって私政宗の連絡先知らないし。遙と会ったのも、鎌倉行く前日だったでしょ?私じゃないよ」
「そうだよねえ…」

不思議そうに遙が首を傾げる。

「そこまでだ」

遙と話し込んでいるうちに、食事を終えた政宗が遙を後ろから抱き締める。

「それ以上言ったら、お前のサンドイッチ食うぞ」

遙は政宗を振り向いて笑った。

「もう言わないよ。政宗、まだお腹空いてる?」
「Ah〜、少しだけ」
「じゃあ、私の食べてもいいよ」
「お前はもう少し食べた方がいい。抱き締めたら壊れてしまうんじゃないかって心配になる」

遙を抱き締める政宗の表情は本気で心配そうだ。
抱き締める腕もそっと回されているだけ。

政宗が遙を大切にしている事が伝わってくる。
それがとても嬉しかった。

「じゃあ二口あげる。あとは頑張って食べるね」

遙がそう言うと、政宗はホッとしたように笑った。
そして、遙の持っているサンドイッチにかぶりつく。
すごく幸せそうな笑みを政宗は浮かべた。
確かに遙のサンドイッチは美味しいけど。
きっと政宗はこうして恋人らしい時間を過ごせるのが嬉しいんだ。
遙も嬉しそうに笑うと一口かじり、そして、政宗に差し出す。

甘〜い空気が流れてすっかり私は当てられてしまった。

いいなあ。
私も慶君に会いたくなってきた。
まあ、私は遙ほど恋愛体質じゃないからこんなに甘くはならないけど。

二人がちょっぴり羨ましくなった。

それでも、さっきの遙の台詞を思い出す。

遙は結局鐘に行くつもりはなかった。
きっと政宗が龍恋の鐘を知ったのは偶然だ。
しかもかなり確率の低い。
何て危ない橋を渡ったのだろう。

これからも何があるか分からない。
遙が席を外した時にでも政宗と連絡先を交換しなきゃ。
何せ、同棲しているカップルは破局する事が多いらしいから。

ようやく食べ終わった遙が私を振り向いた。

「コーヒー飲んだら、噴水公園行こう?そこでゴミ捨てたいし」
「うん、いいよ」

私達はコーヒーを飲んで、噴水公園に移動した。
結婚式場の前が、噴水とそこへ流れ込む清流になっている小さな公園で、子供やカップルがちらほらといる憩いの場だ。

「私、ゴミ捨てて、トイレに行って来るね」

遙は私と政宗様に手を振ると、のんびりと歩いて行った。

遙の後ろ姿が見えなくなってから私は政宗のシャツをくいと引いた。

「ちょっと携帯貸して」
「ァあ?何するつもりだ?」

警戒心露な政宗に真顔になって話し掛ける。

「遙にもしもの事があった時、連絡して欲しいの。政宗はこの世界の事、よく知らないでしょ?」

政宗はじっと私を見つめていたが、やがてポケットから携帯を取り出して私に差し出した。
赤外線を使って政宗の番号とアドレスを私の携帯に登録し、私のも同じように政宗の携帯に登録すると、政宗に携帯を差し出した。

「はい、登録完了。困った事があった時に連絡くれてもいいよ。力になるから」
「Thanks. ……なぁ、美紀。遙の前の男ってどんなやつだったんだ?」

政宗は今日初めて真剣な表情になって私に聞いた。

遙の元彼の事は……正直話したくない。

「あまり聞かない方がいいよ。遙に聞いてみれば?私の口からはちょっと……」
「そうか…。遙、あいつの事愛してたんだろ?写真を見た」
「そっか…。でも…すぐに気にならなくなるよ。遙、政宗といる時の方が幸せそうだもん。いっぱいラブラブしてる写真撮ってあげるから、それ見たら政宗も気にならなくなるよ。前の彼の事なんて忘れちゃいなよ」

政宗はまだ何か言いたげだったが、遙の姿を視界に捉えると、ハッとしたように私から距離を取り、遙の方に歩きだした。
私もそれを追う。

「はい、これからは自由行動。遙、カメラ貸して。私はこれからカメラマンになるから、好き勝手ラブラブしてな」

遙からカメラを受け取って二人を眺める。
初めのうちは、少し私の目を気にしていた遙だったが、政宗に抱き締められて頬にキスを落とされるとすぐに二人の世界に入って行った。
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