Breathless act.1 -5-

目当てのMen'sデパートに着き、私達は服飾売り場に向かった。
政宗は物珍しそうに周囲を睥睨する。

「へぇ、色々な服があるんだな。行こうぜ」

政宗が促すように私の背中をそっと押す。
また指先ですっと撫でられて意識が蕩けそうになった。


ここはカジュアルファッション売り場だ。
前の彼の服はどちらかというとアメリカンカジュアルの服が多かった。
政宗は一つ一つショップを眺めながら歩いていたが、やがて、濃いグレーの蛇柄のパンツをはいたマネキンの前で立ち止まった。

「coolだぜ。ここで見て行っていいか?」
「うん、いいよ」

政宗は、光沢感のある黒いパンツと先程の蛇柄のパンツを選んだ。
そしてトップスを選んでいく。
政宗が選んだのは、オリエンタルな柄のレーヨンのシャツ数枚と、黒と白のニットシャツ一枚ずつだった。
レーヨンのシャツは、よくテレビでヴィジュアル系ミュージシャンが着ているのと似ていた。

「ご試着なさいますか?」

店員がにこやかに近寄って来た。

「政宗、試着しておいでよ」
「そうだな。行ってくるか」

政宗が試着室へ消えていって、私は店内を何となく見て回っていた。

政宗ってヴィジュアル系が好みなんだ…。
私と一緒だ…。

片腿にスタッズのベルトが二本あしらわれた黒いパンツを見つけて手に取る。

政宗、こういうの似合いそう…。

「遙、どうだ?」

声をかけられて振り向くと、政宗は蛇柄のパンツに、ぴったりとした黒いニットシャツのボタンを上下二つずつ外して着ていた。
政宗の綺麗な鎖骨と腹筋がちらりとのぞいていてセクシーだ。
ぴったりとした蛇柄のパンツを難なく着こなしていて見とれる。
ボタンの開け方まで粋で、流石天下の伊達男だと思う。
まるでモデルだ。

「すごく似合ってるよ。私、気後れして政宗の隣りを歩けないかも」
「そんな事ないぜ。お前は十分綺麗で可愛い。そのパンツいいな。それも試着してくる」

政宗は再び試着室へ消えて行き、しばらくするとさっきのスタッズ付きのパンツにオリエンタルな柄のシャツを着て現われた。
一歩間違うと歌舞伎町をうろついているような人になりそうなシャツなのに、政宗はまるで芸能人のようにエレガントに着こなしていて見とれた。
政宗を見つめているとドキドキする。

「流石政宗様。なかなかそこまで着こなせる人いないと思うよ」
「そうか?お前こういうの好きか?」
「うん、大好き」

頬を染めて政宗を見上げると、政宗は嬉しそうに笑い、私の頭をそっと撫でた。

「お前にも後で気後れしないような服買ってやるよ」

ふわりと笑う政宗の後ろで店員さんが政宗に見とれていた。

「政宗、靴も試着してたんだね。それ、いいね」

スクエアカットの黒いブーツを履いている。
全身どこから見てもヴィジュアル系だ。

「靴は一足あれば十分だろ。じゃあ、これ全部」
「えっ!?」

ここはカジュアルファッションではかなり有名なセレクトショップで、一着でも相当な値段がする。
ざっと見積もると軽く10万円を超える。

不安気に政宗を見上げると、政宗は気にした様子もなく店員に声をかける。

「今着ている服と着替えたいから値札を切ってくれ。今試着したものとこれ全部買い上げだ」
「は、はい、かしこまりました!」

私はその様子をあっけに取られて見ていた。
政宗はタグを全部取らせると、会計を済ませ、再び蛇柄のパンツと黒いニットシャツに着替えて来た。
深く開いた胸元に目を奪われる。
政宗の鎖骨の上でロケットが揺れていた。

「ん?どうした?Ah…胸元が寂しいか。着物だと気にならねぇけどな。Okay。アクセサリーを買いに行くぜ」
「えっ!?まだ買うの!?」
「当たり前だ」

政宗は涼しげにニヤリと笑っている。
昨日50万円をほんの一部と言っていたくらいだから、政宗にとっては大した事ないのだろうけど。
言葉が出なくて政宗を見上げていると、政宗は荷物を持ち、私の背中を押して促した。

一歩店から外に出ると、買い物客や店員の視線が政宗に集中した。
何だか居心地が悪い。
政宗は視線に気付かないのか、満足そうに笑っていた。

「やっぱり買い物はいつの時代も楽しいぜ。ここには小十郎もいねぇし、着飾りてぇ女もいるし最高だなっ」

私は少し小十郎の気持ちが分かり同情した。
政宗様が伊達男の名の由来になった理由が、突き刺さる視線からひしひしと感じられた。

私は政宗に促されるままアクセサリー売り場にやってきた。
何だか嫌な予感がする。
確か、普通のシルバーアクセサリーに混じって、CHROME HEARTS、BLOODY MARY、LORD CAMELOTなど、高級シルバーアクセサリーが売っていたはずだ。
ショーケースを順に眺めて行くと、思った通り政宗はBLOODY MARYの前で足を止めた。

「あのロザリオいいな」

政宗が指差したロザリオを見る。
実は、以前どうしても欲しかったけど手が届かなかったアクセサリーだった。
試着はしたけど、諦めるしかなかった。
燻したシルバーと艶やかなシルバーのコンビネーションが美しい、重厚かつ優美なデザインが素敵な悪魔十字のロザリオだ。

「うん、あれいいよね。私も欲しかったんだ」
「Really?残念だったな。あれは俺のだ」
「そういうのは値段見てから言ってよ」

心配になって政宗を見上げると、政宗は気にした様子もなく店員を呼ぶと、ショーケースから出させた。
ちらりと値段を確認するが、顔色一つ変えずそれを試着する。

翼のロケットはチェーンが少し短いので、その下で悪魔十字が政宗の胸元で揺れる。

「お似合いですよ」

店員の言葉に政宗の唇の端が少し吊り上がる。

「このシャツにぴったりだぜ。遙、お前にはこういう方が似合いそうだ」

政宗は私の肩を抱き、Lord Camelotのショーケースの前に行った。
豪奢で繊細なロザリオを指差す。
中心にはガーネットがあしらわれていた。

「これも見せてくれ」
「かしこまりました」

店員が取り出したロザリオを政宗が手に取って眺める。

「お着け致しましょうか?」

政宗の荷物をちらりと見て、男性店員が愛想良く言うと政宗はギロりと睨み付けた。
店員はビクリと身体を震わせ固まった。

「いや、俺がやる」

政宗は荷物を置くと私の後ろに立った。
そして、肩にかかっている私の髪をそっと後ろに流す。
首筋を政宗の指先が触れていってゾクゾクとする。
チェーンとペンダントトップが私の前に来るようにしてそっと私の胸元にあてがうと、チェーンを持った政宗の指が触れて首筋を這い上がっていく。
先程まで忘れていた疼きがまた蘇ってくる。
頬が染まっていくのが自分でも分かった。
チェーンを留める動作にすら甘い痺れを感じてしまう。
政宗はチェーンを留めると、指先で私の項から背中にかけて撫で下ろした。

「っ……!」

店員の目もあるので声を漏らす事も出来ずに、私は息を殺した。

政宗は私を鏡の前に立たせ、後ろから私の胸元を見つめた。

「You look like an angel. 豪奢なのに繊細でお前に似合ってる」
「Lord Camelot、憧れだったんだ…。でも、政宗のペンダントも憧れだったの」
「これか?Darkでdevilみてぇだな。お前はpureでelegantな方がいい。いや、待てよ……」

政宗は艶っぽくニヤリと笑うと私の耳元に唇を寄せた。
そして喉の奥でくつくつと笑って私にだけ聞こえるように低い声で囁く。

「お前はbedの中では天使の皮を被った小悪魔だから、お前にぴったりか」

政宗の台詞に一気に頬が染まっていった。

「政宗!!」

振り返り、抗議するように手を振り上げると手首を掴まれ引き寄せられる。
そして頬に掠めるようなキスが落とされた。

「俺が帰る前に、これをお前にやるから機嫌直せよ。揃いのアクセサリーを着けるのもいいが、俺のを着けるのもいいだろう?着物には似合わねぇし」

そう言って笑う政宗は優しげだったけど。
同時に寂しそうだった。

「別れの事は考えたくないよ」

私が俯くと政宗はそっと私の頭を撫でた。

「Sorry. もう言わねぇよ」

政宗は私の額に口付けると、またショーケースを眺めた。

「指輪か…。お前の指のサイズは?」
「左手の中指しか分からない。11号だよ」
「薬指は?」
「薬指には出来ないよ。結婚している訳じゃないし。友達の前では出来るけど、実家帰ったら外さないといけないし。だから左手の薬指の指輪は買わないの」

政宗はふと思案顔になったが、やがて店員を呼んだ。

「こいつの左手の薬指のサイズを測ってくれ。それから、この指輪の11号を出してくれ」
「かしこまりました」

店員さんが私の指のサイズを測った。
9号だと聞いて、政宗が何故か嬉しそうに少しホッとしたように笑った。
Lord Camelotにしては繊細で華奢なトライバルの指輪を店員から受け取ると、政宗は私の左手の中指に嵌めた。
そして考え込むようにじっと眺める。

「この指だったら外さないで済むのか?」
「うん。多分この厚みなら実験でも大丈夫だと思う。流石に外科手術の時は外すけど、それ以外は大丈夫だよ」

政宗は尚もしばらく考えていたが、指輪を外すと店員に渡した。

「今、試着したやつ全部買い上げだ。それから、このcrossに合う短めのチェーンも。こいつが着けられるように。このまま着けて帰る」
「かしこまりました。お買い上げありがとうございます」

店員は値札を持って満面の笑みで消えて行った。

「政宗!大丈夫なの!?」
「余裕だ。まだ『今日の』持ち合わせの5分の1も使ってねぇよ。言っただろう?お前にprincess気分を味合わせてやるって」

ニヤリと笑う政宗に次元が違うと思い知らされる。

これが政宗様なんだ……。

鏡に映る自分の姿を見る。
ずっと憧れていた、洗練されたアクセサリーを身に着けて、まるで夢のようだ。
医者として働き始めるまで手が届かないと思っていた。
何だか今着ているアメリカンカジュアルには似合わない。
政宗が後ろから私を抱き締める。

「そのアクセサリーに似合う服を買いに行こうぜ。その前にformalな服も欲しいからもう少し付き合え」
「フォーマルな服?何で?」
「今日予約している店がそういう店だからだ」
「えっ!?」

私は驚いて政宗を振り返った。

「partyはまだまだこれからだぜ」

そう言って不敵に笑う政宗は、正しくBASARAの政宗だった。


ああ、これからどうなるんだろう…。


少し不安に思いつつも、政宗に振り回されるのが何だか楽しかった。



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