Breathless act.2 -2-

荷物を置きに私達はまた車に戻った。
車の後部座席には荷物が溢れ返っていた。

「もうすぐ夕方だね。一旦家に帰って出直す?」
「いや、予約した店が新宿だからな。ホテルのレストランでディナーだ。部屋も取ってあるから、シャワーを浴びて、着替えてから行こうぜ」
「えっ!?今日、泊りなの?」
「言わなかったか?」

泊るかも知れないとは言っていたけど…。
まさか本当に泊ると思っていなかったから、念のために薬と化粧品だけは持ってきたけど、下着とか持って来ていない。
それにまだ買い物を続けるのなら、ブラが欲しかった。

「政宗、あのね…」

政宗の耳元で囁く。

「下着を買いに行きたいから、ちょっと一人で買い物しててくれるかな?」
「Why?」

政宗は心外そうに私を見下ろす。

「だって、だって、女の子の下着だよ?政宗、恥ずかしくないの?女の子だらけだよ?」
「別に。他の女には興味ねぇし。どうせなら一緒に選んでやりてぇし。お前の下着を見るの、どうせ俺だけだろ?俺にも選ばせろ」

尚も渋る私の手を政宗は引いた。
そして肩を抱いて歩き出す。
このまま下着を買わずに行く事も出来ず。
私は政宗をデパートの下着売り場に連れて行く事しか出来なかった。


色とりどりの下着を見て政宗が声を上げる。

「Jesus!あんなに種類があるなんて知らなかったぜ。……今まで騙されていた気がする…」

私の下着はアウターに響きにくい、肌色の簡素な下着だったから。
政宗が責めるように私を見つめる。

「色々可愛いのもあるじゃねぇか。今日は俺が選ぶ。文句は言わせねぇ」

政宗は私の肩を抱いて店内に入った。
政宗のこの容姿だから否応なく人目を引く。
すぐに若い店員がやって来た。

「お客様、もしかして、彼女さんの勝負下着をお探しですか?」
「いや、私はTシャツブラを…」
「ああその通りだ」

答えかけた私の言葉を遮って政宗が即答する。
店員は愛想良く微笑んだ。

「当店では若い女性をターゲットに、可愛らしいものからセクシーなものまで取り揃えていますよ。カップル試着室もありますし。こちらがセクシーな下着を揃えたコーナーです。決まりましたらお声がけ下さいね」

しまった…。
若い女性向けの売り場に来てしまった。
私はシンプルな下着しか普段着けないから、政宗は物珍しそうに、そして楽しそうに下着を手に取っている。

「へぇ……。胸のレースが透けてるぜ。下も…。花の刺繍があしらわれていてエレガントだな」
「ねぇ、政宗、普通のにしよう?」
「Why?」
「だってアウターに響くから」
「これだけ薄かったら響かねぇだろ?おっ、これ、cuteだ」

真っ白いレースをふんだんにあしらったブラジャーを手に取る。
ハーフカップで、肩紐が外せるようになっていて、いわゆるウェディング用の下着のようだった。

「まるで白鳥みたいでエレガントだ。さっきのドレスに合うな。これが対のショーツか」

政宗が手にしたショーツを見る。
同じくレースが重ねられたエレガントなデザインでサイドにリボンがあしらわれている。

もしかして、これって、これって…。

私が頬を染めた瞬間、政宗はそのリボンをするりと解いた。

「ほぅ……。これ、解けるようになってるんだな。飾りかと思ったぜ。これ、可愛いな」

政宗は買い物籠に次々に下着を入れていく。

「ちょっと待って!サイズを確認しないと」

ショーツはMサイズで問題ないけど、ブラは…多分、1サイズか2サイズ上だ。

「お前の胸、これくらいだと思うけどな」

そう言って私の後ろに立つと、わたしの胸を揉み上げるようにして手を当てる。

「政宗!」

咎めるとすぐに政宗は笑いながら手を離した。

「Okay. じゃあ、賭けをしようぜ。言っとくが拒否権はなしだ。お前は普段のサイズ、俺は俺が選んだサイズ。俺が勝てば、今日のdinnerの服装と下着は俺が選ぶ、okay?」
「……いいよ。サイズなんてそうそう変わるものじゃないし。私が勝ったら?」
「俺に好きな事、要求していいぜ」
「分かった」

自分のサイズくらい把握している。
政宗ったら買いかぶりすぎだよ。
そんなに私の胸、大きくないもの。

pureでelegantかつsexyな下着を政宗は次々に籠に入れていく。
フロントホックのものが気に入ったらしい。
そして、ショーツはサイドリボンのものが多く、中にはTバックもあった。

政宗を止めようもなかったので、私はTシャツブラを探しに行き、戻ってくると、政宗は籠に5セットほど下着を入れたところだった。
そして白いシースルーのベビードールを手に取って眺めている。

「これ…夜着か?ふわふわしてcuteだぜ」
「政宗!恥ずかしいよ!」

私の胸にベビードールを当てる政宗から逃れようとすると、腕を引き寄せられた。

「勿論これも試着室してもらうぜ。一番最初にな。じゃあ行こうぜ。賭けが楽しみだなっ!」

政宗は楽しそうに笑い、私を試着室へと連れ込んだ。

少し広い試着室に二人で入る。
鍵をかけると、政宗は私の服に手をかけ、あっという間に脱がせていく。
普段肌を重ねているから今更なのに、こんなところで脱がされて恥ずかしい。
私は胸を手で覆い、壁に寄り掛かった。
不安気に政宗を見上げると、政宗は柔らかい笑みを見せた。

「別に何もしねぇよ。だからそんなに怯えるな」

頬に手を沿えて額にそっと口付けられて少し緊張が解れる。
政宗はふわふわとしたベビードールを私に着せた。
鏡を見ると、身体が透けて見えてものすごく恥ずかしかった。
胸を腕で覆って俯くと、政宗は私の腕を外した。
そのままじっと政宗が見つめる。
視線が突き刺さるようで、私はいたたまれなくなって顔を伏せた。

こんなところで襲われたらどうしよう……。

不安で不安でギュッと目を瞑ると、政宗は私をそっと抱き締めた。

「すっげぇ可愛い。お前、本当に綺麗になったな…」

愛しそうに耳元で囁かれてホッと安堵する。

「ずっとお前を眺めて抱き締めてキスしていたい」
「恥ずかしいよ…」
「恥じらうお前も可愛いぜ。嫌か…?」

そんなに優しく問い掛けられたら拒めない…。

「政宗、狡いよ…。そんな風に言われたら拒めないじゃない」

政宗はフッと笑うと掠めるようなキスを唇に落とした。

「じゃあ、あとはブラか。お前が選んだサイズから試着するか?」
「うん…。恥ずかしいから見ないでね」

縋るように見上げると、政宗は軽く両手を上げた。

「Okay. 後ろ向いてるから心配すんな」

私は政宗が後ろを向いた事を確認すると、Tシャツブラを試着した。

あれ……?

カップが小さくて胸が零れてしまう。
アンダーを緩めてみても、アンダーが緩くなるだけで、カップに押さえられた胸が零れて形が崩れる。

大きくなってる…?

「まだか?」

政宗が振り向いて私は胸を手で隠そうとしたけれど間に合わなかった。
政宗の口許にはニヤリとした笑みが浮かんでいる。

「へぇ……お前、胸、大きくなったんだな」
「ちょっときついだけだよ…」
「でも零れてるぜ。賭けはお前の負けだな」
「まだ判らないよ。政宗が選んだのがぴったりじゃなかったら引き分けだもの」
「言ったな?じゃあこれを試着してみろ」

政宗が差し出したのはオレンジのシースルーのブラ。
繊細な刺繍が施された柔らかい素材だけど、しっかりと頂きは隠れるようにデザインされている。
サイズを見るとEカップだった。
私はCとDの間だったから、流石にこれは政宗の負けだろうと少し安心して試着する。


あれ……?
丁度いい…。


緩くもきつくもない。
いつも少し中途半端なサイズで悩んでいたのでこんなにしっくりと馴染むのは初めてだった。
見た目はすごくセクシーだけど、着けてみるとエレガントだし、軽い着け心地がとてもいい。

「遙、どうした?」

私が無言で鏡を見つめていると政宗が振り向いた。

「Oh…やっぱり俺の目には狂いがなかったな。賭けは俺の勝ちだ!」
「待って!たまたまこれが小さめに作られてるだけかも知れないし。だって、私がEカップなんて有り得ない!」

私は賭けに負ける訳にはいかなかった。
確かに最近ブラが少しきついとは思っていたけど、洗濯で縮んだのかな程度にしか思っていなかった。
まさかEカップだなんて…。

アルマーニで唯一政宗に見せなかったあのドレス…。
何となく政宗が今晩の衣装にあれを選びそうだったから。
それだけは避けなければ!

「俺は別にいいぜ。どうせ全部試着したのを見たかったし」

政宗は余裕の笑みを見せるとまた後ろを向いた。

一つずつ試着していく。
政宗が選んだブラはどれも憎いくらいに身体にぴったりと馴染んだ。

茫然と鏡の中の自分を見つめると、政宗は勝ち誇ったように笑った。

「無駄だ、遙。賭けは俺の勝ちだ」

そう言って私を後ろからギュッと抱き締める。
耳元に口付けを落としながら政宗は囁いた。

「今夜は楽しいpartyになりそうだぜ」


眩しいほどの政宗の笑みが悪魔の笑みのように見えた。


下着売り場を後にした遙の表情は沈鬱だった。
深い溜め息を吐く遙に笑いが込み上げてくる。

「そんなに落ち込むなよ。ここ、ドレス以外の服も売ってるんだな。普段出かける時の服も見て行こうぜ」

遙は普段ジーンズを穿く事が多い。
だから、日焼けもしていない真っ白な綺麗な脚をしているのだろう。
でも、ひらひらとしたスカートが白い脚に似合いそうだった。
pureで涼しげなスカートとカットソーをいくつか買って、ワンピースを買い足す。

「政宗がヴィジュアル系だから、私もゴシックな服が欲しいな…」
「Gothic?」
「うん。政宗のロザリオみたいな雰囲気の。原宿に行けば売ってるんだけど」

俺は携帯の時計をちらりと見た。

「あと1時間半でタイムアップだな。明日連れて行ってやるよ」
「本当?」

遙の表情が輝く。
いつか、gothicなものが好きだと言っていた事を思い出す。
遙はふんわりとした雰囲気の服の方が似合いそうだが、そういうdarkなのが好きなのは、遙が抱えた闇のせいか。
でも、そういう雰囲気の服も似合いそうだった。


そろそろ店を出ようと、エスカレーターを下って行くと、階下に下着売り場のようなものがあった。

「あ、水着だ!今年まだ泳いでないし、水着も買ってない!ねぇ、見て行っていい?」
「水着?」
「うん、そう。前に海で見たでしょう?」

ああ、そうか、と納得する。
遙に想いを告げた日。
なんてcrazyな格好をしてるんだ、と思った事を思い出す。

「政宗とプール行きたいなぁ」
「プール?」
「うん。人工の水遊びするところ。ただ泳ぐだけじゃなくて、スライダーとか色々楽しいんだよ」

プールの事を話す遙は嬉しそうで。
無邪気な笑みを浮かべている。
つられて俺も思わず微笑んだ。

「また海に行くのもいいけどな」

笑いながら遙の頭を撫でると、遙は嬉しそうに目を細めた。

「じゃあ海も行く。政宗の水着も見て行こう?」

遙は俺の手を引いて水着売り場の中に入って行った。


水着売り場の試着室の傍を通りかかると、先程の下着のような格好の水着を着た女達が平然と鏡の前で姿を確認している。


人前でヘソ出してんじゃねぇ!
絶対に遙にはあんな真似させねぇ…!


水着を見て回るとワンピースタイプで腹が隠れるものがあった。


でも、何でこんなにサイドが深く切れ込んでんだよ!?


こんなに際どい所まで見せる気はさらさらねぇ。

Shit…!
何でどれもこれも際どいんだ!?

俺はpureかつelegantで、更に人前に出しても許容出来る水着を物色した。

「あ!政宗、いた!探したんだよ」

振り返ると遙は眩しいほどの笑顔でパタパタと近寄って来た。
俺はその姿に愕然とする。
周囲を見回すと、売り場にいる男達の視線を釘付けにしていた。

先程試着していた下着のようなあられもない姿だ。
黒い上下は、下は先程の下着と同じくらい浅く、上は豊かな胸を寄せ上げるようなデザインで、片胸には紫色の蝶が羽ばたいていた。
誰にも見せたくない細い腰はしなやかに括れていて、ヘソの形が綺麗だ。
申し訳程度に布が身体を覆っていて、まるで裸同然だ。


頭痛がしてくる…。


遙を見つめている男達を睨み付けると奴等は慌てて目を逸した。

「お前、何て格好してんだ!?」
「水着だもん。普通だよ?」
「いいから早く着替えて来い!」

先程牽制したものの、男達はまだちらりちらりと遙の事を見遣る。
以前は少し華奢過ぎて少女のような身体つきだったが、近頃やたらと色香が漂う身体つきになってきた。
なのに当人はそれに気付かず無神経だから。
そのギャップが男をそそっている事など無自覚だ。

「政宗……似合わないかな…?」

遙が少し哀しそうに俺の表情を伺う。

「やっぱり貧相な身体だから無理かな?」

いや、その逆だ。
とんでもなく似合っている。
品のいい顔立ちとなまめかしいその姿のギャップに堪らなく煽られてどうにかなりそうだった。

「……似合ってるぜ……すごく……」

ボソリと呟くと、遙は嬉しそうに顔を綻ばせた。

「良かった。少しはスタイル良くなったかな」
「お前は今のままで十分だ。……なあ、それ、買うのか?」
「うん!」

遙はさも当然というように頷く。

「見られるだろ?」
「別に水着だから大丈夫だよ」

水着と下着の違いがいまいち判らない。

俺は丁度目に入ったワンピースのような水着を手に取った。
ひらひらとした裾と胸元のデザインがgothicだった。

「人が多い所ではこういうのにしとけ」

遙に押し付けると、検分するようにじっと眺める。

「これ可愛いね。うん、じゃあこれも買う」
「これも?」

という事は今着てるのも買うつもりなのか…!?

「人気のないビーチならいいでしょう?」

遙がニッコリと笑う。


人気のないbeach……。


ふと悪戯心がむくむくと沸き上がる。

「ああ、いいぜ。じゃあ俺にも選ばせろ」
「うん?いいけど」

遙は着替えるためにまた試着室に戻って行った。
先程の上下セパレートの水着のコーナーに戻る。


下着と水着が別なら、こういうのだって有りだろ…?


胸の当て布が三角形の水着を手に取る。
背中と首の後ろでリボンを結ぶようになっている。
今の遙の身体ならば胸が下からも零れ落ちそうだ。
脱がせるのも楽そうだし。


ニヤリと笑うと、先程のワンピースの水着と籠に入れた。


遙に悟られないうちに買ってしまうに限る。
俺も水着を選ぶと、遙に見つからないうちに会計を済ませた。
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