広い脱衣所のガラス戸の向こうは浴室になっている。
石畳の洗い場に大人4人は入れる檜の大きな浴槽。
政宗も私も思わず感嘆の声を漏らした。
浴槽に温泉のお湯を注ぎながら足を洗う。
「いっそこのまま身体も洗って入っちまうか?」
肩を抱き寄せ、耳元で囁く政宗に私は首を横に振った。
「シルバーアクセサリー着けてるからダメだよ。温泉のお湯で変色しちゃう。結婚指輪は大丈夫だけど。ちゃんと準備してから入ろう?」
「勿論お前も一緒だよな?」
頬を両手で包み込んで政宗が私を真直ぐに見つめる。
政宗と一緒にお風呂に入ったのは数えるほどしかない。
あれだけ身体を重ねても、未だに何だか気恥ずかしい。
でも、折角の新婚旅行だし、部屋にこれだけ大きな浴槽が付いているんだから…。
「うん、一緒に入るよ」
消え入りそうな声で答えると政宗は嬉しそうに笑い、私の頬にキスをした。
先程私達が外出していた間に届けられたのか、部屋には数種類の浴衣が置いてあった。
政宗は迷わず濃紺の浴衣を選び、私には蒼紫色の浴衣を選び、お風呂の準備をする。
「政宗、ピアス外してあげるからこっち来て」
アクセサリーケースを開けて、政宗をそばに呼ぶ。
こうして政宗の耳にピアスホールを空けたのは2週間程前の事だ。
長いような、短いような2週間だった。
政宗と結ばれる前の10日間は辛くて長い10日間だった。
ピアスを外すと、もう傷口は塞がっていて、でもまだ柔らかくて完全に固まっていない。
この傷跡が完全に固まる頃、私は政宗と永遠に別れなければならない。
永遠に…。
じっとピアスホールを見つめていると、政宗は私の手からピアスを取り上げ、アルコール綿で消毒し、アクセサリーケースの中にしまった。
「お前のも外してやるよ」
手際よくピアスを外すと、ピアスを消毒し、私の耳も消毒する。
「あと2週間か…」
淋しそうに政宗が呟く。
隣りの政宗を見遣ると、すぐに政宗は柔らかい笑みを浮かべた。
「何でもねぇよ」
それから私達は結婚指輪以外のアクセサリーを全て外し、政宗は眼帯も外して浴室に向かった。
浴槽には丁度半分くらいお湯が溜まった所だった。
あの日、政宗と初めて出会った日のように政宗の髪を丁寧に洗う。
シャワーでコンディショナーを流すと、政宗は濡れ髪をかき上げ気持ち良さそうに微笑んだ。
「お前の髪も洗ってやるよ」
目を閉じると、政宗の長い指先がマッサージをするように私の頭を丁寧に洗っていく。
心地良さに思わず吐息が漏れた。
ゆっくりと時間をかけて髪の毛を洗って流す。
コンディショナーを付けて流すと、政宗は私の身体を手のひらでゆっくりと洗い出した。
「自分で出来るよ」
「いいからお前は座ってろ」
政宗は私の身体が逃げないように、腰に腕を回すと、首から背中にかけてゆっくりと手を滑らせる。
指先を絡めるようにして、手から腕にかけて洗うと、指先が胸元に滑っていって、堪え切れず甘い声が漏れた。
「っあっ…やっ……」
私の胸を揉み上げた政宗の左手に手を重ねても政宗は止める事なく、頂きを転がすように愛撫する。
ぬるぬるとした石鹸の感触がいつもの愛撫と違って滑らかで、いつも以上に感じてしまう。
「あ、ん、ああっ…政宗っ、ダメっ」
「そうやって啼いてるお前も可愛い。止めてやんねぇよ」
政宗は胸への愛撫をそのままに、右手を私の身体に滑らせていく。
私は背中を政宗の身体に預け、右手の人指し指を噛んで声を堪えた。
上半身を洗うと、太腿を愛撫するように政宗の手が滑っていき、身体が熱く疼いて仕方がない。
「はあっ…まさっ…むねっ…」
政宗は脚の付け根に指先を滑らせると、私の耳殻を甘噛みしながらゆっくりと愛撫した。
「っ、ダメっ、あ、ああっ!」
柔らかく花芯を摘まれて身体がびくんと跳ねる。
耳元にかかる政宗の吐息は熱く濡れていた。
「いい声だ。もっと啼けよ」
「やっ!政宗っ!はぁっ…んっ」
政宗は執拗に花芯を愛撫する。
呼吸が上がって行って、達してしまうと思ったその刹那、政宗は愛撫を止めて私をキツく抱き締めた。
二人の呼吸が重なる。
「はぁっ、はぁっ…」
甘く痺れた身体の熱のやり場を失って、濡れた吐息を吐くと、政宗は私の頬にキスをした。
「キスして」
吐息混りにねだると、政宗は私の身体を後ろに向かせ、抱き合うようにして唇を重ねた。
そっと重ねるだけじゃ足りなくて、自ら政宗の唇を求めると、政宗は甘い吐息を漏らし、少し顔を離して私を見つめた。
隻眼が熱に浮かされたように潤んでいて艶っぽい。
「俺の身体も洗ってくれよ」
私は小さく頷き、ボディソープを手に取り政宗の肌に滑らせた。
政宗に抱き着いて、背中をゆっくりと洗っていく。
政宗は気持ち良さそうに吐息を漏らした。
背中全体を洗うと、少し身体を離して、政宗の首筋から胸にかけて洗っていく。
指先が胸の突起に触れると政宗は息を呑んだ。
「っ…はっ…」
秀麗な眉が顰められ、声を堪える政宗の表情は堪らなく艶っぽかった。
男の人が感じている姿がこんなに綺麗だと思ったのは政宗が初めてだ。
いつも私は政宗に追い詰められて、その姿を見る余裕なんてないから、政宗の表情を窺うと、政宗は手の甲を顔にあてがって隠そうとする。
「あんまり見んなっ!」
「政宗ばかり狡いよ」
いつも政宗の腕の中で踊らされて、私ばかり啼かされている事を思い出して、今が逆襲のいい機会かも知れないと思う。
それに政宗が感じる顔をもっと見たい。
私は政宗の胸を愛撫しながら、もう片方の手をお腹から脇腹に滑らせていった。
「あ、おまっ…!止めっ…!」
大きく喘ぎ、浴槽に背中を預ける政宗の太腿に手のひらを滑らせる。
「身体を洗ってって言ったのは政宗でしょう?」
顔を覆っていた手を取り、指を絡ませるようにして手を繋ぐと、政宗の濡れた表情が露になった。
上気した頬。
いつもは鋭い光を湛えた隻眼は熱で潤みきっている。
喘ぎ声混りの濡れた吐息を吐きながら政宗は私を睨み付けた。
「どうなっても知らねぇからなっ…っは…」
私の手で乱されていく政宗が愛しい。
艶っぽい表情で感じている政宗をもっと乱したい。
政宗の太腿を撫で上げて、身体の中心で硬く主張している政宗のものにそっと手を伸ばし、ゆるゆると愛撫すると、政宗は繋いでいた手を離し、しがみつくように私を抱き締めた。
「ああっ…遙っ!」
首筋を晒すようにのけ反り、喘ぐ政宗は、今まで見た誰よりも艶っぽかった。
私が愛撫されているわけではないのに、私の手で乱れる政宗を見ているだけで身体が熱くなる。
胸の突起を弄りながら、政宗自身に指を絡め、焦らすように撫でると政宗は眉を顰め、切なげに喘ぐ。
「やめっ…ろっ……ああっ…焦らすんじゃねぇっ!」
「政宗、すごく綺麗だよ。気持ちいいんでしょう?もっと気持ちよくさせてあげる」
「くっ…遙っ…後悔すんなよっ」
政宗は洗面器に手を伸ばすと、温泉のお湯を汲み、私の頭の上からいきなりかけた。
「きゃっ」
もう二度かけられ、顔を拭っているとふわりと身体が浮き、いきなり政宗に下から貫かれた。
「ああっ!」
いつもより深いその角度に身体が甘く痺れる。
政宗は構わず、余韻に浸る間も与えず私を突き上げながら片腕で私の腰を激しく揺さぶる。
「優しくなんてしてやれねぇっ。覚悟しろっ!」
片手で私の乳房を持ち上げ、貪るように吸い付く。
「はぁんっ…あっ…ダメっ…そんなにされたら私っ…」
「ああ、イケよ。何度でもっ。俺の気の済むまでっ」
最奥まで貫かれたままガクガクと揺さぶられ、私はあっけなく達してしまった。
政宗はそれでも止めようとしない。
「はぁっ、やんっ、やめっ…ああっ…!」
「まだだっ!俺を満足させろよっ」
首筋に、胸に、噛み付くようなキスを落しながら、政宗は私を激しく突き上げる。
意識がまた白く弾ける。
何度も何度も高みに追いやられ、やっと政宗が満足した頃には、もう私は息も絶え絶えだった。
「政宗、酷い…。折角二人でのんびり温泉に入りたかったのに…」
「今入ってるだろ?」
私達はようやく湯船に漬かっていた。
政宗の両足の間に座るようにして、背中を政宗に預ける。
流石にさっき散々抱いた後だから、政宗もいつものようにちょっかいを出して来ない。
久々にゆったりと政宗とお風呂に入って幸せな気持ちになっていく。
私は後ろを向き、政宗と向かい合わせに座り込んだ。
政宗がそっと私を抱き寄せる。
私は政宗の逞しい胸板に身体を寄せて、政宗の頬を指先でなぞった。
「ふふっ、こうしてると何か幸せ。さっきの政宗の表情も良かったけど。女の人より艶っぽくて綺麗だなんて反則」
「お前の方がよっぽど綺麗で艶っぽい。お前に見せてやりたいぜ。今度鏡の前で抱いてやろうか?」
私は慌てて首を横に振った。
政宗はおかしそうに喉の奥で笑い、私の背中をそっと撫でる。
「お前にあんな一面があるなんてな。でも嬉しかったぜ。お前が俺を求めてくれるのは嬉しい。愛されてるって感じる。お前が相手じゃなきゃあんな事絶対に許さねぇ」
「良かった。政宗のあんな姿、誰にも見せたくないもの」
政宗の頬に口付けると、政宗は忍び笑いを漏らし、私の頭を撫でた。
「お前の独占欲って心地いいな。もっと俺だけを見て欲しくなる。だから、俺もお前にだけ俺の弱さを見せられる。お前になら負けてもいいって思えるんだ。負けず嫌いなのにな」
「私は政宗の全てが好きだよ」
そっと前髪をかき上げて右目にキスを落とすと、政宗は切なげな吐息を漏らし、私を抱き締めた。
今まで付き合った人には自分からキスしようと思った事があまりないのに、政宗とこうして抱き合うと、少しでも近くに政宗を感じたくてキスしたくなる。
でも、自分から深く重ねるキスをするのはやはり恥ずかしくて、どうしても政宗にねだってしまう。
じっと政宗を見つめると、私の思考を読んだように政宗が笑った。
「たまにはお前からしてみろよ。お前に唇を奪われてみたい。kissだけで、どれだけ俺を愛してるか伝えてみろ」
「政宗みたいに上手く出来ないよ」
「そうか?お前の唇、柔らかくて気持ちいいけどな」
親指でゆっくりと唇をなぞられて政宗に唇を奪って欲しくなる。
でも、政宗はくすりと笑うだけでそれ以上何もしてこないので、私は膝立ちになり、政宗の頭の後ろに手を添えて上を向かせた。
政宗の長い睫毛が伏せられた。
いつもと違う角度にドキドキする。
そっと重ねるだけのキスを繰り返し、そして、政宗の少し薄い唇を柔らかく食む。
政宗の柔らかな唇の感触が心地良くて愛しい。
政宗が甘い吐息を漏らし、焦れたように私を抱き寄せる。
そっと舌で唇を割り、深く唇を重ねると、政宗は強く私を抱き締め、優しく舌を絡めた。
お互いのくぐもった声が浴室に響く。
私も政宗の頭を引き寄せ、絡めた舌を吸い上げる。
少し顔を離すと、潤んだ隻眼が私を見上げた。
「お前、kissの仕方まで俺そっくりだ」
「そう?」
「ああ」
政宗は私の身体を反転させると、覆い被さるようにして私の顔を覗き込んだ。
「お前には綺麗なままでいて欲しいのに、こうして俺色に染まるのがこんなに嬉しいなんてな。遙、愛してる。もっとお前に俺を刻みたい」
今度は政宗が私の唇を奪った。
私がしたように、柔らかく唇を食み、そして深く唇を重ねる。
「俺は、お前と祝言を挙げる男に今、言葉に出来ねぇくらい嫉妬している。お前にこうして抱かれる男が心底憎い」
「私がこうして求めるのは政宗だけだよ。愛してるって伝えたいのも政宗だけ。政宗がもっと欲しい。もっと私を求めて」
吐息混りに囁くと、政宗は私を強く抱き締めた。
いくら求めても足りなくて。
私達はのぼせるまで縺れ合うように抱き合いキスを交わした。
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