鮮やかに、美しく、そして儚く -5-

化粧を済ませて政宗を探していると、政宗はプリクラの機械の前で女の子達に囲まれていた。
政宗はカッコいいから逆ナンでもされたのかと思い、少し誇らしい気持ちと、政宗は私のものなのにという苛立ちで複雑な気持ちになる。
近付きがたい雰囲気に気圧されて、少し遠くから政宗の様子を伺う。
いつもの政宗なら軽くあしらいそうなのに、かなり手こずっている事に驚く。
よく政宗の表情を窺うと、苛立ちの中に、焦りと不安の色が揺れていて、私は何となく事情を察した。
ここはゲームセンターだ。
BASARAをプレイしている女の子達がいてもおかしくない。
安易にここに寄ってしまった自分の迂闊さに自己嫌悪に陥った。
政宗を呼ぼうとして、政宗が慌てたような表情を浮かべたので、憶測は確信に変わった。
だから私は政宗を初めて呼んだ。
「Darling」と。

政宗はホッとしたような、驚いたような、嬉しそうな、複雑な表情を浮かべた。

「Honey!あんまり待たせんなよ!」
「ゴメンね!」

私は女の子達の間を擦り抜け、政宗の腕に自分の腕を絡ませて微笑んだ。

「うちの主人に何か?」

私が問いかけると、女の子達は驚いたように目を瞠った。

「えっ!?ご主人?」
「ええ。私達、新婚旅行に来ているの」

私は政宗の左手を取り、自分の左手を重ねた。
結婚指輪に気付き、女の子達が顔を見合わせる。

「すみません、ある人に似ていたので…」
「多分、人違いですよ」

にっこりと笑って言うと、女の子達は頭を下げて謝り、そそくさと去って行った。

「ほら、やっぱりBASARAの政宗のわけないじゃん。結婚指輪してたし」
「でも似てたなぁ。奥さんが羨ましい」

彼女達の会話が耳に入り、やっぱりバレそうだったのだと分かった。
政宗を見上げると、政宗はホッとしたように笑いかけ、私の頬にキスをして「Thanks」と囁いた。

「大丈夫?旅館に帰った方がいい?」

疲れたような顔をした政宗に問いかけると、政宗は何か言いたげに口を開いたが、小さく首を横に振って私を抱き寄せた。

「Darlingってやっと言ってくれたな。それから主人って…。やべぇ、スッゲェ嬉しい」
「まさむ…」

名前を呼びかけた私の唇に指を当てて政宗が制止する。

「遙、Call me darling.」
「Darling」

乞われるままに呼ぶと、政宗はそれはそれは嬉しそうに笑い、また私の頬にキスをした。

「遙、綺麗なメイクだ。プリクラ撮ろうぜ」
「えっ、でも…」
「大丈夫だ。俺達は新婚旅行に来てるんだろ?」

政宗は私の腕を引き、ブースの中に入って行った。

ブースの中に入ると、政宗はホッとしたように吐息を吐き、私を抱き締めた。

「やっぱりお前とこうして二人きりだと落ち着く」
「政宗…」
「Darlingだ」
「Darling」
「Honey…」

政宗は嬉しそうにまたキスをする。

「ねぇ、プリクラ撮るんでしょう?」
「そうだな。とびきりラブラブのやつな」
「そんなの携帯に貼れないよ」
「じゃあ、お前は欲しくないのかよ」
「……欲しい…」

政宗との写真は全部欲しい。
政宗が愛しげに私に微笑みかけている写真なら尚更。

小さな声で呟くと、政宗はニヤリと笑った。

「Okay, じゃあ絶対貼り替えろよ」
「うん…」

小銭を入れて、プリクラの機械を操作する。
全身と、バストアップの写真が撮れるものだ。

画面に自分達が移し出されると、私はピースをして微笑んだ。
政宗は私の肩を抱き寄せる。

「政宗はポーズ取らないの?」

問いかけると政宗は楽しそうに忍び笑いを漏らした。

「いや、取るぜ?」

そう言って撮影ボタンを押す。
撮影のカウントダウンが始まると、政宗は私の肩を抱き寄せ頬にキスをすると、唇を少し離しカメラに艶っぽく流し目を送った。
その瞬間、シャッターが切れる。
政宗の表情はドキッとするほど色気があった。
雑誌のモデルでもこんな表情を浮かべるのは難しいだろう。

「ちょっ、政宗!こんなプリクラ絶対貼れないよ!」
「たくさん撮ればいいのがそのうち出来るだろ。おっ、次、全身だぜ?」

政宗は私の後ろに立ち、長い腕を伸ばして撮影ボタンを押す。
またカウントダウンが始まると、私を後ろから抱き締め、私の頬に自分の頬を寄せて幸せそうに笑った。
私も甘く優しい雰囲気に包まれて、自然と顔が綻ぶ。

撮影された写真を見て満足そうに政宗が笑った。

「この写真ならいいだろ?この機械、すげぇな。お前の肌がいつもより綺麗だし、目もハッキリ撮れてる」
「政宗だっていつもよりカッコいいよ」
「そうか?もっと撮ろうぜ」

次々にフレームを選んでは、写真を撮っていく。

政宗が私の頭を撫でている写真。
抱き締めて嬉しそうに笑っている写真。
頬にキスをしている写真。
見つめ合っている写真。
そして口付けを交わしている写真。

写真を撮っては、二人で拙い愛の言葉を書き連ねて笑い合った。
小銭が尽きるまで、私達は飽きることなく、プリクラを撮った。

ハサミで切り分け、お互い財布の中にしまう。
政宗は一枚私にプリクラを差し出した。
政宗が私を抱き締め、首筋に顔を埋めて幸せそうに笑っている写真だ。

「これ、お前の携帯に貼れよ」

私の笑顔も、まるで自分じゃないみたいに眩しかった。

「うん、いいよ。でも、美紀のは剥さないよ?」
「仕方ねぇなぁ。まぁ、いいぜ。美紀はお前の特別だからな」

プリクラを携帯に貼ると、政宗は嬉しそうに笑い、私の頭をくしゃりと撫でた。

「帰るか」
「うん」

もう明日はあの旅館に帰る事もないのだと思うとものすごく寂しい。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、帰り道、政宗はずっとどこにプリクラを貼るか悩んでいて、私を笑わせた。
真剣に悩む政宗が何だかとても可愛かった。
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