鮮やかに、美しく、そして儚く -6-

旅館に戻ると私達は遅い目の食事を摂り、ゆっくりと岩風呂の貸切り温泉に入った。
日焼け止めを塗ったのにやっぱり肌が少し焼けていてひりひりする。
それでも政宗とこうしてゆったりと脚を伸ばしてお風呂に入れるのがこれで最後だと思うと、何だか離れがたくて、何度も岩に腰をかけて休憩を取りながら、のんびりと温泉に入った。

部屋の温泉に戻り、私達は時間を惜しむように、子ども時代や家族の話をお互いにした。
政宗にとって、家族の話は辛い事だから、政宗は小十郎や喜多さんや成実の話をしていた。
政宗の周囲の人の話を聞くのは何だか新鮮で、政宗の心の奥に触れた気がした。
のぼせるまでお風呂に入って、部屋で布団の上に転がりながらプリクラを並べてエルメスの手帳に挟んであるシール用のシートに貼っていく。
政宗は羨ましそうにそれを眺め、東京に帰ったら絶対に銀座のエルメスに行ってお揃いの手帳を買うと張り切っていた。

二人でしばらくプリクラを眺めていたが、やがて政宗は私を抱き締めて布団の上に転がった。
和室に浴衣姿でこうして政宗と一緒にいられるのもあと僅か。
こうして抱き締められると、ここは現代ではないような錯覚に陥る。

「蒼い浴衣もいいけど、どうせなら白い着物が良かったな…」

政宗の胸に頬を擦り寄せて言うと、政宗がフッと笑った。

「そうだな。いかにも閨に入るみてぇだもんな」
「もう!そういう意味じゃないのに」
「I know. …俺もお前を姫に迎えたかった。お前が輿入れして、祝言を挙げて。真新しい白い絹の着物で初夜を迎える。朝までゆっくりお前を愛して、お前が世継ぎを生む。そして、ずっと二人で仲睦まじく幸せに暮らしていくんだ」

ゆっくりと言葉を紡ぐ政宗は酷く寂しそうだった。
昨日までは私を連れ帰るとあんなに自信たっぷりだったのに、今の政宗は私達の別れを受け入れているようだった。

「遙、愛してる。狂おしいくらいに。お前と過ごす時間、全てが俺の宝だ。ずっとお前と一緒にいたかった。綺麗な庭を一緒に眺めたり。お前に似合う着物を一緒に選んだり。一緒に遠乗りに出かけたり。何も多くは望んじゃいねぇ。ただ、俺のそばにお前をずっと置いておきたい。望めばすぐに抱き締めて愛してると囁ける距離にお前を囲いたい。ただそれだけなのにっ」

政宗は声を震わせて私をキツく抱き締めた。

「遙、例え他の男に抱かれても、絶対に俺を忘れるな。俺がお前を愛した事も、この腕の温もりも全部忘れるな」
「政宗…」
「頼む、俺を忘れないでくれ…」

押し殺された吐息が震えている。
私の頭に顔を埋める政宗は震えていた。
額に温かい雫が伝っていき、政宗が声を殺して泣いている事を悟る。

「忘れるわけないじゃない。これだけたくさん抱き締めてくれているもの。たくさん愛してくれているもの。例え一人になっても、目を閉じれば私は思い出せるよ。政宗の腕の温もりも、優しいキスも全部。だから、最後まで私を離さないで。政宗、愛してる。私もずっと政宗のそばにいたい」
「遙…」

囁くように私の名を呼ぶと、政宗は私を抱きすくめた。

明日の出発は早いのに、私達は離れがたくて、とりとめもない話をしたり、何度も愛してると囁き合っては抱き合いキスを交わしていた。
身体は疲れ切っているのに意識を手放したくなかった。
この夢のような逃避行にまだまだ浸っていたかった。

もしかしたら、それは何かの予感だったのかも知れない。
この優しい夢が終わりを告げる事への予感だったのかも知れない。


そしてその予感は的中した。
帰りの電車を待つホームで一本の電話がかかってきた。

PS2の修理が完了したから取りに来て欲しいという内容の電話だった。


まだ心の準備なんて出来ていなかった。
まだ政宗と離れたくなかった。

神様。
私はこのまま政宗を永久に失ってしまうのですか…?


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