水族館の中はヒンヤリと涼しく、薄暗く、天井近くまであるガラスの壁の向こうで魚たちがゆっくりと泳いでいる。
鮮やかな赤い珊瑚の周りを色とりどりの魚が泳いでいる光景が美しくて息を呑む。
こんなにも煌びかやな世界が実在するなんて思ってもみなかった。
例えるなら、竹取の蓬莱山のようだ。
「南の海に潜るとこういう魚がたくさん泳いでるんだよ。まるで宝石みたい」
ライトに照らされた遙の横顔は夢見るような表情を浮かべていて、儚く美しかった。
「砂がね、珊瑚で出来ていて、星の形をしているでしょう?こんな砂浜がずっと目の前に広がっているの。政宗と行ってみたかったな…」
遙の切ない願いに何も答えられず、俺は沈黙するしかなかった。
「あ、ゴメンね。無理を言うつもりはなかったの。海に潜らないとこうして魚を見る事は出来ないから、政宗と水族館に来られただけで十分だよ」
遙は俺に寄り添い、甘えるように繋いだ手の指先をそっと絡めた。
その横顔は穏やかで美しくて、昨日までの憂いが嘘のようだ。
この空間には不思議な癒しの力がある。
海の箱庭を眺める。
ふわふわと踊るように泳ぐ綺麗な魚たちは見ていて飽きなかった。
眺めていると、心の中のわだかまりが霧散していく。
獰猛と言われている鮫もゆったりと泳ぎ、空を飛ぶようにエイが気持ちよさそうに羽ばたいていた。
ここに流れる空気は静かで穏やかでおおらかで、どこか遙の愛に似ていた。
俺達が想いを交わした時、いつもそばに海があった。
あの波の下でも、こんなに心安らぐ光景が広がっていたのだと思うと不思議な気持ちになる。
「なぁ、遙。どのくらい南に行けばこんな綺麗な海があるんだ?俺が知る限り、カラフルな魚なんて鯛と錦鯉くらいなもんだ」
城の庭を泳ぐ錦鯉も綺麗だったが、もっと重厚で、こんなに軽やかに泳ぐ魚は見た事がない。
世界をもっと知りたいと思う。
「琉球王国に行けば見られるよ」
「琉球か…」
奥州からは遠い。
毛利や長曾我部、島津を打ち破らないと辿り着けない。
すなわち天下を統一して初めて見られる光景だ。
「政宗には天下統一して欲しいな。それでね、天下人として琉球の海を見て欲しい。砂浜が白くて、海が透き通るような淡いブルーとグリーンで本当に綺麗なんだよ」
「流石に海には潜れねぇけどな」
「ふふっ、そうだね。だからここでゆっくり見て行こう。鮫もエイもゆったり泳いでいて気持ちよさそう」
遙は甘えるように俺の肩に頬を寄せた。
遙の肩を抱き寄せると嬉しそうに目を細める。
いつか天下人として見る琉球の海を夢見ながら、俺の時代では絶対見る事の出来ない海の箱庭を、俺達は飽きる事なく寄り添いながら眺めた。
いつか天下を統一して琉球に行ったら俺は思い出すだろう。
愛しいお前を腕に抱いて宝箱のような海の中をこうして眺めた事を。
どんな美しい魚よりも煌めいていた俺達の思い出の事を。
俺は決して忘れないから。
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