狂い咲き -2-

八月歌舞伎の演目を眺める。

「わぁ、連獅子だ!」

歌舞伎と言えばまずみんな連獅子とか助六を想像するんじゃないだろうか。

「連獅子?」

政宗が怪訝そうに私を見つめる。

「政宗の時代にはまだないかもね。私もよく知らないんだけど……元祖ヘッドバンギング…かな?」

連獅子といえば、本当に、かつらを着けて、頭を振るシーンしか思い付かない。
私がそう答えると、政宗は声を立てて笑った。

「へぇ、お前好みじゃねぇか。この間の夜を思い出すな。お前のhead bangingはcoolだったぜ」

恵比寿のライブハウスに一緒に行って弾けた事を思い出す。

「その事は忘れてねって言ったじゃない」

政宗に生演奏が聴きたいと乞われるままにライブハウスに行って、政宗本人よりも私の方が夢中になってしまったのだった。
政宗は楽しそうに喉の奥で笑う。

「絶対に忘れねぇよ。お前にあんなに激しい一面があるなんてな」

くすくすと笑いながら私の耳元に唇を寄せる。

(俺の上でもあんな風に激しくdanceしてくれよ)

私は耳を押さえて政宗をパッと見上げた。

「政宗っ!!」

昼間から何て事を言うんだろうと非難を込めて睨み付けても、政宗は楽しそうに笑っていた。

「ほら、列が動き出したぜ。Come on. お前の好きなhead bangingが楽しみだ」

政宗は私をからかいながら、背中に腕を回して私を促す。
何だか上手く躱されてしまったような気がする。
そんな政宗を狡いと思いながら、政宗に翻弄されるのは何だか心地よかった。




当日券は1階席を除きSold Outだった。
1階席でも構わなかったが、政宗はなるべく上の方の座席で見たいと言った。
オペラでもV.I.P席は上の方にしつらえられているのと同じなのだろうと見当を付ける。
当日券のみの幕見が4階席なので、私達は一幕だけ見る事にした。

4階席は全て自由席で、平日の昼間だというのに満席に近かった。
丁度舞台の正面に近い空席を見付けてそこに座る。

「この芝居小屋、随分デカいな。俺が見たのはせいぜい2階までだったぜ」
「うん、私も知らなかった。でも、思ったより、舞台が近いね」

丁度視界の端から端までが舞台で、全体が見渡せる絶妙の距離だ。
でも、肉眼では役者の顔が見えないかも知れない。
私は売店でオペラグラスを買って席に戻った。
政宗はパンフレットを眺めている。

「役者が野郎ばっかだ。野郎歌舞伎なんだな」
「え?歌舞伎役者はみんな男だよ?」

私が驚くと、逆に政宗の方が驚いたように目を瞠った。

「そうなのか?女歌舞伎やガキばっかりの若衆歌舞伎とかねぇのか?」
「うん、ないよ」

そんな歌舞伎があるなんて知らなかった。
政宗はしげしげとパンフレットを眺めて、呟いた。

「野郎歌舞伎か…。初めてだぜ」

口許に淡い笑みが上っているのを見て、何だか私も嬉しくなる。
初めて生で見る歌舞伎が政宗と一緒だと思うとワクワクする気持ちでいっぱいになっていった。
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