ここは、俺の城の俺の部屋だった。
「遙?」
辺りを見回しても遙の姿は見えない。
それでも俺は諦められなくて、もう一度遙の名前を呼んだ。
「遙!?」
俺の期待を裏切るように、遙の姿はどこにも現れなかった。
足元を見ると、遙がくれた風呂敷包みが転がっていた。
左の耳朶を触ると、遙が俺に着けたピアスが触れる感触がした。
なのに、遙の姿だけがどこにも見えなかった。
「遙っ……!!何で……何で、お前だけがいねぇんだっ!!遙っ!!」
喉が焼け付くように痛い。
俺は嗚咽を堪えきれずに涙を流した。
「畜生っ!!畜生っ!!」
膝を付いて、何度も何度も床を叩く。
「くっ……遙っ……!!」
ぎゅっと目を瞑ると、脳裏に浮かぶのは遙の優しい笑顔ばかりだった。
ずっと傍にいたかった。
この腕で抱き締めていたかった。
でも、遙の柔らかな温もりは、夏の陽炎のように儚く消えてしまった。
「遙……」
涙はとうに枯れ、名前を呼ぶ声は掠れ。
遙がいないという現実だけが毒のように身体を蝕んでいった。
「政宗様」
襖の向こうで俺の名前を呼ぶ、小十郎の懐かしい声がした。
「出立の準備が整いました」
「出立…?」
軽い混乱に陥る。
遙と出会う前、俺は小十郎と戦場に向かう途中だった。
俺は、一体いつの時空に戻ってきたんだ?
「皆も待っております。今こそ春日山城を攻め落としましょう」
「春日山城…」
それは、俺達が目指していた戦場だった。
俺は、少し前の時空に戻って来たらしい。
「政宗様?」
訝しげに小十郎が声を上げる。
「悪ぃ、小十郎。少しそこに控えていてくれ」
「はっ」
俺は慌てて涙の痕の残る頬を拭った。
鏡で自分の顔を確認すると、思ったより目が腫れていなくてホッとした。
目が腫れた状態でなんて、皆の前に出られるはずがない。
胸元に、遙と分かち合った片翼のロケットが揺れていた。
それを着物の下にしまいこんで、鏡を片付けると小十郎を呼んだ。
「Okay, 小十郎、入れ」
「はっ」
小十郎は襖を開けると、俺の前に控えた。
こうして小十郎に会うのは久し振りだ。
その姿も何も変わりがないのに、どこか遠い夢を見ているような気持ちだった。
「政宗様…?どこか具合でも悪いのですか?」
小十郎は気遣わしげに俺を見上げた。
「そう見えるか?」
「ええ。何か、夢でも見ているようなお顔をされておりますので。熱でもあったら大事にございます」
「いや、そんなんじゃねぇよ。長い、長い、夢を見てただけだ。まだ夢から覚めていないような気がする」
そう、あれは、甘くて切ない、長い長い夢のような生活だった。
遙は今頃、あの画面の向こうで俺を見守っていてくれるんだろうか。
俺達はまだ繋がっているんだろうか。
そう思うと、情けない姿は見せられなかった。
「小十郎」
「はっ」
「俺は天下を取るぜ。この戦、勝ち戦だ」
「はっ!」
俺は一人ではない。
小十郎や伊達軍の皆。
そして、遙がついている。
負ける気がしなかった。
「小十郎。行くぜ!」
「いいお顔をしていらっしゃいます。この小十郎の杞憂でございましたか。では参りましょう」
軍を率いて、越後へ向けて馬を走らせる。
俺は空を見上げた。
空へ願えば、遙への想いが届きそうな気がした。
「なぁ、遙。お前、そこで見てるか?俺の想い、届いてるか?俺は強くなる。いつか再び、お前に会えるその日までに。だから、ずっと見守っていてくれ。お前の想いが俺を強くするから」
愛してる…。
そう呟いた言葉は風にかき消え、一瞬だけ遙の温もりに包まれたような気配がした。
離れてしまってもこの胸に宿る炎は消せそうになかった。
温かくて。
愛しくて。
ずっと胸に抱いていたい。
だから、俺は死ねない。
二人でこれからもずっと未来を実現して行こう。
もう二度と会えなくてもずっと愛し続けるから。
お前だけを想っているから。
俺の魂が存在し続ける限り、ずっと。
Because, it's an eternal flame…。
Eternal Flame 第一部 完
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