日々の忙しさに追われている間は何も考えないで済むけれど、こうして部屋に帰って来ると、棚に立てられた写真を見てあの日々を思い出す。
政宗と交わした会話も、少しずつ記憶から薄れていくけれど、目を閉じればまだあの温もりが思い出せた。
柔らかくて、温かくて。
夏の残像のように煌めく思い出は遠ざかっても、いつまでも眩しく輝いていた。
結局私は政宗が帰ってしまった後、散々泣き疲れて、ゲームをクリアする事はなかった。
少し月日が経っても、画面の中の政宗を見たら、会いたくて堪らなくなりそうで、私はBASARAをプレイする事が出来なかった。
私はバッグを降ろし、郵便受けに入っていたチラシや新聞を無造作にテーブルの上に置いた。
山のようなチラシの間から、宅急便の不在票の端がのぞいているのを見付ける。
親から何か送って来たのだろうか。
それをつまみ上げると、差出人の意外な名前に私は目を瞠った。
そこには『伊達藤次郎』と書かれていた。
品物名は書かれていない。
もう一年も経って、私の周りで政宗の名前が出る事はほとんどなくなった。
友達がこんな冗談を仕掛けて来るなんて思えなかった。
ましてや、美紀がこんな事をするなんて考えられない。
つまり…。
これは政宗自身からの贈り物という事だ。
一体いつの間に…?
一体何を送って来たの…?
そんな疑問が胸を掠めるけれど、懐かしさと恋しさが溢れ出して、私は胸の辺りをギュッと握り締めた。
普段抑えている恋心が急に騒ぎ出す。
今でも忘れられない。
「政宗…」
そう名を呼ぶだけで、こんなにも胸が苦しい。
恋しくて、恋しくて、堪らなくて。
私は逸る気持ちで宅配便に電話をかけた。
30分ほどで荷物が届けられるという返答を聞いて電話を切る。
政宗はゲームの世界に帰ってしまったと割り切っていた。
それでも、こうしてまた私の世界への接触があると、夢のように輪郭が曖昧だった思い出が、色鮮やかに色彩を取り戻す。
政宗のしなやかな髪の感触。
笑った隻眼の優しさ。
少し唇の端をつり上げて笑う癖。
私を抱き寄せる強い腕。
一気に記憶が鮮やかに蘇り、あまりの懐かしさに胸が苦しくなる。
会いたい。
会いたくて堪らない。
もう一度強く抱き締めて欲しい。
そのハスキーな低い声で「愛してる」と囁いて欲しい。
苦しくて、苦しくて。
私は胸元のロケットを握り締めてソファに蹲った。
やがて、インターフォンが鳴って、私は足早に玄関へ向かった。
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