エピローグ -2-

「宅配便です」

チェーンをかけたままドアを開けると、ドアの隙間から、茶色い包装紙に包まれた大きな箱を抱えた宅配便のお兄さんが見えた。
チェーンを外してドアを広く開けると、私は伝票に判子を捺して荷物を受け取った。
荷物は箱の大きさに比べて軽い。

1年の時を隔てて届いた政宗からの荷物。
一体何だろう。

私は部屋に戻り、箱をテーブルの上に置いた。
伝票の文字は政宗の筆蹟ではなかった。
やはり、これは悪戯なんじゃないかという考えが脳裏を過ぎる。
でも、私の友人達の筆蹟とも違った。

ドキドキと胸が高鳴る。
逸る気持ちを抑え切れずにハサミで紐を切り、包装紙を無造作に破って包みを開けると、オレンジ色の箱が出て来た。
中央に印刷されているのはHERMESのロゴだ。
それを見た瞬間、これは紛れもなく政宗からの贈り物だと私は悟った。
こんな高価な贈り物をする人物は、私の親を除くと政宗しかいない。

どうして?
いつの間に?

元々馬具メーカーから発展したHERMESを選んだのは本当に政宗らしいと思う。
まだ政宗と幸せにウインドウショッピングをしていた日々を鮮やかに思い出す。
新宿でドレスを買った事。
ずっと欲しかったLord Camelotのペンダントを贈られた事。
政宗は贈り物だけでなく、優しさも温もりも愛も、私の欲しいもの全てを与えてくれた。
なのに、どうしてこれ以上私に与えてくれようとするの?
これ以上政宗に想われたら、許容範囲を超えてしまう。
離れてしまったというのに、あの頃と変わらない政宗の想いが伝わって来て胸が苦しくなる。

どうして。
どうして。

政宗の想いが切ないほどに痛く鋭く胸に突き刺さる。
でも、その胸の痛みは、ふわりと包み込むような甘さを伴った。

私は滲み出した涙を指で拭って、箱を開けた。

箱の中にはA4サイズのファイルが余裕で入るほど大きいバーキンが入っていた。
なかなか生産されず、手元に届くのに何ヵ月もかかると聞いた事がある。
私もこんなに大きいサイズのバーキンは見た事がない。

驚いて上品な黒いバッグを見つめると、バッグの上にHERMESのロゴの入った封筒が乗っているのに気付いた。
ギャランティーカードかとも思ったが、封筒の宛名を目にして私は息を呑んだ。

そこには筆ペンの懐かしい綺麗な筆蹟で「遙へ」と書かれていた。
封筒を手に取り裏返すと、紛れもない政宗の筆蹟で「政宗」と書かれていて、あまりの懐かしさと愛しさに涙が溢れ出す。

時を越えて政宗から届いた手紙を私は震える手で開けた。
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