Is this an illusion or the truth…? -3-

マンションに帰るとすぐに食事の支度にとりかかった。
とは言え、刺身と、水菜と大根のサラダと味噌汁だけだから至極簡単だ。
ご飯は朝の残りだ。

私が味噌汁を作っている間に、政宗が器用に大根を桂剥きにして、細く千切りにしていく。
史実の伊達政宗は料理が上手かったらしいけれど、BASARAの政宗もそうなんだ…。
水菜もざっくりと切って、大根と混ぜ合わせてガラスの器に盛る。
鯛と鰹の刺身も手際よく切っていく。
鰹を切り終わったところで、私が、鰹の下味をつけるために交代する。
ボウルの中に鰹の切り身を入れ、おろししょうがとニンニクと醤油、少量の酒とポン酢、万能ねぎに絡ませる。
水菜と大根のサラダにもポン酢をかける。
二人で盛り付けて、テーブルに料理を運んで、私たちは向かい合わせになって座った。

政宗は胡坐をかいて背筋をぴんと伸ばして座って、手を合わせてから料理に箸をつけた。
鰹を食べた政宗の顔が綻ぶ。
確か鰹は南の方で獲れるんだっけ?
ニンニクもまだ普及していなかったかな。
南蛮貿易でやっと日本に入ってくるようになったばかりだろう。
きっと食べたことのないものばかりだろうけれど、気に入ってもらえたかな?

「あんた、料理上手いな。俺も自信がある方だが、これは食べたことのない味だぜ」
「そう?気に入ってくれてよかった。流通が発達しているから、新鮮な魚が食べられるんだよ」
「やっぱり異世界ってすごいぜ…。これ、京の野菜だろ?」
「うん、そう。最近流行ってるみたい。おいしいよね」

政宗は始終感心しながら、嬉しそうに食事をする。
私はそんな政宗を見ているだけで、心が幸せな気持ちで満たされていった。
くるくると変わる表情は見ていて飽きない。
どんな表情も、格好良くて、思わず見蕩れてしまう。
胸が再びドキドキしてくる。
私は自分に言い聞かせた。
政宗はゲームの中のキャラクターだから格好いいのは当たり前。
現実にはこんなに素敵な人はいない。
そう、これは現実にはあり得ないんだから。
この整った顔立ちも。
人を魅了する甘い声も。
フッと口元に浮かべるニヒルな笑みも。
全てが完璧すぎる。
そんな政宗に惹かれるのは当然なんだけど。
でも、それはきっと錯覚。
私はすっと目を伏せ、食事に集中した。
そんな私の様子を政宗が訝しげに思っているとは知らず…。

食事を終えると私は食器を片付け、お茶を淹れると、借りてきたDVDをデッキに入れた。
興味津々の政宗に、この機械を通して、寸劇がテレビの画面で見られることを説明した。
湯飲みを持って、ソファベッドに二人で座る。
ソファの形のときは、丁度ラブソファ程度の大きさになる。
政宗と二人並んで座ると少し窮屈で、密着して座らなければならない。
それが妙にくすぐったい気持ちにさせる。
しかも、これから見るのはアメリカの恋愛映画。
わざわざ彼氏でもない男と見るものでもなかったけれど、何故か不意にどうしても見たくなってしまったから。
それは、きっと政宗と過ごしたせい。
心の中が、甘く疼いて、恋愛映画を見てほんわかしたい気分。
でも、政宗と見るのは少し気恥ずかしかった。
私はそれを隠すように、クッションを抱き締め、ソファにもたれかかった。
政宗がさり気なく肩に腕を回し、私を抱き寄せる。
まるで、政宗と付き合っているような感覚に陥ってしまう。
でも、私は、今はそれについて考えるだけの余裕も気力もなく、政宗に身体を預け、DVDを再生した。

これは初老の男女の恋愛を描いた映画だ。
普通の恋愛映画の主人公は若者だから、一風変わっていて、ずっと見たかったのだ。
本当は、アメリカで彼氏と見るつもりだった。

コミカルなタッチでストーリーは進んでいく。
男は中年の独身で、自分よりも二周り以上年下の美女としか付き合わない。
ある日、うら若い恋人の母が所有するビーチハウスに恋人と出かけると、恋人の母と鉢合わせしてしまう。
恋人の母は、離婚歴がある有名な劇作家。
彼女がこの映画のヒロインだ。
居心地の悪い思いをして帰ろうとすると、男は心臓発作を起こし、病院に運ばれる。
離婚歴のあるヒロインは、このようなタイプの男が大嫌いだが、医師の指示で仕方がなく男の面倒を見ることになる。
しかし、やがて二人は打ち解け、ヒロインは心に抱える悩みを男に相談して癒されていく。
そして、二人は一度は結ばれるが、男の安静期間が終わると、彼は去っていく。
男に未練のあるヒロインは、男が若い女性とデートしているところを目撃して、ショックを受ける。
男に詰め寄るが、男はもう終わったことだと告げるだけ。
しかし、失意の彼女を見て、男もまた胸の痛みに襲われる。
心臓発作だと思い込み、すぐに病院に行くが、心臓には異常が全く見られない。
ストレス性のものだと診断される。
やがて、紆余曲折を経て、男はヒロインを愛していることに気付く。
しかし、その時すでに彼女には新しい恋人がいて。
男はほろ苦い失恋を経験する。
だが、彼女もまた彼のことを愛しているということを悟った新しい恋人が、ヒロインを彼の元へと行かせ、二人はやっと結ばれる。

これでもかというほどに、笑いを詰め込んで、しかし、切ない恋愛模様を描いている映画に私は夢中になった。
政宗は、アメリカの開けっぴろげな性描写に少なからず驚いたようだが、ところどころ声を立てて笑っていた。


「異世界の寸劇って過激だな。まあ、面白かったぜ。それにしても、たかが恋愛で、あんなに泣いたり、心臓発作みたいに胸が痛くなるなんて俺には信じられねえな」

映画を見終わった政宗が、呟いた。

「恋はね、痛くて辛いから…」
「あんたは本気の恋をしたことがあるのか?」
「……あるよ……」

心がずきりと痛む。
きっと私の顔は醜く歪んでいる。

「そうか……」

そう呟いた政宗の表情は少し寂しげで。
寂しげなのは恋をしたことがないことが寂しいから?
私には、政宗が何故寂しそうなのかわからなかった。

私たちは順番にシャワーを浴びると、ソファをベッドの形に引き伸ばした。
政宗の布団を奥の部屋に敷こうとすると、政宗が暑いから嫌だと言う。
仕方がないので、昨日と同様、同じベッドで寝ることにした。
一応、セミダブルサイズなので、二人で寝てもそれほど窮屈ではない。
二人ともハーフパンツとTシャツの姿でベッドに横になり、とりとめもない話をした。
時折政宗が私を抱き寄せる。
その温もりがひどく私を安心させた。
勿論ときめきも感じたのだけれど、人肌の温もりの心地よさの方がはるかに凌駕した。
ゲームのキャラだけど、紛れもなく血が通っている温かさだ。
政宗とこのままずっと一緒にいたい……。
それは叶わぬことだけれど。
せめて、政宗が帰るその日まで、この温もりをずっと感じていたかった。
やがて、心地よさにまかせて、私はタバコを吸うこともなく、政宗の腕の中で眠りに落ちて行った。
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