I never wanted the stars.
Never shot for the moon.
I like the right where they are.
All I wanted was you.
So baby just turn away.
‘Cause I can’t face the truth.
All I’m trying to say is all I wanted was you.
遙への想いを断ち切ろうとすればするほど増す胸の苦しさに。
唐突にその歌が耳に飛び込んできて、俺はドキリとした。
俺が天下を取りたいのは、民のため。
それは本心から望んでいることだけれど。
遙に出会ってから。
恋に落ちてから。
ずっと思っていたこと。
もし、俺が伊達家に生まれなかったら。
平凡な男だったら。
遙と同じ時代に生まれていれば。
胸に燻る想いを抑えずに打ち明けられたのに。
俺が欲しいのは。
俺が魂の底から欲しいのは。
遙、お前の心なんだ……。
ちらりと遙を見遣ると、前方を無表情に見る遙の整った横顔が見える。
お前は一体、何を想ってこの歌を歌うんだ?
「……それが、あんたの願いなのか?」
「え……?」
少しぼんやりとしていた遙の目に色が宿る。
「家を捨てて、愛する男と一緒になりてぇのか?」
「あ……」
遙は口を閉ざし、少し眉根をきゅっと寄せた。
「言われるまで気付かなかった…。この歌、そういう風にも取れるよね。そっか……」
少し眉を顰めて思案した後に、遙はフッと表情を和らげた。
でも、その表情は、哀しそうだった。
「この歌、切ないよね。何故か好きだったんだけど。そうか、私の願望……なのかな?それとも、諦め?家を継ぐなら、必ずしも愛する人と一緒にはなれないから…。私は、そんなに大きなものを望んでいないのに。この世界が欲しいとか。もっとお金が欲しいとか。そういうのじゃなくて。好きな人と、一緒に過ごす。ただ、そんな小さな幸せで十分なのに……。でも……」
溜息を吐いた後、遙は表情を引き締めた。
「私の個人的な望みを捨てる代わりに、多くの人を救えるかも知れない。医者になるのってね、この時代、大変なんだよ。ものすごく優秀か、家がお金持ちじゃないとなれないの。人の命を救う仕事に関わりたいと思っても、みんなに平等に機会が与えられているわけではないの。私は如月家に生れ落ちたから。その機会を与えられたから。それが、強制的なものだとしても。私の手で誰かの命を救うことが出来るのなら。私自身の幸せなんて、人の命の前じゃ、とてもとても小さなものだよ。だから、もう諦めているの…」
遙の諦めが、俺の諦めに重なる。
いや、俺の場合、諦めている『つもり』なだけだ。
実際は、諦めきれていない。
諦めようとしても。
恋心を捨てようとしても。
まるでそれが魂の半身かのように。
切り離そうとすればするほど、痛みが増していく。
「でもね……」
遙の表情がふわりと甘いものになる。
あの花火の日。
遙が恋について語っていた時の表情と同じものだ。
「家を継がなければならないのは事実だけど。でも、それまでは……。束の間だけ……。精一杯恋をしたいの。もう一度……。きっと、必ず別れが来るけど。でも、もう一度、精一杯恋をして、その思い出があれば…。その思い出を一生胸に抱いて、私は過ごすの。多くは望まないけれど、それだけ…。例え添い遂げられなくても。人の心は自由だから…。想い続けるのは自由だから……」
甘く歌うように言う遙の表情は……。
恋をする女の表情だ……。
想い続けるのは自由……。
俺も、遙を想い続けるのは自由……?
でも、俺には、遙を想いながら、姫を娶って子をもうけることなど出来ないように思えた。
遙の面影を忘れたくないから。
その仕草を、甘い声を。
全ての女を遠ざけて、遙の面影にだけ浸っていたい。
遙の記憶を塗り替えられたくない。
遙……。
お前は、それほどまでにその男を愛しながら、他の男に抱かれるのか?
お前はそれでいいのか……?
「あんた……恋をしてるんだな。前の男か?」
俺と出会って間もない頃。
前の男を想って遙は泣いていた。
『もう一度』という言葉が気になったが、遙がそこまで想いを寄せるのはその男しか思いつかなかった。
もしくは、遙が『龍恋の鐘』に一緒に行こうと思っている男か……。
「ううん、今は別の人。情が薄いって…。気まぐれだって思う?あんなに前の彼のことが好きだったのに」
遙は寂しそうに笑って、ちらりと俺を見た。
やはりと思うと同時に。
遙から最終宣告を受けた気持ちになる。
心の底が、冷たく、重たく、凝り固まっていく。
深い溜息が漏れそうになるのを、息を堪えて何とかやり過ごした。
遙が幸せになれるのであれば。
例えそれが俺ではなくても。
笑っていて欲しいから。
俺は遙の幸せを望んでいるから。
笑って祝福してやれ。
俺は独眼竜政宗だ。
幾度も修羅場をくぐりぬけ、狸たちと化かし合いをしてきたじゃねぇか。
笑え。
これくらいのこと、出来るだろう、俺は?
Take it easy.
俺は、聞こえないように溜息を吐くと、口元を綻ばせてニヤリと笑った。
「いや、そうは思わねぇ。あんたの想い……その男に届くといいな」
大丈夫だ。
俺は上手く笑えているはずだ。
戦で最悪の状況でも笑っているように。
遙は軽く目を瞠って。
眩しそうに切なそうに俺を見つめた後。
ありがとうと言った。
胸が張り裂けそうなほどに苦しい。
こんなに近くにいるのに。
その心に触れられない。
遙は、永遠に俺のものにはならない。
その事実を突きつけられたのに。
俺はまだ諦め切れなくて。
何て往生際が悪いんだと内心悪態を吐きながら。
届かない想いだと知っているのに。
抑えきれずに愛し続けた。
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