Cendrillon -4-

恥ずかしくて、政宗の手をぎゅっと握れなくて。
私は、海側を歩く政宗から視線を外した。
国道沿いに、点々とホテルのネオンが煌いているのを見て、どうしようもなく恥ずかしくなる。
こういったホテルには行ったことがないから。
深夜番組で、その実態などを見たときびっくりしてしまって、思わずチャンネルを変えてしまったことがある。
泊まる予定なんてなかったから、勿論予約なんてしていない。
すると、予約無しで泊まれるところなんて限られている。

なるべく装飾がおとなしくてシックなところにしよう…。

しばらく歩くと、南国風の概観で、まるでバリ島のリゾートにありそうな感じのホテルがあった。
休憩○千円って書いてあるから、一般のホテルではないはずだ。
新宿のネオン街にあるようなホテルとは違うその佇まいに、私は少し安心した。

「政宗、あそこに泊まろう」
「ああ、いいぜ」

政宗の手を引いて、道路を渡る。
ホテルのエントランスは、高級マンションの入り口のようで、私はホッと安心した。
中に入ると、部屋の写真が載っているパネルがある。
パネルにはボタンがついていて、部屋を選ぶことが出来るようだ。

「Ocean viewの部屋がいいな」
「お前の好きな部屋を選ぶといい」

私は、木材とオフホワイトの内装を基調とした、海沿いの部屋を選んだ。
ビジネスホテルと変わらない内装にホッとする。
機械が打ち出した伝票を受け取り、私達は部屋に向かった。

ただ泊まるだけなのに。
もうすでに一緒に暮らしているから、普段と変わりないはずなのに。
今までみたいに政宗の腕の中で眠るだけなのに。
どうしようもなくドキドキとして。
私は、部屋に着くまで政宗と言葉を交わすことが出来なかった。


ドアを開けると、まるで普通のマンションのようだった。
家に帰って来たような錯覚を覚えて、少し緊張が解ける。
その奥のドアを開けると、広いリビングのようになっていて、奥に大きなキングサイズのベッドがある。
床は、淡い茶色のフローリングで。
オフホワイトのソファの前にはバリ風の濃い茶色のテーブルがあり。
大きなハイビジョンテレビが置いてある。
その両脇はサイドボードのようになっていて、コーヒーカップなどが並んでいる。

ビジネスホテルよりも余程整った設備に、私は驚いた。
まるで、自分の部屋とほとんど同じだ。

「へぇ、いい部屋じゃねぇか。お前の部屋と似ているな」

政宗は部屋を見渡して、そして、ソファに身を沈めた。
私は、窓のカーテンを開けて外を見る。
窓の外は漆黒の闇で、かすかに下の方から明かりの照り返しが見えるだけ。

「海、見えないね」
「夜だからな。遙、come here」

ソファの脇に立った私の腕を政宗が引く。
殊の外、強く腕を引かれて私はバランスを崩し。
政宗は私の腰に腕を回して抱き寄せ、私を膝の上に抱いた。

片腕で私の背を支え、ゆっくりと私の髪を梳きながら、政宗が私をじっと見つめる。
その視線が優しくて。甘くて。
政宗の視線に絡め取られたように私も政宗を見つめ返した。

髪をゆっくりと梳いていた手が、耳の後ろをそっと撫で。
指先で私の頬をなぞっていく。
そして、親指でゆっくりと私の唇をなぞり、政宗は目を細めた。

「こうしてお前に触れられることがまだ信じられねぇ」

政宗はそっと私の額に口付けを落とした。
それが瞼に落ち。
頬に落ち。
そして、そっと唇が重ねられた。

今日、何度もこうして唇を重ねたのに。
ずっと私は人目を気にしていて。
政宗の温もりに溺れきることが出来なかったから。
やっと二人きりになれて。
甘い幸福感に胸が満たされていって。
私も政宗のキスに応える。

そっと啄ばむような気怠い口付けに、身体が蕩けていく。
時折、唇を少し離しては、吐息のかかる距離で何度も『愛している』と囁かれ。
胸の奥が、甘く疼く。

静かな部屋の中。
政宗の低く甘い声だけに。
柔らかな唇の感触だけに。
五感が支配されていく。


このままずっと政宗だけを感じていたい……。


蕩けきった身体を政宗に委ね。
甘い口付けに酔い痴れていると。
ずっと幾度も幾度も唇に落とされていた口付けが顎に落ち。
そっと上を向かされると、首筋にキスが落とされた。

「あっ……ゃ……」

ぞくりと肌が粟立ち、私は政宗の腕の中で震えた。

そっと触れるだけなのに。
羽毛で撫でられるような感覚に、微電流が走るような感覚が身体を走り抜け。
身体の中心に熱が集中する。
その熱があまりに熱くて。
身体の中で暴れ、逃げ道を探している。
堪えようと思うのに、堪えきれずあられもない声が出てしまいそうで、私は政宗を押しとどめた。

「ダメっ!……はぁっ……」

政宗がハッとしたように私の首筋から顔を離す。

「Ah……悪ぃ……」

すまなそうに目を伏せた政宗の首に、私は両腕を回して息を整えながら抱きついた。

「ううん、謝らないで。まだ心の準備が……」
「そうか……」
「シャワー浴びてきてもいいかな?潮でベタベタだから」
「あ、ああ。いいぜ」

私は政宗の腕の中から抜け出し、政宗の頬に軽くキスを落とすとバスルームへ向かった。
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