そして、幾度目とも知れない溜息を吐く。
以前、遙の笑顔が消えたのは、俺が遙に触れなくなってから。
あの時は、遙をただ抱き締めることはもう出来ないと思ったから。
これからは、遙は俺の腕の中でずっと微笑んでいてくれるのか……?
いや……。
今の俺と遙は……。
Kissを交わせる以外、何も状況は変わっていないような気がする。
口付けを交わしたら、それ以上を望んでしまうのに。
胸の奥で燻り続けている火が燃え上がり。
情欲のままに奪ってしまいたくなる。
今まで女を抱いてきたように。
今までしてきたのと同じような手順を無意識のうちに踏んでしまう自分に嫌気が差す。
違う。
遙は俺の特別なんだ。
乱れさせてその痴態を冷めた目で愉しむのではなく。
肌を重ねて温もりを分かち合って愛を確かめ合いたい。
俺だけを見つめて、微笑んで欲しいんだ。
でも、俺にはどうすればいいのか分からない。
どうすれば、俺が遙を愛していると伝えられるのか分からない。
愛していると何度囁いても。
胸の奥から愛しさが溢れ出し。
何度囁いても飽き足らない。
到底この想いを伝えられない。
愛を囁けば囁くほど。
遙がもっと欲しくなって。
触れたくて。
遙の全てが欲しくて。
我を忘れてしまう。
俺は、遙を大切に出来るのだろうか……。
遙を怖がらせたくない。
ただこの腕の中に抱いて。
温もりを感じていたいだけなのに。
「Sigh……」
また溜息が一つ漏れる。
がちゃりとバスルームのドアが開く音がして、俺はそちらに目をやった。
白いバスローブに身を包んだ遙がまだ濡れた髪をタオルで拭いている。
「遅くなってごめんね。政宗もシャワー浴びて来る?奥州と違って暑かったから、汗かいたでしょう?」
「ああ、そうだな」
「はい、タオルとバスローブ」
「Thanks」
浴室に入ると、俺は冷水のシャワーを浴びた。
少し頭を冷やした方がいい。
潮風に晒されて、じりじりと焼かれて火照っていた肌に冷たいシャワーが心地よい。
それでも、胸の奥で燻り続けている火は消せそうになかった。
遙の温もりを思い出すと、また劣情がふつふつと沸いてくる。
俺は舌打ちをし、スポンジでごしごしと身体を洗った。
洗い流せるものならば、この穢れた想いも一緒に洗い流したかった。
髪を洗い、濡れ髪をかき上げて、鏡に映った己の姿を見る。
右目は虚ろな空洞を埋めるかのように、肉が盛り上がっている。
その皮膚は、とても薄く、時折疼く。
母上に、忌み嫌われたこの右目……。
これのせいで俺は母上の愛情を永遠に失ってしまった。
遙には嫌われたくない…。
俺は丁寧に顔を清めると、再び眼帯をして、浴室を後にした。
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