白いバスローブを身に纏い、胸元を片手できゅっと握り締め、座っている様子は。
まるで初夜を共にすることに不安を隠せない姫のようだった。
初夜と思い当たって、遙の緊張が俺にも伝染する。
俺は思わず立ち止まり、息を詰めて遙を見つめた。
女を抱くのなんて、初めてではないのに。
いや、今から遙を抱くというわけでもないのに。
どうしようもなく、恥ずかしさがこみ上げてきて。
胸の奥がくすぐったくなって。
照れる。
頬に血がさっと上っていくのを感じる。
俺の気配を感じると、遙ははっとしたように顔を上げた。
「政宗……あのね……」
遙は言いよどみ、そして、また俯いた。
その頬がほんのりと桜色に染まっている。
遙は、まさか……。
いや、早まるな。
期待すればするほど、裏切られた時のショックが大きいことなんて分かりきっているじゃねぇか。
煩いくらいにドキドキと脈打つ心臓に内心舌打ちをしながら、俺は笑顔を浮かべ、遙の前に座った。
そして、遙の頬に手を添えて顔を上げさせる。
「どうした?」
「私……」
遙は躊躇うように、目を伏せて唇を震わせた後。
再び俺を真っ直ぐに見つめると、恥らうように途切れ途切れに囁いた。
「心も……この身体も……政宗のものにして欲しいの……」
遙の言ったことがすぐには理解出来なくて。
いや、信じられなくて。
きっと拒まれるという不安が心に根を張っていたから。
俺は思わず目を瞠って遙を見つめた。
遙は一層頬を染めると、俺の背に腕を回し、紅く染まった顔を隠すようにして俺の胸に顔を埋める。
「私たちに残された時間は少ないから。迷ってちゃダメだって思ったの。恥ずかしいけど。怖いけど。でも、私、政宗のものになりたい……」
遙の言葉が少しずつ胸の奥に浸透していく。
言い表せないほどの歓喜と愛しさで。
胸が満たされていく。
遙の身も心も俺のものになる……。
「遙……」
頬に手を添えてそっと上を向かせると、遙の視線とかち合う。
遙の表情は緊張で強張っている。
その緊張が俺にも伝染する。
今までの女とは違う。
戯れに欲望のままに抱いてはならない。
大切にしたいから。
なのに気持ちは逸るばかりで。
内心舌打ちをする。
心臓は早鐘のように脈打ち。
遙の頬に添えた手が微かに震える。
俺はそれを隠すように遙を抱き寄せ、唇を重ねた。
今日、何度も唇をこうして重ねてきたのに。
あれほど焦がれてきた遙を俺のものに出来ると思うと。
柄にもなく緊張してしまう。
初めて俺が女を抱いた時と比べ物にならないほどに。
欲情のままに穢したくなくて。
そっと触れるだけの口付けを繰り返す。
僅かに唇が離れた時に漏れた吐息が震えているのが自分でも分かった。
遙は、俺の頬に手を沿え、少し唇を離すと、怪訝そうに俺を見つめた。
この動揺が遙にも伝わってしまったと思うと、羞恥で頬が染まっていく。
「笑うなよ…?」
遙は小首を傾げた後、こくりと頷いた。
「緊張してるんだ。お前が大切だから。欲情のまま穢したくない」
微かに目を瞠ると、遙はふわりと甘く微笑んだ。
「いいよ、政宗なら」
「ダメだ。俺が嫌なんだ。他の女を抱いたみてぇに、お前を抱きたくないんだ。I wanna cherish you. (お前を愛しみたい)」
じっと 遙を見つめると、遙は蕩けるような甘い笑みを浮かべ、額をこつんと俺の額につけた。
「政宗……嬉しい……。愛してる……」
「俺もだ、遙……」
遙がそっと俺の首を引き寄せ、kissをねだる。
唇を軽く触れ合わせ、柔らかな唇をそっと食むと、遙の唇から甘い溜息が漏れる。
時折僅かに唇を離して、遙の表情を窺うと、甘くうっとりとした表情をしている。
こんなに幸せそうな遙の表情が、俺に向けられていることが堪らなく嬉しくて。
この気怠く、優しい時間が永遠に続けばいいと願ってしまう。
俺は遙に口付けながら、ゆっくりと押し倒し、遙に覆いかぶさった。
髪に指を差し入れ、親指でそっと頬を撫で、唇を離して見詰め合う。
言葉にしているわけではないのに。
遙の少し目が細められた、幸せそうな甘い視線から、遙が俺のことを想ってくれていることが伝わってくる。
人に、こんなに愛されたのは初めてのような気がする。
情欲に濡れた視線ではなく。
見つめているだけで、心の中が甘酸っぱい幸せな気持ちでいっぱいになっていくような。
部屋の空気が濃密になったような気さえする。
それは酷く甘くて。
触れているだけで、心が満たされていくようだ。
「政宗…。私、今、とても幸せだよ。言葉に出来ないくらい。政宗の愛に包まれてるって感じるの。心の中が甘く蕩けそうで…。こんな気持ち、初めてだよ」
「俺もだ。お前が愛しくて。お前のその幸せそうな甘い視線を俺だけに向けて欲しいと、ずっと願っていた」
どちらからともなく、再び唇を重ね、お互いの唇を柔らかく食む。
遙の温もりをもっと感じたくて。
肌を重ねて、温もりを分かち合いたくて。
Kissを交わしながら、俺は自身のバスローブを肌蹴させた。
遙の身体が一瞬強張る。
「嫌なら、止める」
遙の耳元でそう囁くと、遙はふるふると首を横に振った。
「止めないで…。私も政宗の温もりがもっと欲しい…」
遙のバスローブに手をかけ、肌の上に手を滑らせるようにして肌蹴させると、遙は頬を染め、恥らうように顔を背けた。
柔らかなオレンジ色の光に照らされた、遙の白い肢体は美しかった。
「あまり…見ないで……」
胸を隠そうとする遙の手を取り、その腕からバスローブを抜き取り、下着を脱がせて生まれたままの姿にさせると、俺はそっと遙を抱き締めた。
布越しでない、直接伝わる肌の温かさに、言いようのない安らぎが胸の奥に広がっていく。
遙の口から甘い溜息が漏れた。
「政宗の身体、温かい……。もっとぎゅっとして……」
俺の首に両腕を回して、ねだる遙が可愛くて。愛しくて。
俺は遙をきつく抱き締めた。
思わず俺の口からも溜息が漏れる。
幸せすぎて溜息が漏れるなんて知らなかった。
溜息なんて、疲れた時ややりきれない時にしか漏れないものだとばかり思っていた。
しばらく抱き合った後、少し身体を離すと、俺は吐息のかかる距離で遙を見つめた。
遙は愛しそうに俺を見つめ返し。
そっと俺の髪を撫でる。
その感触が心地よくて、目を閉じる。
遙はそのまま手を俺の後頭部に滑らせると、そっと俺を引き寄せた。
二人の唇がまた重なる。
そっと食むような柔らかな口付けを交わしながら、ゆっくりと手を遙の肌の上に滑らせていく。
しっとりとしたきめ細かい肌は触れているだけで心地よくて。
何度もゆっくりと、遙の柔らかな身体を愛撫する。
kissの合間に漏れる溜息は甘くて。
愛しくなって、頬に口付けの雨を降らせる。
「はぁっ……ん……政宗……」
首に回されていた遙の手が外され、俺の背を抱き締める。
そして、ゆっくりと俺の肌の上を滑っていく。
官能的というよりも、俺の体温を、肌の感触を確かめるようなその動きから、遙が俺を愛しく思ってくれていることが伝わってきて、胸の奥がふわりと温かくなる。
ぞくぞくするというよりも、ただ心地よくて。
熱い想いが、胸の奥から溢れ出し、身体まで熱くなる。
異国語では性行為のことを「make love」というが、俺は今まで本当の意味で「make love」をしたことがなかったのだと気付かされる。
触れられているだけで。
触れるだけで。
ただ幸せで。
愛しくて。
いつまでもこうして触れ合っていたい。
触れ合うことがあまりに気持ちよくて。
もっとお互いを感じたくて。
お互いに、段々と愛撫が激しくなっていく。
そっと重ねられていた唇は、より深く重ねられ。
溜息とも喘ぎ声ともつかない吐息が漏れ。
身体の中心に熱が高まっていく。
遙の太腿を撫で上げ、そっと茂みを掻き分けると、そこは蜜でたっぷりと濡れていた。
遙は睫を震わせ、恥ずかしそうに顔を背ける。
情欲を掻き立てるような抱き方をしていたわけではないのに。
俺を感じている遙が愛しくて。
頬に口付けを落とす。
「男に抱かれるのは初めてか?」
遙が初めてなら、きっとすぐには俺を受け入れられないから。
そう問うと、遙は少し哀しそうな表情でふるふると首を横に振った。
「ううん。初めてじゃない……。ごめんね……」
「いや、謝る必要はねぇ。正直、お前の初めての男に妬けるが、お前は俺にお前の心をくれたから。だから、それでいい」
「でも……。あまり、抱かれたことがないから……。ちょっと怖い……」
「No worries. 優しくしてやる」
不安そうに視線を彷徨わせた遙の額にそっと口付けると、指に蜜を絡め、そっと花弁から花芯にかけて愛撫する。
「あっ……!!」
甘い喘ぎ声に驚いたように遙は目を瞠った後、恥ずかしそうに睫を伏せ、顔を背けて震えた。
その姿があまりに扇情的で、胸がドキリとして思わず食い入るように見つめてしまう。
「あんっ……お願い……っ……そんなに見ないでっ……」
片手で顔を覆うようにして、喘ぎながら懇願する姿は、今まで抱いてきたどの女よりも艶っぽくて。
今すぐにでも繋がりたい思いに駆られる。
でも、遙を怖がらせたくない……。
「As you wish. こうしてたら、見えねぇよ」
俺は、遙の首筋に顔を埋め、そっと口付けた。
溜息とも嬌声ともつかない吐息が遙の口から漏れる。
ゆっくりと花芯を撫でていた指を下方へずらし、花弁を掻き分け、蜜壷の中に沈めていこうとすると、遙の身体に緊張が走った。
「……っつ……!!」
身体をびくりと震わせ、遙は肩で息をしている。
「痛かったか?」
「ん、少し……」
「Sorry……」
痛みに耐える遙に、悪いとは思いつつも、まるで、処女のような反応をすることが嬉しくて。
まるで、誰にも踏み荒らされていない真っ白な雪景色のようで。
遙が愛しくて堪らない。
少しずつ、本当に少しずつ、ゆっくりと解すように指を奥へ進めていく。
狭い体内が収縮して、指をきゅっと締め付ける。
「遙、力を抜いてくれ、please……。お前を傷つけたくないんだ」
「んっ、でもっ……!」
眉根を寄せて震える遙のこめかみに、頬に、首筋に、触れるだけの優しいkissを落としていく。
「ぁ……はぁん……」
緊張して強張っていた身体から少しずつ力が抜けていく。
羞恥に染まり、強張っていた表情も、少しずつ和らぎ、再び甘い吐息を漏らす。
きゅっと締め付けていた体内が、少し弛緩したので、俺はゆっくりと更に奥まで指を進めた。
指の根元まで入ると、遙は切なげな溜息を吐き、白い喉を露にしてのけぞると、俺の背中に腕を回し、そして、堪えるように俺の背に爪を立てる。
「はぁっ……んっ……はぁっ、はぁっ……」
「辛いか?」
遙は薄っすらと頬を染めて、ふるふると首を横に振った。
「はぁっ……違うのっ……こんなの初めてで……はぁん……」
戸惑ったように俺を見つめる遙の視線は熱で潤みきっていて。
愛しくて堪らない。
「まだ、狭いからな。少し慣らさないと、 遙が辛くなる。でも、嫌だったら言えよ?すぐに止めるから」
「大丈夫…。私、政宗と一つになりたいから……」
「遙っ!!」
『一つになりたい……』
それは俺がずっと願っていたこと。
でも、そうしたら、遙を穢してしまうのでは、とずっと恐れていた。
遙の決意が嬉しくて。
愛しさがこみ上げてきて言葉にならない。
俺は、衝動的に遙の唇を奪った。
遙も焦がれていたかのように、俺のkissに応える。
激しい口付けを交わしながら、遙の体内を少しずつ解していくと、遙の口から甘い溜息が漏れ、びくりと身体を震わせる。
奥の方をゆっくりと掻き分けるように解していくと、遙の呼吸は段々と荒くなり、俺にしがみついて震える。
「政宗っ!!ああっ…はぁっ…お願い…もう、もう……」
「遙…。力抜いて、楽にしてろ」
「でもっ……でもっ……!!ああっ!!ダメ!!」
最後の言葉は、予期せぬ拒絶の言葉。
俺は、ハッとして、遙の身体の中から指を抜いた。
「Ah……sorry。嫌な思いをさせるつもりはなかった……」
沈んだ声で目を伏せて言うと、遙は俺の頬を両手で包んだ。
「あ、ごめん…。そういう意味じゃなくて……」
遙は困ったように、俺の瞳を覗き込んで言った後、ほんのりと頬を染めた。
「そういう意味じゃなくてね……」
そして、紅く染まった頬を隠すように、俺の頭を引き寄せて、耳元に唇を寄せると、 遙は囁いた。
「I wanna come with you…。(貴方とイきたいの……。)初めての夜だから。一度しかない夜だから。だから……」
遙は恥ずかしそうに、俺の肩口に顔を埋めて言葉を切る。
俺は遙の髪をそっと撫で、そして頬に手を添えて俺の方を向かせると、そっと口付けた。
「わかった…。俺も、お前が欲しい…」
頬を指先でなぞりながら、じっとお互い見つめ合う。
絡み合った視線は、甘く、熱く。
お互い魅入られたように見つめあった後、どちらからともなく深く唇を重ねた。
しおりを挟む
top