KOOL -4-

アラームの音で目が覚めて、身じろぎをすると、ぎゅっと政宗の腕が身体に絡みついた。
政宗は深い寝息を立てて眠っている。
初めて出会った時、私の気配を感じただけで起きてしまった政宗がこんなに安心しきった表情で眠っているのが嬉しくて。
私にすっかり心を許してくれているのが嬉しくて。
私は政宗を抱き締めた。

こうして抱き締めると、政宗と心も身体も結ばれたのだと実感する。

アラームを止めようと、身体を起こそうとすると、政宗がむずがるように軽く唸りながらますます私を強く抱き締める。
ぎゅっと目を瞑った後に、政宗は薄っすらと目を開けた。

「政宗おはよう」

軽く唇にキスを落とすと、嬉しそうに政宗は口元を綻ばせる。

「アラーム止めていい?」
「Ah…悪ぃ、気付かなかった」

枕元に置いてあった政宗の携帯のアラームを止めると、私は、シーツを身体に纏わせて身体を起こした。

「お風呂、沸かしてくるね」
「All right」

バスローブを羽織り、大きなバスタブにお湯を注ぐと、私は部屋に戻った。
そして、バッグの中から携帯を取り出して、美紀にメールをした。

『美紀。私の背中を押してくれてありがとう。政宗に、私の想い、伝わったよ。今度お礼するね』

送信して、バッグに携帯を戻そうとすると、昨日までは入っていなかった、メモが、折りたたまれて私のバッグの中に入っている。
そのメモを開いてみると、楷書を少し崩した文字で和歌が書かれていた。


『上野(かみつけ)の 阿蘇のまそむら かき抱き 寝(ぬ)れど飽かぬを 何(あ)どか吾(あ)がせむ』


政宗の字だ。
とても綺麗で、伸びやかで。
こんなただの変哲もない、どこにでもあるメモ用紙なのに。
その字の配置や、文字の大きさに趣向が凝らされている。

上二句の意味はよく分からない。
きっと枕詞だろうか。

『かき抱き 寝れど飽かぬを 何どか吾がせむ』

胸がドキドキとして、頬に血が上っていく。
だって、だって、これって……。


いくらお前をかき抱いても。
いくらお前と寝ても。
全然足りねぇんだ。
俺は一体どうすればいい?


ものすごく情熱的な歌だ。
政宗が私を欲してくれていることが痛いほど伝わってくる。
後朝の歌って平安時代だけのものだと思っていたけれど、政宗もこういう歌を贈るんだ…。

政宗を振り返ると、少し困ったように笑っていた。

「本当は、お前に似合う、綺麗な紙に書いて贈りたかったんだけどな。遙、come here」

政宗の文をバッグにしまい、ベッドの上に上がると、政宗は長い腕を伸ばして私を引き寄せた。

「いくら抱いても足りねぇんだ。この気持ちをどうお前に伝えていいのかわからねぇ。お前にずっと触れていたい」

政宗が私の首筋に顔を埋め、囁く。
熱い吐息が首筋を掠め、身体の芯が熱くなっていく。
政宗の大きな手のひらが背中をゆっくりと滑っていく。
そのあまりの心地よさに思わず吐息が漏れる。

「ダメだよ、政宗。私達、もうすぐここを出なきゃいけないんだから」
「風呂が沸くまでなら構わねぇだろ?」

吐息のかかる距離で囁く政宗の表情は少し拗ねたようで、まるでおねだりをしている子供のようだった。
少し可愛らしくて、胸がきゅんと疼く。
そんな表情で言われて拒めるはずがない。

「……少しだけなら……」

恥ずかしくて、目を逸らして答えると、政宗は軽く唇にキスを落とすと、唇を、頬に、首筋に這わせていく。
優しい柔らかな唇の感触に、身体の力が抜けそうで、政宗にぎゅっとしがみつく。
政宗は、私の耳の後ろに口付けると、低い声で囁いた。

「本当はな、後朝の歌、もう一つと迷った」
「え?」

私のバスローブを肌蹴させながら、政宗は続ける。

「逢ひみての 後の心に比ぶれば 昔はものを想はざりけり。どうしようもないほどお前に惹かれていたけれど。愛していたと思っていたけれど。こうして肌を重ねると、あの時抱いていた想いなんて比べ物にならねぇ。お前に触れると愛しさが溢れ出して狂いそうになる」

私のバスローブをすっかり肌蹴させると、政宗は私をきつく抱き締め深い吐息を吐いた。
抱き締める腕の強さから、政宗の少し火照った肌の温かさから、政宗が私を想ってくれていることが伝わってくる。

「遙、愛してる」
「私も。政宗を愛しているよ」

政宗はそっと私を押し倒し、ゆっくりと手のひらを私の身体の上に滑らせた。
そして、口付けを首筋に、胸に落としていく。
優しく触れるだけの、ゆっくりとした動作から、政宗が私を愛しく想ってくれていることが伝わってくる。
身体が甘くふわふわとした浮遊感に包まれる。

このまま何もかも忘れて政宗にこうして触れられていたい。
何もかも忘れて……。
いつまでも……。

甘い陶酔感に浸っていた私ははたと思い出した。
お風呂にお湯を張りっぱなしだ。
政宗にこうして押し倒されてから、随分と時間が経っているような気がする。

「あっ!政宗!お風呂入らなくちゃ!」

がばりと身体を起こすと、政宗は私をぎゅっと抱き締める。

「あと少しだけ」
「ダメだって。11時までにはここを出るんだから」

少し身体を離すと、政宗は拗ねたような少し不機嫌な表情をしていた。
そして、私の手を取ると、政宗の胸に押し当てる。

「お前、俺をこんな身体にしたまま置いていくのかよ」

政宗の力強い鼓動が手のひらに伝わってくる。
その鼓動は少し速くて。
触れた胸は、熱く火照っている。

政宗の身体が私を欲していることを感じて、どうしようもなく恥ずかしくなる。

「でも、でも…。やっぱりお風呂に入ってからここを出たいし……」
「じゃあ、俺も一緒に入る」
「え?」
「俺を一人にすんなよ」

少し熱で潤んだような濡れた瞳がドキっとするほど色っぽい。
そして、ねだるように私をじっと見つめる。
そんな風に迫られたら、断りにくい。
きっと政宗は傷ついたような顔をするような気がして。

「一緒にお風呂に入るだけだからね?」

恐る恐る答えると、政宗は嬉しそうにふわりと微笑んだ。

「ああ、いいぜ。背中も流してくれると嬉しいけどな」
「まあ、そのくらいならいいよ」
「Sweet!じゃあ、行こうぜ」

政宗は私を軽々と抱き上げると、バスルームへ入っていった。
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