「Sorry……」
私はミネラルウォーターを半分くらい、一息に飲み干して、やっとそう言った。
開け放たれたカーテンの向こうには、大海原が広がっている。
私を後ろから抱き締める政宗は憎らしいほど上機嫌だ。
それでも、そんな政宗が少し可愛らしいと思えてしまうのだから、惚れた弱みというものだ。
結局、ただ一緒にお風呂に入るというわけには行かず、バスルームで政宗が満足するまで抱かれ、お風呂に入ってからも、政宗はなかなか離してくれなくて、私はすっかりのぼせてしまった。
「嫌だったか?」
少しトーンの落ちた声でそう訊ねられて。
私は首を横に振った。
嫌ではなかった。
あんなに男の人に抱かれるのが苦手だったのに。
政宗の唇に身体に触れられると、気持ちが良くて拒めない。
弱いところを攻められるのではなく、優しく優しく触れられて、もっと触れられたいと望んでしまう。
「嫌じゃなかったよ……。のぼせただけ」
恥ずかしくて俯いて言うと、政宗は私をぎゅっと抱き締めた。
首筋に顔を埋めて、政宗がホッと安堵の吐息を吐く気配がした。
政宗は本当に私のことを大事にしてくれている。
それが嬉しくて、私は政宗の腕に手を重ねた。
「悪ぃ。歩けそうか?」
「うん、水飲んだら少し楽になったから」
「そうか」
私はもう一口ミネラルウォーターを飲み、海を眺めた。
「海、綺麗だね」
「ああ、そうだな。海なんて、今まで気にも留めなかったが、お前がこんなに好きなら、俺にとっても特別なものになりそうだ」
そう言って、政宗は私の頬に口付けた。
政宗を振り返ると、唇にそっとキスを落とされる。
元々海は好きだったけれど、政宗と一緒にこうして眺めると、私にとってもこの海は特別なものに思えてくる。
「そろそろ行こっか?」
「ああ、そうだな」
着替えて会計を済ませると、私達はホテルの外に出た。
政宗とこうして手を繋いでホテルを出るということが少し気恥ずかしくて、私は足早にそこから立ち去った。
二人で海を眺めながら国道を歩く。
煙草を吸おうと思ってバッグの中を見ると、あと数本しか残っていなかった。
「あ、煙草がもうない。買って行かなくちゃ」
私は、自動販売機を見つけると、小銭を入れた。
そして、いつものMarlboroを買おうとすると、政宗が私の手を取って押しとどめる。
「もうその煙草は止めろ」
「え?」
「こっちの方がいい」
政宗は、KOOLのボタンを押した。
いつもの見慣れた赤い箱ではなく、白地に緑色の箱の煙草。
「政宗、どうして?前にKOOL吸ったことあるの?」
「いや、ねぇけど。こっちの方がいいだろ?そんな縁起の悪い煙草止めちまえ」
そう言うと、政宗は自販機から煙草を取り出した。
そして、私に箱を示す。
「Keep Only One Loveだ。もう、Men Always Remember Love Because Of Romance Onlyなんて考えるな。いいな?」
Keep Only One Love。
ただ一つの愛を貫け。
誰かにずっとそう言って欲しかった。
Marlboroの曰くを否定して欲しかった。
言葉にならず。
私は政宗に抱きついた。
政宗は私を抱き締めると耳元で囁いた。
「これからずっと、俺だけを愛してろ。俺も、お前だけ。お前だけをずっと愛し続ける」
政宗は頬にキスを落として身体を離すと、私のバッグの中からMarlboroの箱を取り出し、それをぐしゃりと握りつぶした。
そして、それをゴミ箱にぽいと捨てて、KOOLの封を切る。
一本取り出すと、私に箱を手渡した。
私も一本取り出し、火を点けようとすると、政宗がポケットからドラゴンのZIPPOを取り出し火を点けてくれた。
ZIPPOのオイルの香りと、Marlboroよりも重たい煙が肺に入っていく。
政宗も火を点けると、深く吸い込んでふぅっと煙を吐いた。
「Marlboroよりも重たいな。ただ一つの愛を貫く方が重いから、当然か」
そう言ってニヤリと笑う。
「行こうぜ」
指を絡ませるようにして手を繋がれて、心の中が甘い陶酔感に包まれる。
Keep Only One Love.
そう言われなくても、私は、ずっと政宗のことを愛し続けるよ。
だから、政宗も……。
私のことをずっと忘れないで欲しい…。
政宗の手をぎゅっと握ると、政宗は私を見下ろし、口元をフッと綻ばせた。
その眩しい笑顔も、この温もりも、私は決して忘れないから…。
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