この夜が終わる前に -3-

唐突にガタリと音を立てた板戸を紗夜歌はビクリと身を震わせて振り返った。
部屋は行灯でほんのりと明るく照らし出されており、その明かりで紗夜歌は布団に寝そべり小説を読んでいたのであった。
恐怖心からそのままの姿勢で固まって動けない。
こんな夜更けに誰!?
楓は何をしているの!?

「楓!?楓!?どこにいるの!?」
「楓は来ねえよ…」

板戸が開けられ、障子が開けられ、その向こうから全身から水を滴らせた政宗が姿を現した。
紗夜歌は見知らぬ賊ではなかったことに安堵の吐息をついた。

「政宗……。どうしたの?そんなに濡れたままじゃ風邪引くよ?そうだ、手拭い手拭い…」

紗夜歌は起き上がり、箪笥の方へと歩いて行った。
政宗は真っ直ぐに大股に紗夜歌へ近付くと、後ろから紗夜歌をきつく抱き締めた。

何ヶ月ぶりの抱擁だろう。
政宗は紗夜歌のうなじに顔を埋め、深く息を吸い込んだ。
慣れ親しんだ香水の香りがする。
『永遠』という名の甘く爽やかな香りが…。
紗夜歌が咎める様に声を上げた。

「政宗!!」
「寒い……」

政宗の熱い吐息が首筋をくすぐり紗夜歌はぞくりと身を震わせた。
自分を抱き締める政宗の身体が震えている。
早く、濡れた身体を拭いてやらねばと、政宗の腕にそっと手を重ねると、拘束は解け、しかし次の瞬間には身体を反転させられ正面から抱き締められた。

「政宗!!冷たいってば!!着物が濡れる!!」
「なら、こうすればいいか?」

政宗は手早く諸肌脱ぐと、再び紗夜歌をきつく抱き締めた。
冷たい雨で冷え切った政宗の肌から、それでもいくばくかの温もりが伝わってくる。
首筋に埋められた政宗の頭は雨に濡れ、雫が髪から滴り落ちる。
その冷たさに紗夜歌はぞくりと身震いした。

「ずっとあんたの温もりが恋しかった…」

耳元で政宗が掠れた声で囁いた。
その冷たい身体とは裏腹に声は艶っぽく熱を帯びていて。
紗夜歌は政宗を押し返したがびくともしない。

「政宗!!やめて!!ダメだって!!」

紗夜歌は身を捩って抵抗する。
その首筋からふわりふわりと香水の香りが漂って。
政宗は眩暈を覚えた。

もう、この身体に触れることも許されないのか。

そう思うと心の中がどす黒い感情に染まっていく。
今だけは、今だけは心行くまでこの温もりに溺れたい。

「もう、ダメなのよ…。こうして抱き合うのは許されないの…!!」
「言うな!!」

震える声で政宗を咎めるその唇を、政宗は己の唇で塞いだ。
柔らかくしっとりと食むように口付けると、紗夜歌の身体が一瞬びくりと震え、抵抗を続ける腕から力が抜けてきた。

紗夜歌が甘く呻く。
甘く柔らかい口付け…。
紗夜歌が教えた通りの…。
許されないことだとわかっているのに、紗夜歌の身体は甘く蕩けたような感覚に陥っていく。

紗夜歌の身体から力が抜けた隙に、政宗は紗夜歌の夜着の襟に左手をかけ、ぐっと押し開き、そのまま背中に手を回すと、右手で反対側の襟も肌蹴させ、紗夜歌の腕から夜着を抜き取った。

初めて直に触れる背中は、肌理細やかでしっとりと吸い付くような肌をしていた。
とても温かい。
その温もりを逃さぬように政宗は紗夜歌をかき抱いた。
柔らかな胸の膨らみが、政宗の胸に押しつぶされ、心臓がドクドクと早鐘のように脈打っているのが伝わってくる。

紗夜歌が身を捩り、政宗を押し返そうと抵抗する。
その脇腹を指先ですっと撫で下ろすと、紗夜歌の口から甘い溜息が漏れ、一瞬抵抗が止んだ。
政宗は、紗夜歌の帯に手をかけ、しゅるりとそれを解いた。
帯でかろうじて留められていた、真っ白な夜着がすとんと床に滑り落ちる。
生まれたままの姿になった紗夜歌は、恥らうように政宗の腕の中で震え、より一層抵抗を激しくした。

政宗は構わず紗夜歌を抱く腕に力を込め、口付けを深いものにしていった。

身体を押し返そうとしてもびくともしない。
その背に爪を立ててみても、政宗の口付けは相変わらず甘美で。
きつく抱き締められると、意志とは裏腹に身体に微電流が走るような甘い快楽が広がっていく。
流されてはいけない。
抗議の声を上げようと唇が離れた瞬間に口を開くと、すぐに柔らかく唇を食まれ言葉にならない。

政宗は片腕で紗夜歌の腰を抱き、もう片方の手で背中から脇腹にかけて愛撫を施している。

「ん…ふっ……っ……ぁ…!!」

紗夜歌の上げる甘い声が愛しくて堪らない。
背に立てられた爪も、抗議しているのか縋り付いているのか判別がつかない。
おそらく紗夜歌自身も最早わからないのかも知れない。
紗夜歌の爪が背に食い込むほど、政宗の情欲はかき立てられる。

政宗は自身の着物の帯を解き、下着を留める紐も手早く解くと、身につけていたものが全て、すとんと床に落ちた。
紗夜歌が緊張してひゅっと息を飲む気配がした。
安心させるように抱き締める腕に力を込め、優しく口付けると、紗夜歌を抱き上げ、布団の上に下ろし、組み敷いた。
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