サーファー達がいる以外は混むことが全くない海辺。
特に海水浴場というわけでもなく、海の家もない。
それもそのはず。
海水は夏でも冷たくとても泳ぐ気になれないからだ。
それでも、私と政宗はかつて犬を連れてよく遊びに行っていた。
しばらくすると、その懐かしい浜辺が遠くに見え出した。
爽やかな風が吹いている。
潮騒が鼓膜を心地よく刺激する。
私が今住んでいるところには海などないから、懐かしくてわくわくしてきた。
「政宗っ!!海だね!!」
「あんた、本当に海が好きだな。この間なんて冬なのに海に行きたがるから参ったぜ」
「そういう政宗も好きなくせに」
(それはあんたがそんなに嬉しそうな顔をするからだろうが)
政宗が思わず苦笑いしたのを、後ろに座っていた私は気付かなかった。
浜辺に下りる階段のそばに小さな駐輪場がある。
政宗はそこに自転車を止めて、私のバッグと竜のプリントがしてある黒いリュックを籠から取り出した。
そして、再び手を繋いで浜辺に下りていく。
サーファー達が少し沖の方でぷかぷか浮いている他は、犬の散歩の人以外いない。
相変わらず静かな浜辺だ。
波打ち際から少し離れたところで立ち止まると、政宗はリュックからビニールシートを取り出し、それを広げた。
二人並んでビニールシートの上に座る。
「今日はいい波だな。サーフィンしてぇ」
「あれ?政宗、サーフィンしたっけ?」
「今年から始めたんだよ。あれ、結構楽しいぜ?あんたもやるか?」
「んー。海に来られるの、年に2回だからいいよ」
「それもそうだな…」
潮風が心地よくて私は目を細めた。
波がきらきらと太陽の光を反射しているのがとても綺麗だ。
政宗はリュックの中をごそごそと探ると、包みを取り出した。
「ほら、lunchだ。Here you are」
「え?何何?何を作ったの?」
「サンドウィッチと唐揚げだ。あんた好きだろ?」
「わぁ!ありがと!!政宗、大好き!」
「チッ、現金なやつ」
「ん?何か言った?」
「Nothing」
すっと顔を逸らした政宗の頬が少し赤かったのは気のせいだろうか?
うん、多分、気のせい。
だっていつものことだもんね。
政宗だって今更私が「好き」と言おうが気にしないはず。
こと、食べ物が絡むといつも政宗に「好き」と言っていたのだから。
現に再びこちらに向けられた政宗の顔は、いつも通り自信たっぷりの笑顔だった。
「生ハムとローストビーフのサンドウィッチだ。パンも俺が焼いたんだぜ?ちなみにマヨネーズも手作りだ」
「ほんと、政宗ってこだわるよね」
「あんたが俺の手作りのマヨネーズしか食べられないからだろ」
「うん、まあ、そうなんだけど」
(こだわるのは、あんたが相手だからって、あんたは気付かねぇだろうな。ったく、鈍感だぜ)
紗夜歌がサンドウィッチにかぶりつくのをじっと見つめる。
一口かじって口をもぐもぐさせた後、嬉しそうに目を細めるのを見て、俺も嬉しくなった。
「おいしい!すごいよ!!東京にもこんなおいしいサンドウィッチないよ?プロになれるよ!」
「Glad to hear that。作った甲斐があるぜ」
私達は他愛もない話をしながら政宗の作ったサンドウィッチと唐揚げを食べた。
お互いの高校や友達のことなど。
政宗の女友達のことが気になったが、私は聞けなかった。
この町には高校がないから政宗は隣町の高校に通っているらしい。
中学とは比べ物にならない人数の生徒がいて、私の知らない子達がたくさんいる。
きっとさっきの女の子達もそういう子達だろう。
もしかしたら……もしかしたら彼女だっているかも知れない。
そう思うとまた胸がチクリと痛む。
と、唐突に私の携帯が鳴り出した。
慌ててバッグから取り出し電話に出る。
クラスの隣の席の男子からの電話だった。
数学と化学の課題でわからないところがあるから今度会って教えて欲しいとのことだった。
私達のやりとりを聞いていた政宗の眉がどんどん顰められていく。
電話を切った時、政宗の不機嫌はMAXだった。
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