Because I love you -2-

毎朝政宗は私を訪れ、一緒に朝食を摂り、英語を教えてくれと私にせがんだ。
執務を放り出している政宗を呼びに小十郎が私の部屋を訪れる。
私は目を合わせることが出来なくて、いつも俯いてしまうか、何かしら理由をつけて逃げ出していた。
だって、無理…。
格好よすぎて見詰め合うなんて無理。
それにここに来た時、身体を検分された事を思い出してしまう。
やっべえ!顔から火が出そう!!心臓が持たない!!!
だから、私は政宗にこう切り出した。

「ねえ、政宗。小十郎がぶちきれないようにさ、執務もちゃんとやろうよ。手伝ってあげるからさ。英語もちゃんと教えてあげる。そうしたら政宗も小十郎に追いかけられないですむじゃん?」
「Really?手伝ってくれるのか?Thanks!!じゃあ、書簡を持ってくるからいい子にして待ってろよ」

政宗は足取り軽く部屋を出て行き、上機嫌で戻ってきた。

「げ、そんなにあるの?」
「だから逃げたくなるんだよ」
「Gotcha(わかった)」

政宗と一緒に書簡を覗き込む。
案の定、全て草書体で書かれていた。
伊達に書道を続けていたわけではない。
教師は字が命!!!書道は有段者よ!
草書体だって読めるわ!!書けるわ!!なめんなよ!!!

「で、どうすればいいの?」
「これ、全部目を通して、内容の要点を教えてくれ。俺が直接書かなきゃいけねえ返事は俺が書く。それ以外は俺が指示するから文書に纏めろ」
「うわ、人使い荒い!」
「小十郎にどやされる前に終わらせようぜ。その後は心置きなくEnglish timeだ」
「はぁ…。Okay, okay. I will do it」

ものごっつい働いた。アレだ。大学の試験勉強以来じゃないの?
古文なんてもうすぐ忘却のかなただったから危なかった。
うん、私、まだいける!

全ての書類を2人がかりで3時間で纏め上げると、政宗は上機嫌で伸びをした。

「さあ、今までの分は終わった事だし、小十郎に茶でも運ばせるか。ついでにこれも持っていってもらうぜ」
「ええっ!?小十郎?」
「ああん?何か文句あるか?」
「いえいえ、アリマセーン」

眉間に皺を寄せて凄む政宗の迫力に思わず棒読みで私は返したが、心の中はそんなどころじゃなかった。
小十郎に会えるという喜びと。99%の恥ずかしさで。
政宗は外に控えていた女中に小十郎を呼びにやらせた。

ほどなくして小十郎がやってきた。
その精悍な顔を見て思わず惚けてしまい、しかし、目が合うと私はすぐに目を逸らした。
やっべえ、心臓跳ねた。
アレだ。うん。小十郎は遠くから眺めているくらいが丁度いい。

「小十郎、執務終わったぜ」
「こんな短時間であの量を終えたとは思えませんが…。検分させて頂きます」
「好きにしろ」

政宗は涼しい顔で茶を飲んでいる。
書類に集中している小十郎の横顔を私はそっと盗み見た。
真剣な表情がまた色気があって格好いい。
巻物の文字を読むのがとても早いのか。目がすっと滑っていくようで。
そんなデキる男っぷりも最高に素敵だ。
私は思わず息を詰めて小十郎を見つめていた。
と、小十郎が顔を上げた。

「完璧でございます。しかし、これは政宗様のお手蹟ではございませんね。柔らかくしかしお見事なお手蹟でございます」
「Ah、それな、紗夜歌だ」
「紗夜歌の?」

小十郎の視線が私に移されて、私は思わず俯いた。
だから、目が合わせられないっつーの!!
これじゃわざわざ私の部屋で執務をした意味がない。

「紗夜歌…。見事だ…。お前にこんな能力があるとはな…」
「それはどうも…」

私は誤魔化すように小十郎に向かってそっと頭を下げた。
小十郎がフッと笑う気配がした。
うぉおおお、その笑顔を見たい!!
でも、見たら目が合う!目が合ったら融ける!!
すっと頭を下げたままの私に小十郎が近付いてきた。
思わず身を強張らせると、そっと頭を撫でられた。
驚きのあまり顔をばっと上げると、唇の端を吊り上げて優しげに微笑む小十郎の姿が目に入った。
頬にかあっと血が上っていくのがわかった。
小十郎様。その笑顔は反則です。

「これからも政宗様を支えてくれ。執務以外の時間は好きに過ごすといい。政宗様も…」
「Okay, 小十郎。じゃあ、好きにさせてもらうぜ。この書類を片付けてくれ。俺は紗夜歌と英語を勉強する」
「承知」

小十郎は小姓を呼び、書類を片付けさせると一礼をして下がっていった。



政宗の城に来てから二週間。
帰れる兆しなど一向になかった。
それでも私はいつでも帰れるように常にジーンズにキャミソールという姿で過ごした。
朝晩は流石にパーカーを羽織るけど。
行き先が草津で本当によかった。ハワイだったら上着なんて持ってないもんね。
政宗も着物よりこの姿の方がcoolだと言っている。
ちなみに、coolという言葉を教えたのは私だ。
政宗は飲み込みが早い。中学英語の基礎はマスターしてしまった。
語彙力はまだまだ足りないけど。英語はまず文法だもんね。
毎朝食事を終えるとすぐに執務に取り掛かり、それを終えてから英語の勉強をしていた。
一通り基礎の文法をマスターした政宗は、私に口語を教えろとせがんでいる。
最近はスラングばかり教えているような気がする…。
いいのか?仮にも殿様だ。
でも、普段の言動があれだから丁度いいか。
私は悪ノリをして政宗にスラングを教えていた。
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