Because I love you -3-

紗夜歌が城にやってきてから政宗の機嫌がよくなった。
2人は馬が合うのか、2人寄り添っては笑い声を立てている。
あんなに楽しそうに笑う政宗は戦場以外ではなかなか見たことがない。
紗夜歌も…。
自分と目が合うといつも逸らされてしまうが、政宗の前では気持ちいいほどよく笑っている。
それも大口を開けて。
この時代、口を開けて笑う事などはしたないことだとされている。
しかし、薄らと紅を塗った口から白い歯が零れ笑う姿は美しいとさえ思えた。
切れ長の双眸が細められ、長い睫毛が伏せられてドキリとしてしまうほど色気がある。
紗夜歌の部屋の前を通りかかると、2人の声が聞こえてきた。
襖が僅かに開いていて、そこから2人の姿が見える。
2人は寄り添うようにして話をしていた。

「Hey, 紗夜歌。How old are you?」
「何でそんな質問するかな。Ladyの年を聞くもんじゃないわよ。Tell me how old you are first」
「俺の年か?nineteen years old」
「Damn!!マジで!?うっそ!!20代半ばだと思ってた!!」
「Now, tell me how old you are」
「ええっ!?やだよ!!」
「ああんっ!?俺の年教えてやったじゃねえか!!」
「それとこれとは話が別!!絶対嫌!!!」

ぷいと顔を背けた紗夜歌の顎を捉えて政宗が自分の方を向かせる。

「ほう…。いい度胸じゃねえか。なら、言いたくなるようにするだけだな…」

政宗は紗夜歌を押し倒すとその脇腹をくすぐった。

「ちょっ!!やめっ!!あははははは!!くすぐったい!!!」
「当たり前ぇだ。くすぐってるんだからな。さあ、吐け!!」
「やっ!!!ダメぇえええええ!!!!」

紗夜歌は畳をバンバンと叩きながら足をばたつかせている。
笑い転げながらも喘ぐ表情が艶かしい。
政宗が紗夜歌の首筋に顔を埋めて囁く。
小十郎は、何故か胸がきりきりするような感覚を覚えた。

「逃げられると思うなよ。吐くまで続けるからな…」
「Okay, okay!!I give up!!27歳よ」

喘ぎながらボソリと紗夜歌が呟いた。
小十郎は驚きを隠せない。
どう見ても政宗と同じくらいの年か僅かに上にしか見えない。
政宗も驚いたのだろう。
くすぐる手を止めたものの、押し倒したまま紗夜歌の顔を覗き込んでいる。

「マジかよ…。20そこそこだと思ってたぜ…。……若作りだな」

紗夜歌がキッと政宗を睨みつける。

「若作り言うな!!老け顔のくせに!!」
「ああん!?何だと!?You seem to need punishment…(お仕置きが必要みたいだな…)」
「どこでそんな言葉覚えたのよぉおおおお!!!やめてぇええええ!!!」

また政宗が紗夜歌の脇腹をくすぐり始めた。
紗夜歌はまた身を捩って笑い声を立てる。
その中に甘い声が混じる。
まるで情事の最中のような。
聞いているこちらの心が疼いてしまう。
小十郎は立ち去ろうか、逡巡していると、政宗がくすぐる手を止めて、紗夜歌をぎゅっと抱き締めて囁いた。

「……あんた、亭主は?あんたの帰りを待ってるんじゃねえか?」
「はぁっ……はぁっ……て、亭主!?いないよ、そんなの。私、嫁いでないもん」
「……若作りの上に行き遅れなんだな……」
「Shut up!!行き遅れ言うな!!まだ立派に結婚適齢期だ!!!」

頬を染めて紗夜歌が果敢に言い返している。
潤んだ瞳が可愛らしい。とても27歳には見えない。
政宗はニヤリと笑うと紗夜歌の額に口付けた。

「Then, maybe I have a chance…(なら、俺にもチャンスがあるってことだな…)」
「Huh!?」
「Nothing(何でもねえ)。鍛錬に行って来る。また後で可愛がってやるぜ」
「鍛錬?私も見に行きたい!!」
「Ah〜?構わねえが、あんまり女が見るようなもんじゃないぜ?」
「だって、独眼竜政宗がどんな刀を振るうか見たいじゃん?あ、カメラカメラ」
「Okay。ついてきな」
「待ってよう。デジカメ用意してから行くから!!」

まずい、政宗様がこちらにやってくる。
小十郎は紗夜歌がカメラを準備している間にその場を立ち去り訓練場に向かった。

私はデジカメをジーンズの後ろポケットに入れて、政宗に手を引かれながら訓練場に入っていった。
そこには木刀を構えた小十郎がいた。
気付かなかったけど、小十郎って左利きなんだ…。
何か素敵…。
兵士達がいっせいに小十郎に襲い掛かるが、小十郎の木刀一薙ぎでみな吹き飛ばされてしまう。
………何これ?
時代劇の殺陣とかなり違うんですけど…!!!!!
ってか、人間ってあんなに吹き飛ぶものですか?
私は呆気にとられたように固まった。
隣りで政宗がくすりと笑う。

「戦場の小十郎はあんなもんじゃないぜ?まあ、俺はもっと強いけどな」
「マジで!?あれ、人間技じゃないよ!!?」
「そうか?あんな程度で驚くようじゃ、あんたは戦場に行けねえな」
「いや、行かないから」

私は速攻ツッコミを入れると、政宗に手を引かれて、訓練場の端にある竹で出来たベンチのところに連れて行かれた。

「俺は小十郎と手合わせしてくるから、あんたはここで見てな」
「うん、わかった」

政宗は壁に立てかけてある木刀を取った。
しかも、6本も。
…………6本!?
あんた、どれだけ欲張りなんですか!?
器用に6本の木刀を握り、政宗は訓練場の真中へ歩んでいった。

「筆頭!!お久し振りです!!」
「Oh, 久し振りだな。最近執務ばかりで退屈だったぜ」
「またまた〜。綺麗な女連れ込んでずっとべったりだったんじゃないですか?」
「Shut up。異国語の勉強してたんだよ。まあ、いい。久々に小十郎と手合わせするぜ。おめえらは下がってろ」
「了解っす!!」

兵士達がさっと退いて、訓練場の真中には小十郎と政宗の2人きりになった。
2人が構える。
ぴんと空気が張り詰めるのがわかった。
私はカメラを構えるが手が震える。
こんな凛とした空気、今まで感じた事がない。
ああ……小十郎がいつに増して格好いい。
唇の端を吊り上げて好戦的にニヤリと笑っている。
私はフラッシュをオフにして、その姿をカメラに収めた。
絶対一生の宝物にする!!!
手ブレ防止機能よ、ありがとう!!
私は何度もシャッターを切った。
フハハハハ!!!これだけ枚数撮れば、どれか一枚は成功しているはず!!
ついでだから政宗も撮ってやろう。
政宗は可愛い弟みたいなものだけど、綺麗な顔立ちしているし、6本の刀を構えた姿はまるで絵のようで、美しい。
いつか別れた時の思い出になるだろう。
何せ、あの独眼竜の闘うところなんて、レアだ、激レア!!!
口元に楽しそうな笑みを浮かべ、小十郎を睨みつけている政宗の姿をカメラに収める。
その枚数が小十郎より少ないのはご愛嬌だ。
ほら、愛の差ってやつ?

そうこうしているうちに、先に政宗が動いた。
小十郎に向かって走って。
その先はどう動いているのかよくわかりません。
何なんだ、あの速さは!?
2人が木刀を交わしているのは激しく響き渡る音で分かるんだけど。
2人が中央にいるのも見えるんだけど。
刀の軌道が全く見えません。
心なしか稲妻のようなものが迸っているような気がするんですけど。
気のせいですか?
2人の動きはまるで美しい舞踊のようで。
どうせ、シャッター切っても残像しか写らないのがわかっているから、私は2人の手合わせをじっと見つめていた。
これが人を殺すための技なのに。
どうしようもないほど美しい。
食い入るように、小十郎を、政宗を見つめる。
どれだけの時間が経ったのか。
お互いがすっと離れた。

「政宗様。背後が隙だらけです」
「また、それか。いつもの小言は聞き飽きたぜ」
「何度でも言わせて頂きます。その癖は是非とも直して頂かなくては。刀を6本使うのを禁止致しますよ?」
「わかったわかった。気をつける。でも、俺の背中はお前が持つんじゃなかったか?」
「勿論です。しかし、戦には万全を期して…」
「Okay, okay。心配するな」

政宗は小十郎にひらひらと手を振ると、私の方へやってきた。

「どうだった?」
「すごく綺麗だった」

私がにっこりと笑って言うと、政宗は切れ長の眼を細めて笑い、私の頭をくしゃりと撫でた。
こうして笑ってると本当にこの子は綺麗だな…。

「そりゃ、よかった。やっぱり刀を6本持った方がcoolだろ?」
「あなたどれだけ欲張りなんですか」
「ああん!?可愛くないこと言うのはどの口だ!?」

政宗は木刀を放り出すと私の両頬を抓って伸ばした。

「いひゃい、いひゃい!!! You bastard!!」
「Ha!!俺をbastard呼ばわりするとはいい度胸じゃねえか!!もうその意味知ってるからな!!」
「Noooooooooooo!!!!!That was splendid!!Beautiful!!Wonderful!!Fantastic!!」

政宗はようやく手を放して、唇の端を吊り上げて意地悪く笑った。
ううっ、鬼!!悪魔!!サディスト!!
私が涙で潤んだ目で政宗を見上げていると、すっと影が差した。

「政宗様。女子の頬をそのように抓るものではございません。紗夜歌、大丈夫か?」

小十郎が政宗の後ろからすっと姿を現して、手を差し伸べ私の頬をそっと撫でた。
ここここここここ小十郎にほっぺた撫でられたぁああああああ!!!!!!
抓られた頬はじんじんと熱を孕んでいたけれど。
それに較べものにならないほどの熱が内側からせりあがってくる。
きっと私の顔は真っ赤だ。
私は小十郎に撫でられた頬を手で押さえて固まった。
小十郎と目が合う。
ずっと目が合わないように避けていたのに。
気遣わしげに、優しげな色を浮かべたその双眸はやはり渋くて格好よくて。
やばい。私、融ける。ダメだ。避難だ!!避難しなくては!!
私はデジカメをポケットに入れると立ち上がった。

「ちょっと顔冷やしてくる!!また後で!!政宗!!覚えてろよ!!」

私は脱兎のごとくその場から走り去った。
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