いつも隣の部屋で寝起きし、朝一番に紗夜歌の顔を見て、寝る前に紗夜歌の顔を見ていた政宗は寂しさを感じずにはいられなかった。
隣に座る時も以前より距離を感じてしまう。
紗夜歌は一気に政宗の手の届かない存在になってしまった。
いつもあんなに近くにいたのに……。
その気配を感じられるだけでいい。
その笑顔が自分に向けられるだけでいい。
そう思っていたのに、寂しさは愛しさは募るばかりで。
記憶の中の紗夜歌の温もりを、声を、胸に抱き締め、追憶の欠片を拾い集めて夜眠りに就く。
紗夜歌の残した温もりが今も胸を締め付ける。
腕の中で屈託なく笑っていた紗夜歌を思い出してはもう一度この腕で抱き締めたいと願わずにはいられない。
紗夜歌が小十郎と結ばれて数ヶ月。
日に日に紗夜歌への思いは溢れ出すばかりで。
時がこの思いを忘れ去らせてくれるなど到底思えなかった。
木の葉が色づき、風が冷たくなってきた。
こんなにしんしんと冷える夜は、余計に紗夜歌の温もりが恋しい。
腕に抱き締め、その温もりを柔らかな香りを感じながら眠りに就けたらどれほど幸せだろうと思う。
目を閉じ、瞼の裏に浮かぶのはくるくると変わる紗夜歌の表情。
そして、初めて紗夜歌がkissしてくれた時の艶を帯びた表情。
この心の渇きはいつ癒されるのだろうか。
政宗は寝返りをうち、秀麗な眉を顰めて悩ましげに眉間に軽く皺を寄せ、熱い吐息をついた。
外は風が吹き荒れている。
板戸がガタガタと揺れる。
バラバラと音がしているのは大粒の雨が当たっているからだろう。
小十郎は辺境の領主との小競り合いの鎮圧に遠征に行っている。
こんな嵐の夜は、紗夜歌は一人で寂しい思いをしていないだろうか…。
その柔らかい身体を抱き締めて、その寂しさを埋めてやりたい。
いや、そんなのは口実だ。
自分が紗夜歌を渇望しているのだ。
熱に浮かされたように。
どうしようもなく紗夜歌が欲しい。
もう一度だけ、紗夜歌をこの腕に抱きたい…。
もう一度だけ…。
政宗はそっと夜具から抜け出すと着替えて、豪雨の中馬を走らせた。
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