Crazy Storm -1-

ホテルの駐車場に車を停めて俺はフロントへ急いだ。
今、この瞬間にも、政宗様が無理矢理仄香を抱いているのではないかと思うと気が逸って仕方がない。

「いらっしゃいませ。お名前を」
「支配人を出せ」
「えっ!?」

開口一番、フロントの男を睨み付けて言うと、男は息を飲んだ。

「専務の片倉だ」
「はぁ…」

名乗っても、心当たりがないと言うように惚けた返事を返す男に苛々が募る。

「いいからとっとと支配人に伝えろっ!」

一喝すると、男はビクリと身体を震わせ、スタッフルームへと入って行った。

全く、親会社の役員の名前くらい覚えてろ。
教育がなってねぇ。

苛々とカウンターを指先で叩いていると、ようやく支配人が現われた。

「お待たせして申し訳ございません、片倉専務」
「ここは政宗様がよくお使いになるホテルだ。俺の名前くらい社員にきちっと教育しとけ」
「以後、きつく申し付けておきます」

深々と頭を下げる支配人の顔を上げさせる。

「政宗様のお使いになっている部屋のキーを出せ。重要な要件がある」

そう言うと、支配人は申し訳なさそうな顔をした。

「お言葉ですが、専務…。伊達様から誰も通すなと申しつかっております。何でも大切な話があるとかで。恐らく専務がいらっしゃるので、話が終わったら向かうから、片倉専務には隣りのお部屋でお待ち頂くようにとの事です」
「何…?」
「プライベートな事なので、例え片倉様でも通してはならないと」

政宗様に先手を打たれたか。
客のプライバシーを守るのはホテルの鉄則だ。
普段のように政宗様が何も伝言を残していないのなら、専務の肩書きで話を通す事も出来るが、今回のように先手を打たれてしまっては俺の都合を通す事も出来ない。
今は何の肩書きも持たない政宗様だが、やはり次期総帥だ。
一介の役員の意見は通せない。
例え俺が政宗様の守役でも。

「分かった。じゃあ、隣りの部屋のキーを寄越せ」
「こちらに」

支配人は俺にキーを渡して深々と頭を下げた。
俺はキーを受け取ると、エレベーターで最上階に向かった。



スイートルームが並ぶフロアに出て真直ぐに政宗様のいる部屋に向かう。
部屋の前には警備員が二人配置されていた。

「伊達コンツェルン専務の片倉だ。政宗様は?」
「お部屋にいらっしゃいますが、誰も通すなとの事です。例え片倉様でも」

二人は俺の行く手を遮るように立ちはだかった。
じっと男達を睨み付けても、譲る気配がない。
ここまで手を回すとは、政宗様は本気だ。
そして、間違なく政宗様は仄香と一緒にいる。
俺は溜め息を吐いて背を向けた。

「政宗様が部屋から出て来られたら、俺は隣りの部屋で待機していると伝えろ」
「かしこまりました」

そのまま自分の部屋に入り、コートも脱がないまま、俺はベッドの上に脱力したように座り込んだ。

政宗様の携帯に電話してみても相変わらず電源が切られている。
仄香の携帯も同じだった。
部屋にはフロントを通さないと電話がかけられない。
恐らく電話も通さないよう根回しがされているはずだ。

八方塞がりか…。

今頃仄香は政宗様の腕の中で…。

そう思うと胸が苦しくなって、俺は頭をかきむしった。
乱れた前髪が視界に揺れる。

あいつは泣いてないだろうか。
きちんと政宗様と話は出来たんだろうか。
話をした上で、互いの想いを確かめ合い、そして結ばれたんだろうか。

もし、政宗様が仄香の不安も聞いてやらず、自分の想いだけをぶつけて強引に抱いているなら、俺は政宗様を許せそうになかった。

仄香は本当に、この先の事を考え、そして不安がっていた。
男の27歳と女の27歳は全然違う。
政宗様の器が小さいだなんて思っちゃいねぇが、それでも政宗様はまだ若過ぎる。
そして、仄香はもう大学生のような気軽で幼い恋愛をする年ではない。
この先の人生を見定めて、お互いの道を話し合いながら一緒に歩んでいくような恋愛をする年頃だ。
いくら仄香が政宗様を好きでも、好きな気持ちだけで付き合って行く事が出来ないのをあいつは知っているから。
だからこそ悩んだ。

きちんと話し合っていて欲しい。
でも、俺は政宗様の猪突猛進な性格を知っているからこそ不安だった。
この壁の向こうで、仄香が泣いているような気がした。

助けてやりたい。
抱き締めて、大丈夫だと慰めてやりたい。

例え誰が何と言おうと俺が守るから…。

でも、何もしてやれず、ここで待つしかないのが俺の現実だった。

無理矢理にでもさらえば良かった。
あいつは揺れていた。
俺の腕に抱かれる仄香は安心しきった顔をしていた。

俺がもう少し早く行動していたら、きっとあいつは泣かずに済んだ。


仄香、ゴメンな…。
お前ぇを守ってやれなかった俺を許してくれ…。

例え、政宗様のものになったとしても、お前ぇが幸せじゃなかったら、今度こそ、お前ぇを奪って。
そして、大切に大切に愛してやるから。


仄香…。
どうか、幸せになってくれ…。
俺のそばじゃなくてもいいから…。

お前ぇと政宗様の幸せが、俺の幸せだから…。
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