やがて、身体から力の抜けた仄香を抱き締める。
そっと表情を窺うと、酔いの回った虚ろな表情を浮かべていた。
タクシーがホテルに着き、仄香を外に連れ出す。
相当アルコールが回っているのか、仄香は独りで歩けない程だった。
佐助の野郎、こんなになるまで仄香に飲ませやがって…!
あのまま俺が発見しなかったら、佐助と一夜を共にしてたと思うと怒りで頭がくらくらする。
でも…。
結果的に俺の勝ちだ。
仄香を抱き上げてニヤリと笑う。
こうして仄香は今俺の腕の中にいる。
このホテルに入ってしまえば例え小十郎でも俺の邪魔は出来ねぇ。
今まで仄香と夜を明かした時はいつでも小十郎がそばにいた。
俺達が互いに仄香を想っていると気付いたのはいつの事だっただろう。
もう思い出せないくらい長いこと、俺は仄香の事が好きだった。
最初は姉として。
勝気で生意気な仄香に苛められて小十郎に泣き付いていたのは遠い昔、まだ俺も仄香も幼い頃だった。
いつからか、仄香はたおやかな少女になり。
俺を優しく甘やかすようになった。
仄香の隣りは居心地がよく。
俺は仄香に姉の、そして母の面影を求めた。
肉親として慕う気持ちが慕情に変わったのはいつだっただろう。
俺にとって仄香は手放せない存在になっていた。
でも、仄香はいつでも俺を弟扱いするから。
俺が想いを告げてもいつもさらりと流された。
それでも良かったんだ。
お前の瞳が俺だけを映している事に気付いていたから…。
でも、今、仄香の瞳には小十郎が映っている。
いや、揺れていると言った方が正確か。
そして、一緒に過ごす時間がぐんと減り。
いつの間にか、仄香は遠い存在になっていった。
俺は仄香が俺を子ども扱いしなくなるまで待つつもりだった。
いつか、仄香の方から俺を求めるくらい。
それくらい魅力的な大人の男になって、仄香を手に入れるつもりだった。
でも、もう待てねぇ。
俺は指を咥えてお前と小十郎が結ばれるのを見てられるくらい優しくも大人でもねぇ。
誰かに取られる前に奪ってやる。
それが出来るくらいには俺は成長した。
もう、俺は餓鬼じゃねぇ。
いつか小十郎と交わした約束を思い出す。
決して仄香を悲しませたりしないと。
仄香を泣かせるくらいなら、俺達の想いは封印しようと。
Sorry, 仄香。
俺はお前を泣かせるかも知れねぇ。
でも、哀しみの涙をいつか嬉し涙に変えてやるから。
だから、俺はお前を小十郎から奪う…。
俺はフロントで手配を済ませると部屋に向かった。
部屋に着いて、仄香をベッドに降ろす。
少し蒼白い顔で仄香は寒そうに身体を震わせた。
いつも違う女を抱いているこのベッドの上に、あれ程焦がれていた仄香がいる事が何だか不思議で夢じゃないかと思う。
でも、仄香の頬に触れるととても温かくて。
これは夢なんかじゃねぇ。
自分のジャケットを脱ぎ捨て、仄香の着衣を剥ぎ取っていく。
怠そうに力なく抵抗する仄香を組み敷く。
「嫌…寒い…」
かたかたと震える仄香に艶然と微笑みかける。
今までこれで落ちなかった女はいねぇ。
「すぐに暑くなるから我慢しろ」
自分のセーターを脱ぎ、ジーンズだけの姿になり、仄香のブラウスのボタンを外して素肌に手を滑らせると、仄香は「あっ」と声を上げて震えた。
俺の手を掴んで抵抗するが、酔った女の抵抗なんてたかが知れてる。
そのまま下着に手をかけると抵抗が一層激しくなる。
「嫌っ!止めてっ!ねぇっ!」
「Shit…」
思ったより抵抗が激しくて、俺は仄香の両手首を片手で拘束し、ブラのホックを外して愛撫を施していった。
「いやっ!…あっ。放してっ!」
今までの女なら悦びに濡れた喘ぎ声を上げていたのに、仄香の唇から漏れるのは俺を拒絶する声。
酔いで潤んだ瞳に涙が盛り上がっていく。
「やっ!助けて、小十郎っ!」
紡がれた言葉に理性の切れる音がした。
仄香、お前が悪い。
お前が他の男の名前なんて呼ぶから。
優しくなんてしてやれねぇ。
荒々しく愛撫を施しながら肌に噛み付くようなkissを落としていく。
誰でもいいような女を抱く時と同じ抱き方。
一つだけ違うのは、肌に所有印を付けていく事。
女と後腐れなく別れるために、今まで乞われてもhickyだけは付けた事がなかった。
仄香は相変わらず抵抗しながら小十郎の名を呼ぶ。
痺れを切らして俺は仄香の感じる所を探り当て、そこを執拗に攻めた。
未だに抵抗は止まない。
それでも俺を拒絶する声に甘い喘ぎ声が混じるようになっていく。
伊達に女を抱いていねぇ。
どうすれば女の身体が悦ぶかなんて分かってる。
仄香がこの快楽を受け入れたら、俺は仄香を俺のものにする。
今まで前戯にこんなに時間をかけた事はなかった。
少しでも仄香が俺の与える快楽以外何も考えられないようにしたかった。
やがて、抵抗は力なくなり、辛そうに濡れた吐息を吐く仄香の下半身に手を伸ばしていった。
仄香がvirginかどうか分からねぇがどっちにしてもいきなりはキツい。
指で慣らそうと、秘所に指を差し入れ中を解そうとすると、仄香の口から鋭い悲鳴が上がった。
「いゃああっ!痛っ!いやっ!ヤダヤダっ!」
さっきまで止まっていた涙がポロポロと頬を伝って流れていく。
シーツを握り締めた指先が白くなるほど固く握り締められている。
「お前…まさか…処女…?」
俺が指を引き抜き尋ねると、仄香は顔を背けて小さく頷いた。
涙は止まる事を知らないように次々に溢れ出す。
奪ってやると思ったけど。
やっぱりお前のこんな顔を見て尚酷い事なんて俺には出来ねぇ。
初めてがこんなのって酷過ぎるよな…。
俺は仄香をそっと抱き寄せた。
「もう止めるから。だから泣くな」
「ううっ…本当…?」
「ああ、もう酷い事はしねぇ」
抱き締めて髪を梳いて宥めると、やがて仄香は小さな寝息を立て始めた。
その頬に涙の痕が幾筋もあって俺はやるせなくなり、仄香のバッグから煙草を取り出すと、夜景の見渡せる窓辺に立ち、火を点けて煙を肺いっぱいに吸い込んだ。
何で無理矢理あんな事しちまったんだろう…。
頭が冷えていくにつれ、後悔が押し寄せてくる。
もっと優しく抱きたかった。
でも、嫉妬に煽られてそんな余裕なかった。
それに、今まで優しく女を抱いた事なんてなかったからどうすればいいかなんて分からねぇ。
やっぱり俺は子どもなんだな。
小十郎には敵わねぇ。
きっと小十郎なら優しく仄香を抱いてやれるのに。
仄香が起きたら…。
俺は嫌われるよな…。
一度も政宗って呼ばなかったから、もしかしたら誰に抱かれてたのかすら分かってなかったかも知れねぇ。
もし、仄香が全てを覚えていたら、俺は仄香を諦めるしかない。
小十郎から奪ってやると思ったけど、俺には好きな女を優しく抱いてやる事すら出来なかった。
何本か煙草を吸い、ベッドに戻ると、仄香が小さく縮こまるようにして眠っていた。
ジーンズを脱ぎ、仄香の隣りに身体を滑り込ませる。
そっと抱き寄せると仄香の口から安堵の吐息が漏れた。
「政宗…」
初めて紡がれた俺の名前に愛しさが込み上げてくる。
俺は仄香の髪を撫で。
そして、生まれて初めて優しい触れるだけのkissを仄香の唇に落とした。
仄香、ゴメンな。
やっぱり俺、仄香を幸せに出来るくらい大人じゃねぇかも知れねぇ。
でも、まだお前を諦め切れないんだ…。
もう少し好きでいてもいいだろう?
例え小十郎と結ばれても、いつか俺に振り向かせるから…。
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