Unraveled Helix -2-

起きたら仄香に一体どうやって話を切り出したらいいだろう。
そんな思考がぐるぐると頭の中を回り、俺は明け方まで眠れなかった。
しかし、いつしか疲れて眠ってしまい、次に目を覚ましたのは、仄香に名を呼ばれた時だった。

仄香は昨日の事を覚えているんだろうか…。
俺は仄香に嫌われてしまったんだろうか…。

それにしては仄香の様子が少しおかしい。
俺のことを全く責めてこない。
蒼白な顔で俺をじっと見つめている。
もしかしたら気分が悪いのかも知れねぇ。
俺もじっと仄香を見つめ返した。

「Good morning, honey. 気分はどうだ?頭痛くねぇか?」
「少し痛いかな…」
「そうか」

昨日あんなに手荒な事をしてしまった。
きっと酔いで気分も悪かっただろう。
いつ仄香に責められるのか。
胃の奥がきゅうっと痛くなるような感覚を覚えて、俺は仄香の頭を優しく撫でた。
本当はこうして、優しく触れ合いたかった。
仄香は困惑したような表情を浮かべ、縋るように俺を見つめた。
俺もどう仄香に接すればいいのか分からず、戸惑いながら訊ねる。

「どうした?」

仄香は困惑したような、何か葛藤したような表情で視線を彷徨わせている。
どうも様子がおかしい。

その時、僅かな光明を見出したような気がした。

もしかしたら…。
仄香は昨日の事を覚えていないんじゃねぇか…?
もし、仄香が昨日の事を覚えていなかったら…。
俺たちはまだやり直せる。
いや…。
俺は仄香を手に入れられるかも知れねぇ。

「昨日、何があったの?私…覚えてなくて…」
「マジかよ…?」

俺は驚いて声を上げつつ、内心歓喜の声を上げた。
悪魔のような計画が頭の中で組み立てられていく。
仄香を騙すことになるが、手段は選べねぇ。
もう、俺にもどうしようもないくらいに、仄香と小十郎の心は近づいている。
俺が少し目を離した隙に、二人は結ばれてしまう。

ここで、仄香を手に入れるしかねぇ…!

逸る気持ちを抑えて俺は仄香に尋ねた。

「どこまで覚えてる?」
「佐助君と飲んでて、外に出た辺りまで。その後は何も…」
「俺に会ったのは覚えてるか?」

仄香はふるふると首を横に振って俯いた。

「そうか」

視線を落として考え込んでいる様子では、それが事実なんだろう。
仄香は俺と出会ったことすら覚えていねぇ。
計画が急激に現実味を帯びて、心が高揚して震えた。
今、自分が悪魔のような笑みを浮かべているんじゃないかと思い、一つ溜息を吐き、表情を繕う。
そして、俺はふわりと邪気のない笑みを浮かべた。

今が計画を実行するchanceだ。
もう後には引けねぇ。

「お前、危ない所だったぜ。あのままだったら、佐助に持ち帰られる所だった」
「えっ!?」
「まあ、自宅まで送るつもりだったのかも知れねぇけど。偶然俺が通りかかったから、俺が連れ帰る事にした。家、隣りだしな」
「そう…なんだ…。でもどうして…」

この時を待っていた。
もう仄香はくもの巣にかかったアゲハ蝶同然だ。
俺は口許に浮かび上がる悪魔のような笑みを堪えることが出来なかった。

やっと…やっと仄香を手に入れられる。
間違いなく運命は俺に味方している。

「真直ぐ帰るつもりだったんだけどな。誘って来たのはお前だぜ?」
「え…?」

仄香は面食らったように言葉を失った。
当然だ。そんな事実なんてなかったんだから。
物言いたげに俺を見つめる仄香に俺は畳み掛けるようにわざと悲しげな表情で言葉を続けた。

「覚えてねぇのかよ。残念だぜ。昨日あんなに乱れて俺を求めて来たのに。お前、すっげぇ可愛かったぜ」
「嘘…」
「嘘じゃねぇよ。お前に煽られて、俺、止まんなかったし」

俺は仄香の首筋に顔を埋めて、笑った。
もう少しで、仄香は俺の手に堕ちる。
抑え切れない悦びで、口許が歪む。
噛み付くような口付けを、首筋に、胸元に落として、また新たな華を咲かせる。
仄香は呆然と俺を見つめていた。

「やっとお前をこうして抱けて嬉しいぜ。仄香、好きだ。昔からずっと好きだった」
「政宗…」

やっと言えた。
今まで何度も同じ事を告げたが、相手にされなかった。
でも、今は状況が違う。
仄香を守ってやれるくらいに俺がもっと大人になってから告げるつもりだったけど。
でも、今が最大のchanceだった。

仄香…。
俺はお前を逃がさねぇ。

仄香は眉を少し顰め、俺をじっと見つめている。
困惑の色がいまだ瞳に揺れているが、仄香の瞳に俺が映っているのが見える。

「仄香…お前は…?酔ったお前じゃなくて、今のお前の気持ちが聞きたい」

ねだるように仄香を見つめる。
一夜を共にしたとしか見えない状況。
いくら仄香が小十郎の事を想っていても、俺に抱かれて尚、仄香が小十郎を選ぶことなんて有り得なかった。
仄香はそんな女じゃねぇ。

「私も…政宗の事がずっと好きだったよ」

ずっと引き出したかった答えがやっと返ってきて、歓喜に胸が打ち震えた。

「やっと素直になったな。仄香、もう誰にもお前を渡さねぇ。後で小十郎に報告しような」

『小十郎』の名を聞いて、仄香が僅かに顔を歪ませた。
でも、もう、俺は誰にもお前を渡さねぇ。


小十郎、悪ぃな。
仄香は俺がもらうぜ。


俺は仄香が自分のものになった事を味わうように深く口付けた。


もう手に入らないと思っていた。
でも、これから俺は絶対にお前を離さねぇ。
いつか小十郎を忘れさせてやる。
俺の手で…。
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