渚のシンドバッド -1-

「はぁ!?お前、今、何つった?」

俺は読んでいた雑誌から顔を上げて、妹の顔をまじまじと見詰めた。

「だから、明日政宗と海に行って来るから、アニキとは出かけられないんだ、ゴメンね」

前々から妹とは約束していた。
夏になったら一緒に海に行くのは暗黙の了解みたいなもんだ。
俺が高校生の時は毎週のように割りと近くの海に一緒に出かけていた。
今年は妹が受験生、俺もバイトがあるので、なかなかスケジュールが合わなくて、クラゲが出始めるギリギリの明日、ようやく都合を合わせて妹と約束していたのだ。
こいつのサーフィン見てやったのは去年の夏が最後だ。
妹も楽しみにしていたはずなのに、ドタキャンかよ。

「独眼竜とは別の日に行けばいいだろ?」
「だって政宗忙しいんだもん。それに政宗と海に行くの初めてだし。高校最後の夏の思い出作りたいじゃん?」

高校最後の夏の思い出、か…。
まあ、彼氏とそういう思い出を作りたい気持ちは分かる。
それは分かるんだが…。

自分の夏の思い出を思い返してみて、俺はぷるぷると頭を振りたくなった。
お前ぇは男が何考えてるか分かっちゃいねぇ。
男ってのはなあ、ただ一緒に波と戯れて終わりじゃねぇんだよ!

この間のキスマーク事件を思い出す。
あの後、妹を問い質したら何もなかった事にホッとした。
だけど、あの時は小十郎がいた。
夏の開放的な海を前にして、しかもこんなに可愛い女と遊びに来て自分を抑えられるはずがねぇ。

……少なくとも俺は抑えられねぇ…。

……悪いか!?

兄馬鹿と言われようが、俺は心配なんだ。
いや、俺が妹に手ぇ出すとかそういう事じゃなくて。
まあ、俺だったら、自分の女と海に行ってそれだけじゃ済まねぇって話だ。

独眼竜と俺は多かれ少なかれ似ている。
だから余計に心配だった。

まあ、こいつが独眼竜に惹かれたのが俺とあいつが似ているからだとしたら、そんなに悪い気もしねぇ。
あいつが妹を傷付けるような真似はしねぇ事も頭では分かるけど感情がついていかねぇんだ。
まだまだ妹を誰にも渡したくねぇ。
清い関係ならともかく、それ以上はダメだ。

俺は認めねぇ…!

「なあ、どこの浜に行くんだ?」

俺は問い掛けながら明日の行動を計算し始めた。
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