俺は思わず固まってしまった。
夏の海で、彼女と日焼け止めを塗り合うのは男のロマンだ。
あいつ、分かってて邪魔しやがったな…!!
こいつの肌に触れたのは一度きり。
あの日、兄貴とキスしていたこいつを見て、頭に血が上って勢いで襲ってしまった時だけだ。
それ以来、警戒しているのか家には上げないし、俺の部屋も小十郎がいる時しか来ない。
小十郎がいる時は何かと小十郎がさり気なく邪魔をする。
俺も男だ。
彼女の肌に触れて何が悪い。
密かに今日のデートを楽しみにしていた。
開放的な海だったら少々スキンシップが過ぎても、誰も文句はつけねぇ。
こいつがこんなにsexyな水着を着て来るのは予想外だったけど。
他の奴等の目にも入るってのは気に入らなかったが、こいつのこんな姿が見られるのは嬉しかった。
二人で甘い雰囲気で日焼け止めでも塗れればと思っていたのに。
……Shit!!
家で塗ったって事は、こいつは兄貴にこんなあられもない姿を晒したって事だよな?
こいつの柔肌にあいつの手が触れて……。
俺は嫉妬で狂いそうになった。
「政宗、どうしたの?怖い顔してるよ?」
お前の兄貴に嫉妬してんだよ!!
と言いたかったが、情けなくて口が裂けても言えねぇ。
俺は深い溜め息を吐いた。
「別に家で塗らなくてもここで塗れれば良かっただろ?俺が手伝わないとでも思ったか?」
「うん、そうなんだけどね。『肌晒した瞬間から焼けて痛くなるから家で塗ってけ』ってアニキに言われて。長曾我部家はみんな肌白くて、すぐに赤くなっちゃうからね」
そう言われては返す言葉もなくて、「そうか」と頷くしかない。
確かにこいつは抜けるように白い肌をしてるが、絶対に俺への嫌がらせだと思う。
「ねぇ、政宗。海に入ろう?それでね、私、すぐに日に焼けちゃうから1時間ごとに日焼け止め塗り直してくれるかな?ずっと海に入っていたいんだけど、ゴメンね?」
首を傾げてねだられて、ようやく気分が浮上していく。
今日は二人っきりのデートだ。
誰にも邪魔させねぇ。
「ああ、いいぜ」
微笑みかけたその時。
俺の肩越しに何かを見付け、こいつは嬉しそうに笑った。
「アニキ!!」
「よう、独眼竜、奇遇だな」
てめぇ、奇遇じゃねぇだろ、絶対!!
デートまで邪魔しに来やがったか!?
キッと睨み付けると元親はニヤリと笑った。
「アニキ、何でこんなとこにいるの?」
「見て分かんねぇか?サーフィンだ。お前ぇにドタキャンされて暇だったから野郎共誘って来たまでよ」
「そっかぁ、ゴメンね、アニキ」
「気にすんな」
そう言って元親はからからと笑った。
ドタキャンって事は、こいつは兄貴と約束してたのに、それを蹴って俺を選んだって事だよな?
まさかの兄貴登場に、俺は警戒していたが、こいつの心が俺にあると分かって少しホッとする。
「てめぇ、デートの邪魔はすんなよ。わざわざ同じbeachに来やがって」
「はぁっ!?勘違いすんじゃねぇよ。ここは元々俺のシマだ。てめぇのシマで波乗りして何が悪い」
眉間に皺を寄せて凄む元親を舎弟が止める。
「まあまあ、アニキ。お嬢の前ですから落ち着いて。お嬢、久し振りっす!しばらく見ねぇうちに随分大人っぽくなりやしたね!」
「そうかな?へへっ、ありがと!」
照れたような笑顔も可愛い。
でも、他の男にそんな笑顔見せるんじゃねぇ!
眉間に皺を寄せた俺に気付かず男は愛想よく続けた。
「ええ、そりゃもう!最高の目の保養っス!」
男の鼻の下が伸びる。
「え…?」
「「てめぇ、調子に乗ってんじゃねぇっ!!」」
俺と元親は同時に叫び、男に蹴りを入れた。
「気が合うじゃねぇか、独眼竜」
「Ha!不本意だけどな」
もんどり打った舎弟の首根っこを掴み元親は俺に話しかけた。
「妹を頼むぜ。お前ぇが席外す時は俺が目ぇ離さないようにするから心配すんな」
「お、おう。Thanks」
何だ、妹がやっぱり心配なんじゃねぇか。
俺一人でもこいつくらい守れるが、万が一という事もある。
ある意味心強いか。
でも、手ぇ出しにくくなったじゃねぇか…!
「いいな〜、サーフィン。私もやりたいな」
「お嬢も一緒にどうっすか?」
「馬鹿野郎!人の恋路を邪魔すんな。お前ぇは独眼竜を選んだ。諦めて、お子様遊泳区域で遊んでろ」
「お子様って酷〜い!」
「ははっ、あばよ!」
ぷりぷりと怒る妹を尻目に奴は海へ向かった。
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