何度も角度を変えながら段々口付けを深くしていく。
甘えたような声が漏れるのを聞いて、もう止まらなかった。
歯列を割って、舌を滑り込ませると、逃げ惑う舌を捕らえ吸い上げる。
しがみつくように抱き着かれて欲望に火が着き、俺も抱き締める腕に力を込めた。
その刹那。
「お熱いお二人さん。これで頭冷やしとけ」
急に頬に冷たい物が押しつけられ、思わず俺は驚き身体を離した。
見上げると、引きつった笑みを浮かべた元親が、ペットボトルを二つぶらさげていた。
「ここは日本だ。お天道様の下でいかがわしい事してんじゃねぇ!」
「あ、あ、アニキ!?見てたの!?」
「当たり前ぇだ!!ってかお前ら目立ち過ぎだから嫌でも目に入るんだよっ!」
キッと俺を睨み付けると、元親はペットボトルを俺の方に放り投げた。
「ガキは大人しく海で遊んでろ。こいつ孕ませたりしたら容赦しねぇからな。普通に付き合うのなら、俺は何も言わねぇ。じゃあな」
低い声で凄むと、元親は海に戻って行った。
てめぇもそんなに年が違わねぇのに偉そうに。
でも、確かにやり過ぎたかと少しは反省する。
「アニキに怒られちゃったね。これ飲んだら海に入ろっか?」
気まずい雰囲気を振り払うように明るく笑いかけられて、気分が晴れていく。
「そうだな。悪かった」
頭をぽんと叩いてやるとホッとしたような笑みを浮かべる。
続きはいつか…受験が終わってからだな。
あと半年の辛抱か。
まあ、どうせ結婚するつもりだし、焦る事ねぇか。
俺達はまた手を繋ぎ、海に戻った。
「Hey, あんまり沖の方に行くな」
「ん〜?平気平気。泳ぎ得意だもん」
照れ隠しか、沖の方に泳ぎ出すあいつに俺の方が慌てる。
さっきより波が高い。
追い付いても逃げるようにまた沖の方に泳ぎ出す。
「さっきのは謝るから戻って来い!」
「そんなんじゃ…あっ!!」
急に何かに脚を取られたのか、身体が海中に深く沈み込む。
慌てて追い付き、腕を掴み引き上げようとすると、正面からキツく抱きつかれ、俺まで溺れる。
このまま二人共死ぬのか…?
冗談じゃねぇ…!
海水の向こうに燦々と照る太陽が滲んで見える。
あともう少しなのに届かない。
首にしがみつかれ、脚まで絡み付かれて自由が利かない。
とりあえず身体を離さねばと薄い酸素の中もがくと、急に拘束が解かれ、自由になった俺はやっと水面から顔を出した。
「溺れてる奴を正面から助けるやつがあるかっ!この馬鹿がっ!」
怒鳴られて振り返ると、元親が妹を背負い、俺を睨み付けていた。
「慌ててたから仕方ねぇだろ!」
そう、俺はこいつを助けたかったんだ。
怒鳴られる筋合いはねぇ。
俺も睨み返す。
「お前ぇの事を言ってんだよ!正面から助けたら二人共溺れる。お前ぇが溺れたら、俺は小十郎に顔向け出来ねぇ!」
ふいと顔を逸し、元親は泳ぎ出した。
「まあ、身体を一旦離そうとする判断は間違ってなかったぜ。助けてくれようとしてありがとな」
「…おう…」
何だ…。
怒鳴ったのは俺のためだったのか。
口には出して言えねぇけど、俺は心の中で元親に感謝した。
浜に着くとすぐに元親は妹の呼吸と脈を確認し、人工呼吸を始めた。
「脈も呼吸もあるから心配すんな。ちょっと水が入ってるだけみてぇだ」
数回人工呼吸をすると、口から水が零れ、激しく咳をする妹の背中を元親は擦った。
本当は俺がすべき事なのに、あまりに手慣れていて手出しの余地がねぇ。
兄貴とのキスを見るのは二度目だが、何だか酷く落ち着いた気分だった。
「アニキ、水をどうぞ」
「おう」
水を口に含むとそのまま口移しで妹に何度か飲ませる。
やっと落ち着いたあいつの頭を撫でながら元親は聞いた。
「溺れるなんてらしくねぇな。どうした?」
「クラゲ…」
脚を見やると痛々しいミミズ腫れがついている。
「あぁ…災難だったな。薬ねぇし、病院行くか」
「待て。薬ならある。病院と同じ処方の物が」
そろそろクラゲが出る頃だと思って持って来ていて良かった。
やっと元親は笑顔を見せた。
「そうか。後は頼むぜ。こいつ、お前の部屋で寝かせてやってくれ。じゃあな」
「おい!二人きりだぞ。いいのか?」
「信用してやるよ、今日だけは」
歩み去る元親の背中が何だか大きく見えた。
小十郎の他に超えなきゃならねぇ男か…。上等だ!
Fin…
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