この世で一番海の似合う男は…? -1-

下校はいつも政宗と一緒。
手を繋ぎ、教室を出て、途中図書館に寄って、そのまま昇降口から校門へ。
政宗に憧れている女の子達の視線が痛いけれど、もう慣れた。
あんまり視線が突き刺さると、政宗は悪戯っぽく私の肩を抱き寄せる。
ああ、明日も、下駄箱に不幸の手紙が入っているんじゃないだろうか。
そんなものは全て政宗が片っ端から破って捨ててくれるけれども。

もうちょっと、自分の行動を自覚した方がいいんじゃないかな?

そう言ったら、「お前が可愛いからこうしたくなるだけだ、you see?」と蕩けるような笑みで言われて私は何も言えなくなった。

その笑顔は反則だと思う。
政宗って笑う時ものすごく艶っぽい。
目元に漂う色気はただものではない。
そういう笑みを向けられると、胸がドキドキして、どうしようもなくなる。

私は女なのに、色気がない。
何で、政宗、私みたいな子と付き合っているのかな。
不思議だ。

政宗はしっかりと手を繋ぎ、校門へと歩いていく。
話題は小十郎さんの説教とか、幸村の失敗とか。
いつも絶え間なく笑わせてくれる。
私が大口を開けて笑っていると、嬉しそうに目を細め、頭を撫でてくれるから嬉しくなる。

なんか、政宗のこういうところ、うちのアニキとよく似ている。
だから、政宗の隣は心地いいのかな。
もちろん、容姿も抜群だし、うちの馬鹿アニキと違って成績優秀。
少しでも政宗に釣り合いたくて、私は一生懸命勉強したり、女を磨いたりしている。

今日は塾がないから、政宗とこのまま、政宗の家に遊びに行くつもりだった。
うちの両親は共働きで、アニキは夜遅い。
弟達は部活で帰りがばらばら。
夕食はお母さんが朝のうちに用意してある。
私も、折角用意してくれたご飯を食べればいいんだけど、政宗が手料理を振舞ってくれるから、とこうして政宗の家に向かっているのだ。

政宗のお手製のお弁当は何度も食べたことがあるけど、政宗の家に夜遊びに行くのは初めてだ。
二人っきりだったらきっと私は気後れして行けなかったと思うけど、小十郎さんも帰ってくるって言っていたから、政宗の部屋に興味があったし遊びに行くことにした。
ついでに勉強で分からなかったところを聞こうと思いながら。
家には連絡入れてないけど、いいよね?


うきうきと手を繋いで校門に差し掛かったとき、女子生徒が校門の前に群がっていた。
誰か格好いい人とか芸能人でもいるのかな?
でも、私には関係ないし。
私には政宗がいるから。

政宗も気にも留めた様子もなく通り過ぎようとするので、私はそのままついて行こうとした。

「おい!!お前ぇ、自分のアニキの前をスルーかよ?」

張り上げられた声に私は振り返った。
そういえば女の子の群れの向こう側に頭一つ高い銀髪が見えたような見えなかったような。
あれ?
アニキ、今日は大学の後、バイトじゃなかったっけ?

「アニキ!!」

普段、アニキとはほとんど顔を合わせないから、私は嬉しくなって、政宗と繋いでいた手を離し、アニキに駆け寄った。

アニキはバイクの隣に立ち、何故かメットを二つ持っている。
うちの高校出身のアニキは、在校中かなりモテたらしく、三年生なんか、現役高校生時代のアニキを知っているものだから、未だにその話題で盛り上がる。
政宗と付き合ってて、それほど嫌がらせがないのも、アニキの妹だからってこともある。
今取り巻いているのは当時の取り巻きの女の子達かな?

「お前ぇら、悪ぃな。妹に用事があったんだよ」

アニキはにかっと笑うと、取り巻きを退け、私の腕を引き寄せて、頭をわしわしと撫でてくれた。

「アニキ、どうしたの?今日、バイトじゃなかったっけ?」
「あー、まぁ、そうなんだけどよ。急にシフトを交代してくれって言われて、俺、今日休みになっちまったんだよ」
「そうなんだー。アニキの分、ご飯ないかもよ?あっ!私、政宗の家でご飯食べてくるから、私の分食べなよ」

そう言うと、アニキは少し拗ねたような顔をした。

「折角の休みを可愛い妹と過ごそうと思ったのに、男とかよ。まぁ、気持ちは分からなくはねぇけどな。……バイト料、入ったから、これから湘南まで単車走らせてそこで飯でもおごろうかと思ったんだけどな……」
「えっ?!嘘っ!!アニキ、2ケツで海連れてってくれんの!?湘南!!海の幸?」
「当然だろ?」

アニキが嬉しそうにニヤリと笑う。

「行くなら急ぐぜ。今の時間なら、ぎりぎり夕日が見れそうだ」
「わー!!海で夕日、ロマンだね!」
「おうよ。夕日に向かって走るか?」
「うんうん!!走るよ!!アニキ、ありがとう!!めっちゃ楽しみ!!」

私はぎゅっとアニキに抱きついた。
頭をぽんぽんと撫でてくれるのが嬉しい。
ああ、やっぱり私、アニキのことがすごく好きだ。
ちょっと抜けてるけど、家族思いの自慢のアニキだもん。


「独眼竜、悪ぃな。今度ゆっくり妹貸してやるから、今日はもらってくぜ」

(まぁ、まだお前ぇにやるつもりなんざ、さらさらねぇけどな)

「政宗、ごめんね。うちのアニキがこんなに早く帰ってくることってないからさ。それにいつも貧乏だし。おごってくれるなんてもう奇跡だからさ」
「コラ、貧乏は余計だ」
「いたっ!!」

アニキに小突かれて、私は涙目で見上げた。
そして、政宗に向き直る。

「今度、埋め合わせするね、政宗」
「Sigh…仕方がねぇな。この借りは高くつくぜ?」
「うっ、お手柔らかにお願いします」

苦笑いしている政宗を見て、一週間くらい頑張ってお弁当作って持っていけば許してくれるかなあなどと思いながら、私はアニキに手渡されたメットをかぶった。
そして、バッグを背中にしょって、バイクに跨る。
アニキもメットをかぶるとバイクに跨った。
私はアニキの腰に腕を巻きつけてぎゅっと抱きついた。

「下の路走るが、間に合うだろ。じゃあ、行くぜ」

アニキはエンジンをふかし、間もなくバイクはスピードを上げて走り出した。
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