政宗は私のこと、どう思ってるのかな……。
いつものように放課後、政宗は私の席までやってきて、前の席に座り、私の宿題を覗き込む。
たいてい、塾の苦手な数学の宿題を学校で解いているのを政宗は知っているから、間違えているところや、分からないところを、私をからかいながらも教えてくれる。
「まあ、前より出来るようになったんじゃねぇか?婆娑羅大は文系って言っても、数学で合否が決まるから頑張れよ」
「だよね〜。はぁ……。大丈夫かなあ。心配になってきた…」
机に突っ伏してうなだれると、政宗がぽんぽんと頭を撫でてくれる。
「正直塾の勉強だけじゃ足りねぇだろうな。基礎の見直しも必要だが、発展問題も自分でこなしていくしかねぇ。まあ、まだ高3の4月でこの出来だから何とかなるだろ。これから一緒に参考書見に行くか?お前さえよければ、明日、お前の部屋の参考書も見て、これからの勉強方針を立ててやるよ」
「ホント!?うわー、助かる!」
伊達政宗と言えば、考査試験のたびに、全科目オール満点の超秀才だ。
私は、いつも政宗の少し下のあたりに名前が載っている。
学校レベルの理系科目は何とかなっているので、あくまでも学校では成績をキープ出来ているけれど、受験レベルとなると、少し厳しい。
政宗に教えてもらいながら、ようやく全ての問題を解き終わると、政宗がバッグを肩にかけて立ち上がった。
「さあ、そろそろ行くか」
「うん!」
私は慌てて、机の上を片付けると、バッグを持って政宗の後を追った。
ずっと政宗と勉強していたせいで、あたりは暗くなってきている。
もうすぐ最終下校時刻だ。
文科系の部活は、各部室で行われているから、人気がなくて寂しい。
二人の足音だけが廊下に響く。
手を繋いで、薄暗い廊下を歩いていく。
階段への通路へ差し掛かると、唐突に政宗に抱き締められた。
「ちょっ、政宗!?」
身体が壁に押し付けられる。
いつも戯れに肩を抱いてくるのとは様子が違って。
政宗の吐息が頬に触れるのを感じて。
どうしようもなくドキドキするのと同時に不安が押し寄せる。
もしかして、キス、されるのかな……。
今まで本や雑誌で読んだ知識が頭をぐるぐると回る。
こういう経験はないけれど。
いつかこういうシチュエーションになった時にどうすればいいか知りたくて。
でも、過激なその内容に、私は恥ずかしくなり、目を背けていた。
政宗は私の頭をそっと撫でると、顎に手をかけた。
どうすればいいの!?
キスの仕方なんてわからないよ!!
もし、キスが下手で、政宗に嫌われたらどうしよう……!!
不安で不安でぎゅっと目を閉じると。
唇に落ちると思っていたキスは。
頬に落ちた。
驚いて目を開けると、ニヤリと笑った政宗の顔がすぐそばにあった。
「そんなに警戒すんなよ。取って食いやしねぇよ。でもな、俺ももうそろそろ待てねぇ。明日……」
政宗は一際綺麗な笑みを浮かべると、艶っぽく囁いた。
「明日、期待してるぜ……」
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