俺の咆哮と共に大気がバチバチと帯電する。
遙を抱き締め、男を睨み付ける。
部屋の中は蒼白い稲妻が眩く縦横に走り、焦げたような匂いに包まれていく。
ハンターは気圧されたように後ずさった。
「テメェだけは…テメェだけは絶対に許さねぇっ!」
抑え切れない怒りで頭が真っ白になる。
普段は抑えられている魔力が一気に解放されていく。
嵐のような気流が巻き起こり、綺麗に片付けられた遙の部屋が無惨に乱れていく。
俺はナイフを取り出すと、手首を切り裂いた。
辺りに鮮血が飛び散り、血痕が俺の周りに魔方陣を描く。
「血の盟約に基き、魔界の深淵より来たれ、竜の王」
魔方陣が淡い燐光を発して、やがて黒い鱗に包まれた美しい竜が姿を現した。
「たかがハンター風情に竜王を召喚したのは初めてだぜ。よく目に焼き付けておくんだな」
竜が翼を広げると、壁や天井が破壊され、破片がバラバラと降り注ぐ。
ハンターは身を守るように腕を翳した。
「畜生っ!」
男は白木の杭を俺の心臓目掛けて放った。
しかし、魔方陣が作った結界に阻まれ、虚しく地に落ちる。
剣を構えようとするものの、俺が呼び寄せた稲妻で帯電し、剣を握るのもままならない。
ハンターは蒼褪め、踵を返そうとした。
手を翳すと、竜の爪が俺の手の内に戻って来る。
鞘から抜きざま、俺は男の脚目掛けて剣を一閃させた。
「うぁああっ!」
太腿を深く切り裂かれ、男が地に膝を着いた。
「逃がさねぇよ。お前ら全員呪われろ。魔界の業火に焼かれるがいい」
竜王に命ずる。
全てを灰燼と化せ。
静かな声で命じると、竜は翼を広げ、宙へ飛び立った。
大気を震わせるような咆哮を上げると、竜王は真っ赤な口から視界が真っ白になるような眩い光を吐き出した。
壁は粉々に砕け散り、熱でガラスが一瞬にして蒸発する。
眩い光の向こうで、全てが塵と化して行くのを俺はぼんやりと眺めていた。
遙が育って来た屋敷が、家族が全て塵へと帰って行く。
俺がこんな事をしたと知ったら遙は悲しむだろうな。
でも、俺は全てを呪わずにいられなかったんだ。
俺からお前を奪ったもの全てを。
やがてゆっくりと光が消えてゆくと、辺りには瓦礫が疎らに散らばり、全身の皮膚が焼け爛れたハンターだけが地に倒れ伏していた。
痛みを堪えるように微かに蠢いている。
「ほう…。魔界の業火に焼かれて尚生きているとは、伊達に吸血鬼の血を引いてねぇな。クッ…苦しいか?あんたに相応しい末路だ」
俺は魔方陣の中にそっと遙を横たえ、ハンターに近付いた。
「出来れば俺の手で切り刻んでやりたかったがな。時間がねぇ。どうせあんたはこれから地獄に落ちて、永遠に地獄の業火に焼かれる運命だしな。せめて最期は俺が直々にとどめを刺してやるよ」
俺は剣を抜くと、男の息の根を止めた。
途端に空虚な思いが胸の奥に広がって行った。
魔方陣の中に戻り、遙を抱き上げる。
遙は長い睫毛を震わせて、薄っすらと目を開けた。
「まさ…むね…」
遙の声は掠れ、力なく咳をする。
肺に穴が開いているのか、痛々しく喉がひゅうひゅうと鳴っていた。
「遙、喋るんじゃねぇ。目ぇ瞑ってろ」
瞼にkissを落とすと、遙は力無く目を再び閉じた。
俺は竜王の背に乗り、遙を連れて城へ帰還した。
城の中には入らず、城の奥にある花の咲き乱れる庭園へと降り立った。
せめて最期くらい、綺麗な花に囲まれて遙を見送ってやりたかった。
遙、許してくれ。
全部、俺のせいだ。
俺がお前に会いに行かなかったらお前をこんな目に遭わせずに済んだ。
お前を守ってやりたかったのに。
俺のせいで…。
俺は遙をかき抱いた。
この愛すらも罪ならば、俺は永遠に罪人だ。
何故俺達は結ばれてはいけないんだ。
俺達の運命が決して交わらないのなら、俺は運命すら呪ってやる。
こんな世界、なくなってしまえばいい…。
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