03. 邂逅

政宗と初めて出会ったのも満月の晩だった。
私はその日、当時付き合ってた彼と駆け落ちする約束をしていた。
街外れの森の中で彼を待つ。
中天に輝く月の蒼白い光が木の葉の隙間から降り注いでいた。
懐中時計を取り出して時間を確認する。
もう約束の時間を1時間過ぎていた。
2時間経っても3時間経っても彼は現われない。
冷え込みの厳しい夜の空気に手はかじかみ、私ははぁっと息を吹きかけ手を擦り合わせた。

時は丑三つ時。
吸血鬼が徘徊する時間だという事を思い出して、私は彼と乗るはずだった馬車の停車場に向かった。


そして私が目にしたものは……他の女の人の肩を抱いて仲睦まじく歩く彼の姿だった。
茫然として彼を見つめていると、ふとこちらを見た彼と目が合い。
そしてバツが悪そうに女の人の肩を抱いて足速に歩き出した。
ふらふらと彼を追おうと道に飛び出すと、馬の蹄の音が間近に迫り、振り向くと私に向かって馬車が勢いよく走ってくる所だった。
御者が悪態をつくのが聞こえたけれども、ああ、もう間に合わないのだと思った。
彼に捨てられた私に残されているのは家柄と顔も知らない婚約者との婚儀だけだった。

もう死んでも構わない…。

そう思って目を閉じると、身体がふわりと浮いた。
誰かに私は抱き抱えられている。
予想していた衝撃はいつまで経っても訪れず。
身動ぎをすると低い声で諫められた。

「じっとしてろ」

抱き込むように抱えられているため、男の顔は見えない。
やけに色白な首筋と、黒いマントの襟だけが見えた。
マントの内側は血のような緋。

ああ、この人は吸血鬼なんだ…とぼんやりと思った。
きっとこのまま襲われて私も生ける屍になる。
でも不思議と怖くなかった。
話に聞いていた吸血鬼は、残忍で、気位が高く、人間を虫けらのように思っていた。

でも、この人の声は優しかった。
例え、それが人間を誘惑するためのものでも。
私の最期に立ち会うのが優しい吸血鬼ならそれもいいかも知れない。
そんな事すら思った。

やがて、森の奥の泉のほとりで彼は私をそっと降ろした。
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