Involved

トクン……トクン……


目を覚ますと、規則正しい鼓動を頬に感じる。

いつもと変わらない朝の情景。

筋肉が綺麗についた政宗の二の腕は程よく弾力があり、高さまで頭にしっくりと馴染む。
額には政宗の深い寝息がかかっている。
すっかり安心して私を抱き締めたまま眠っている政宗が愛しい。

こうして政宗の温もりに包まれるだけで。
他には何も要らないくらいに満たされる。

背中に回された腕も。
向かい合うようにして抱き合って触れ合う胸も。
政宗の全ての肌の感触が心地よい。

もっと政宗を近くに感じたくて、私は政宗の首筋に顔を埋め、広い背中を抱き締めた。
さらさらとした肌が心地良くてそっと指を滑らせる。
政宗の身体がぴくんと反応して、私をギュッと抱き締めた。
額にそっと口付けが落とされる。

「Good morning, my sweetie」

寝起きで少し掠れた声で囁かれるのが好きだ。
眠れそうに目を擦る政宗の手を取り、瞼に口付けを落とす。
右目にも口付けを落とすと、政宗は幸せそうに吐息を吐きながら私を抱き寄せてそっと唇を重ねる。

「Good morning, darling」

私が微笑んでそう囁くと、政宗は私の髪をくしゃりと撫で、そっと私の頬を包み込みじっと見つめる。
何を話す訳でもないのに、こうして見つめ合うだけで、温もりを分かち合うだけで幸せだった。

「右目にkissするの止めろよ」
「どうして?」

政宗が幸せそうな顔を見せるから。
私はつい無意識に右目にkissをしてしまう。
政宗は困ったように笑った。

「嬉しくて幸せでどうにかなりそうだ。ただでさえお前が愛しくて堪らないのに。お前が手放せなくなる」


もうすぐ離れ離れになってしまうのに。


口には出さないけれど、政宗がそう思っているのが伝わって来た。

別れが来るのは分かっている。
それを考えると哀しくて胸が張り裂けそうだ。

でも、だからこそ、私は政宗の温もりを決して忘れないよう、貪欲に政宗の温もりを求める。
この温もりも、肌理細い肌の感触も、甘い声も全て忘れたくない。

「右目にキスするのを止めたら政宗は私を手放せるの?」

少し試すように言うと、政宗は私を抱き締めた。

「んな訳ねぇだろ。お前は俺にとって、この世で一番大切な女だ」

少し焦ったように、語気を強めて政宗が言う。

「だったら私、政宗をもっと幸せにしたい。私が出来る事全部してあげたい。ずっと一緒にいられないなら、一生分政宗に幸せをあげたい」

政宗は驚いたように少し目を瞠った。
掠めるようなキスを唇に落とすと、また政宗の右目に口付けを落とす。
何度もキスをすると、政宗は切羽詰まったように私を抱き締めた。

「止めろっ。俺のcapacity超えるだろっ」

私を抱き締める腕が少し震えている。
何かを堪えるように、政宗の吐息が震える。

「お前が愛し過ぎて狂いそうだ」

政宗はしばらく私をきつくきつく抱き締めていたが、やがてホッと身体から力を抜いた。

「俺の右目を受け入れてくれるだけで嬉しいのに、何でこんな事すんだよっ。お前を殺してでも誰にも渡したくなくなるだろっ」

少し頬を染めて政宗は私を軽く睨み付ける。
その瞳が少し潤んでいて、政宗がさっき涙を堪えていたのだと気付く。

「忘れて欲しくないから」

そう呟くと、政宗はしばらく言葉を失った後、低い声で呟いた。

「忘れる訳ねぇだろ」

私は政宗の胸に頬を寄せた。

「私が政宗を愛した事を……右目も愛した事を忘れて欲しくないの。政宗が幸せを感じるなら、毎日でもキスしたい。だから他の誰にも触れさせないで」

政宗が息を呑む。
そして深い吐息を吐いた。
そのままギュッと私を抱き締める。

「お前が愛しい。言葉に出来ねぇくらい。誰にも触らせねぇよ。お前は?俺はお前に何をしてやれる?」

少し腕の力を緩めると政宗は私の顔を上げさせた。

「こうしていつまでも抱き合って、温もりを感じていられればそれでいいの」
「それだけか?いつもしてやってるじゃねぇか」
「うん」

少し意外そうに政宗は目を瞠った。

「離れていても、目を閉じれば政宗の身体の温もりを思い出せるくらいにたくさん抱き締めて欲しいの」
「本当にそれだけでいいのか?」

政宗はまだ信じられないというように私を見つめている。

「だって…男の人には難しいでしょう?性欲とかあるし…。抱き締めたらそれだけじゃ済まないでしょう?」

口籠りながら言うと政宗はようやく気付いたように頷いた。

「こうして抱き合うのが一番幸せなの。政宗に愛されてるって大切にされてるって感じられるから。政宗の肌の感触も温もりも香りも全て忘れたくない」
「俺もお前とこうして抱き合うの、好きだぜ。女を抱き締めてこんなに穏やかで幸せな気持ちになった事はねぇ」

ギュッと抱き締められてキスをされて幸せな気持ちになる。

「誰にも渡したくねぇ。他の男の腕の中で絶対に寝るな」
「うん」
「俺もお前しかこうして抱かない」
「うん」
「遙、I love you」

落とされた口付けは優しく甘く。
私達はいつまでも抱き合って互いの温もりに溺れながらキスを交わした。
prev next
しおりを挟む
top