「政宗!?」
政宗に最後に会ったのはつい数日前なのに随分暫く会ってなかったような気がする。
私は振り返り、政宗の首に両腕を回して抱きついた。
「政宗、政宗!!会いたかった!!政宗が好きで堪らなくて、恋しくて、本当に会いたかったの!」
そう言うと、政宗は驚いたように言葉を失い、そして、私を苦しいくらいにきつく抱き締めた。
この感触も久しぶりに感じる。
「遙、悪かった。それ程までに俺の事を想っていてくれたなんて…。分かってたつもりだったが、お前はいつも俺が想像している以上に俺を愛してくれるな。好きだ。俺も、愛してる」
政宗はそう囁くと、私を抱きしめる腕に力を込め、私の首筋に顔を埋めて深い吐息を吐いた。
そして、私の後頭部を優しく撫でる。
この声が聞きたくて堪らなかった。
政宗の愛の言葉は私の最上の喜びだ。
甘く鼓膜を刺激する低い声に、胸の奥が熱くなる。
本当に私は政宗が好きで堪らない。
ここ数日会えなかった不満をぶつけようかとか不安な日々の中で思う事もあったけれど、やっぱり私は政宗に怒りの感情を持ち続ける事は出来ない。
だって、こんなにも愛しているから。
私も政宗を抱きしめると、政宗は埋めていた顔を上げ、そして、優しく優しく私にキスをした。
何度か角度を変えて口付けて、そして唇を離して見つめ合う。
いつもの通り、優しく、そして愛情深い眼差しが私の瞳を捉えた。
「お前がまさか、こんな所まで来ると思わなかったぜ。あんな危険な事までして。…そんなに知りたいか?ここで俺が何をしていたか」
「うん。…でも、何となく想像つく。絵を描いていたんでしょう?私、政宗がこんなにたくさん私の絵を描いていたなんて知らなかった」
そう言うと、政宗は苦笑いをした。
「呆れたか?stalkerみてぇだって。あんな昔からお前の事見てたって」
「ううん。こんなに昔から愛されてたんだって分かって嬉しかったよ。私の記憶にないような私の姿まで絵に残ってて」
「良かった…」
政宗はホッとしたように微笑んだ。
「でも…。何で、何日も隠れて絵を描いていたの?政宗が言ってくれたら、私、喜んでモデルになったのに」
そう言うと、政宗は悲しそうに表情を曇らせた。
「俺はモデルがいなくても絵は描ける。いや…今回だけは、お前をモデルにして描けなかったんだ」
そう言うと、政宗は、目を逸らした。
「どうして?」
何故政宗が隠したがるのか、私には全く分からない。
政宗はまた溜息を吐いた。
「出来ればこの部屋の絵の事も隠しておきたかったが、ここまで来たなら仕方ねぇか」
そう言うと、政宗は、イーゼルを覆っていた白い布を取り払った。
そこに現れたのは、政宗を見上げる私の姿が描かれている絵だった。
上半身を描いた物で、政宗はこちらに背を向けている。
私の顔は喜びと恥じらいに上気していて、頬が桃色に染まっていた。
「あの日…。俺がこの手でお前を吸血鬼にしてしまった日…。初めてお前の唇を奪った日…。あの時のお前の表情が胸に焼き付いてる。俺を求めていたお前の表情…。ずっとずっと、憧れていた。そんな日は永遠に訪れないと思っていたから、余計に嬉しかった。言葉に出来ないくらい。お前はいつでも俺の癒しで、憧れだった」
そう言うと、政宗は私の頬に手を当て、親指でそっと撫でた。
「恥じらいに染まったお前の頬、すごく綺麗だった。愛しくて堪らなかった。だけど、俺が…」
政宗は悔しそうに顔を歪め、薄っすらと涙を浮かべた。
「俺がお前を貴族にしてしまったっ…!血の通わない、吸血鬼にしてしまったんだ…!!お前はもっと綺麗になった。月の妖精のように、美しくなった。でも…でも、もうあの日のお前の頬の色は、もう二度と戻らないんだ…!!」
一筋の涙が政宗の頬を伝っていく。
知らなかった。
もう鏡を見る事がないので、自分がどんな姿をしているかなんて知らなかった。
私は私のままで変わらないつもりなのに、それでも変わってしまったの…?
「私、そんなに変わった…?政宗は…吸血鬼の私は嫌…?」
人間のままだったならば、政宗にもっと愛されたのだろうか。
そう思うと悲しくなっていく。
こんなにも政宗に愛されて幸せなのに、それ以上を望むなんて贅沢なのに。
それでも、政宗が人間の私が好きならば、人間のままの姿であれば良かったのにと悲しくなる。
「違う!違うんだ!お前は、今でもお前のままだ!俺が愛した、遙のままだ!でも…だから俺のegoなんだ。お前が人間だった頃の姿を残しておきたいって。初めて想いが通じ合ったあの瞬間を残しておきたいって。…お前がきっとこういう風に悲しむから、だから黙っておきたかったんだ」
政宗は私を抱き寄せた。
「勘違いしないでくれ。俺は今のお前も愛してる。同じくらい。いや、以前よりもっとかも知れない。お前を見つめていると幸せで、お前が永遠にこうして俺と一緒にいてくれると思うと、堪らなく幸福で。おかしくなりそうなくらいだ。でも…記憶が薄れて行く。段々記憶の中のお前の姿がぼやけていくんだ…。俺はお前の全てを覚えていたいから、人間だった時のお前の姿を忘れてしまうのが怖かった…」
そう言うと、政宗は、ギュっと私を抱き締めた。
「愛してる、遙。多分、お前が想像しているよりも、ずっと深く。なのに、傷付けてしまって、ゴメンな。こんなに愛してるのに。愛すれば愛するほど、俺は貪欲になってお前を傷付けてしまうのかも知れない」
政宗は大きな身体を縮こませて震えていた。
その背中を優しく抱き締め、政宗の後頭部を撫でた。
「謝らないで。話してくれて、ありがとう。少し悲しくはなったけど、でも、知らないでいたら、政宗がこんなに私の事を想っていてくれた事も知らなかったよ。…私がモデルになったら、人間の頃の姿が思い出せなくなるから遠ざけていたんだね」
政宗は小さく頷いて、私にしがみ付くように私の身体を抱き締めた。
こうして震えている政宗は、何だか可愛かった。
ちょっと呆れてしまう。
私が政宗を嫌う事なんて絶対にないのに。
私は小さく笑った。
「そんな風に言われたら、怒れなくなっちゃう。今の私も、人間だった頃の私も、私だもの。最高の口説き文句だよ」
政宗は、私の首筋に埋めていた顔を恐る恐る上げた。
「そう…なのか?だって、俺はお前を傷付けて…」
「最初はね。言ってくれれば分かり合えたのに。変な所で気を揉むの、政宗の悪い癖。これからは何でも話して。辛い事も、悲しい事も。嬉しい事も、楽しい事も。一緒に生きて行くって、そういう事じゃない?」
そう言って政宗の頭を撫でると、政宗は、ぼんやりと私を見つめていたが、やがて至極嬉しそうにふわりと笑った。
「そう…だな。病める時も、健やかなる時もって誓い合ったからな。Thanks, 遙。一緒に生きて行くんだからな」
一緒に生きる。
政宗は、もう一度、そう呟いて微笑んだ。
もう、その瞳には、戸惑いの表情はなかった。
何か希望に満ちた表情を湛えていた。
「遙、この部屋の絵を城中に飾ろう」
「え?この最後の絵は?」
「もう出来上がった。これからは、過去だけでなく、未来も見つめて、一緒に歩んで行こう。過去の絵も、未来のお前も、未来の俺達の子供達も描いて、優しい絵で城を満たして行こう」
俺達は、永遠の幸せの道を歩んで行くんだ。
切ないくらいに眩しい笑顔を浮かべると、政宗は誓うように、優しいキスをした。
Fin…
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