I love your smile

互いの温もりを身体に刻み付けるように縺れ合い、愛し合った後もまだ足りなくて。
俺はいつも遙を抱き締めて眠る。
ふと目を覚ますと、胸に遙の小さな寝息がかかっているのが酷く愛しくて。
こんなにも愛しい者を俺は知らない。


今日も遙を抱き締めて眠ろうと、遙を引き寄せると、遙は俺の胸に手を着いて、少し身体を離した。

「どうした?」

遙は今まで俺を拒んだ事がなかったから。
不思議に思って尋ねると、遙は照れたように笑った。

「私も政宗を抱き締めて眠ってみたいな」
「……huh!?」

遙の小さな身体で俺を抱き締めて眠れる訳がない。
この細腕ではきっと腕が痺れてしまう。

「ダメ…?」
「いや、ダメじゃねぇけど…」

ねだるように見つめられて無下に断る訳にも行かない。
遙の気持ちは嬉しい。
俺が遙を愛しく思っているのと同じように、遙も俺を愛しく思っている事が伝わって来る。
言い澱むと、遙はふわりと微笑んで、俺の頭の下に腕を差し入れて、そっと胸に押し包むように抱き寄せた。
遙の心音が柔らかな肌越しに頬に感じられる。
言い様のない安らぎが心の中に広がっていく。

女の胸に頬を寄せて、情欲を感じるのではなく、こんなに穏やかで幸せな気持ちになったのは初めてだった。
すっかり汗の引いた、さらさらとした柔肌が心地よくて遙の胸に顔を埋める。

でも、正直遙を抱き締められないのが物足りない。
遙に頭を抱え込まれるようにして横たわっているので、片腕が自分自身の身体の下敷きになって遙を抱き締められない。
もっと遙を近くに感じたいのに、その腕が邪魔をする。

「やっぱりお前を抱き締めたい」
「政宗ばかり狡いよ。私も政宗を抱き締めたい」

俺が身体を少し離すと遙が少し頬を膨らませる。
その表情が可愛らしくて、指先でつつくと、遙はますます拗ねたような表情になった。
掠めるようなキスを落として遙を抱き寄せる。
いつものように腕枕をするのではなく、遙の胸に顔を埋めるように、遙の身体の下に腕を回して抱き締めると遙は驚いたように俺を見下ろした。

「腕枕してくれよ」

ねだるように見上げると、遙はそれはそれは嬉しそうに微笑んで頷いた。
遙の細腕が俺の頭の下に差し入れられる。
正直少し高さが足りなかったが、遙の胸と同じように柔らかな二の腕が心地よい。
それに何より遙が幸せそうに愛しそうに俺を抱き締めるから。
この温もり全てで遙に愛されていると感じて、俺も嬉しくなる。
俺は遙の背に腕を回し、抱き締めた。
脚を絡ませ、縺れ合うように抱き合うと、全身が遙の温もりで包まれる。

「政宗、腕痺れるよ?」
「それを言うならお前もだろ?」
「政宗の頭を支えてるだけだもの。大丈夫だよ?」
「お前は華奢だからこれくらいどうって事はねぇ。こういう風に抱き合うのもいいな」

遙の胸にキスを落とすと、遙はくすくすと笑い、ゆっくりと俺の後頭部を指先で撫でた。
心地よさにふわりと眠気が身体を包む。

「It's really comfortable.」

欠伸をかみ殺すと、いつもは俺が遙にするように、遙は俺の額に口付けた。
俺に触れる遙の身体はどこもかしこも柔らかくて気持ち良い。
愛しくて胸の奥が甘く疼く。

「政宗が眠るまでこうしていてあげる。政宗が大切なの。愛してるって少しでも伝えたいの。いつも政宗が私にしてくれるみたいに政宗にもしてあげたいの」

今まで遙に伝えて来たかった想いがきちんと伝わっていて嬉しくなる。
遙が愛しくて堪らない。

「Thanks. こうしてお前に包まれて。すっげぇ愛されてるって気分になる。言葉に出来ねぇくらい幸せだぜ」

甘えるように遙を抱き締めると、また優しく額に口付けが落とされた。
そしてゆっくりと髪を梳かれる。
心地よさに身を任せ。
いつしか俺は深い眠りに落ちて行った。








翌朝。

「手ぇ痺れた…」
「脇腹が痛い…」

無理な体勢で眠った俺たちは、それぞれの痛みを訴えていた。

「遙、やっぱりお前はおとなしく俺に抱かれてろ」
「でも…」

尚も食い下がろうとする遙の口を俺は唇を重ねる事で無理矢理塞いだ。
遙は抗議するように、俺の胸を押し返そうとする。
俺は有無を言わせず遙の頭を引き寄せ、深く唇を重ねた。


腕の痺れが少しずつ和らいで行くのを感じながら思う。
寝起きの腕の怠さは最悪だったが、眠りに落ちるまでの一時は言い様がないほど幸せだった。

「まあ、気が向いたらまた抱かせてやるぜ?」

しばらくして唇を離してそう囁くと、ようやく遙は嬉しそうに笑った。


その笑顔が見られるなら。
腕が痺れるくらい目を瞑るか。


だから、もっとその笑顔を俺に見せてくれ。
お前の笑顔を決して忘れないよう、心に焼き付けておきたいから。



Fin…
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