03. Deep in the forest

成実が花冠を作って、それを私の頭に載せてくれた。
私は部屋を飾る花束を作るために、花を摘んでいく。

「成実、このお城のお花畑はここだけ?」
「まさか。他にもあるさ。三方は崖に囲まれた土地だけど、森と泉もあるよ。泉の周りも花畑だ。でも、伊達の土地とは言え、一人で行くのはお勧めしないな」
「どうして?」

そう問いかけると成実は困ったような顔をした。

「うーん、そのうち梵が連れて行ってくれるとは思うけど…」
「危険なの?」
「流れ水があるから、道を間違えたら一人では帰って来れないってくらいかな」

若い吸血鬼は流れのある水の上は、例えどんなに浅くても渡れないのだと、以前小十郎に教えてもらった。
だから、私は必ず誰かと一緒にしか行動したことがない。
昔、私の屋敷にも小さな泉があって、夏になると足を浸して涼んでいた事を思い出す。

「綺麗な所?」
「そうだね。お伽噺に出てきそうな所だよ」
「いいなぁ。行ってみたいなぁ!ダメ?」

成実を見上げると、成実は苦笑した。

「梵が君を可愛がる理由が分かるような気がするよ。そんなに可愛くねだられたら男は弱いよ。絶対にはぐれないなら連れて行ってあげる」
「帰ってくる頃には政宗は戻ってるかな?」
「そうかもね」
「じゃあ、ちょっとだけ一緒にお散歩しよう」

成実は軽く頷くと、私に手を差し出した。
私はその手を取り、歩き出した。

花畑とは城を挟んで反対側に森が繁っている。
その中の小さな小路を成実は進んで行った。
所々に小川が網目のように流れている。

「ノスフェラトウと弱い魔物避けなんだけどね。泉のそばに昔の砦を兼ねた屋敷があるんだよ。今は使われてないけどね」

小川には橋がかかっている物とそうでないものがあって、迷路のようだった。
澄んだ小川の川底では水草が靡いていて、とても綺麗で癒される光景だ。
小川の周りに小さな花がたくさん咲いている。
それを一つ摘もうと身を屈めると、成実にぐいと腕を引かれた。

「おっと。川のそばには行かないでね。落ちるから。冗談抜きで」
「大丈夫だよ」
「人間の頃とは違うんだ。俺達は慣れてるけど、本当に吸血鬼は川のそばに近寄ると身体が重たく動かなくなるんだ。だから、おとなしくしててね」

成実は私の手を握り直すと、またゆっくりと歩き出した。
幾つか橋を渡ると、森の向こうに視界が開け、泉のほとりに堅固な石の砦が立っていた。
泉の周りは落ち葉が積もり、その間から小さな花が顔をのぞかせている。
そよ風が吹いて小さな波が泉の表面にさざめき、フクロウがホウホウと鳴いている。
泉のほとりに立っている木のうろからシマリス達が姿を現し、私と成実の足元にじゃれついた。
成実は政宗に少し似た、低い忍び笑いを洩らして、ポケットから木の実を取り出してシマリスに与えた。

「ほら、遙ちゃんもあげてみる?」

成実は私の手を取り、木の実を握らせた。
落ち葉の上に座り込むと、シマリスは私の膝の上に、そして肩の上まで上ってきた。
成実がおかしそうに笑い声を上げたその瞬間、それに重なるように政宗の笑い声が聞こえたような気がした。
慌てて周囲を見回しても、政宗の姿は見えない。

「どうしたの?」
「政宗の声が聞こえたような気がしたの」

不思議そうに訊ねる成実にそう返すと、成実は辺りを見回し、そして困ったような顔をした。

「そろそろ帰る?」

まだ来たばかりなのに、成美は急にそわそわと落ち着きなく周囲を警戒しているようだった。
成実が落ち着かないので私も不安になり、辺りを見回した。

その時、砦の窓から白いカーテンが翻り、すっと人影が窓辺を掠めた。

ほんの一瞬しか見えなかったけど、あれは…

あれは、政宗だ。

「政宗!?」

高い塔の上の方の窓だったから、見間違えかも知れないけれど、私には妙に確信があった。
何故か分からないけれど、あれは政宗だと確信していた。

「遙ちゃんっ、帰ろう」

成実にぐいと腕を引かれて我に返ると、成実は厳しい顔つきをしていた。

「ゴメン、別の機会にすれば良かったね。また連れてきてあげるから、だから、今は帰ろう」

政宗があの塔の中にいるのに、何で成実はこんなに警戒しているんだろう。
何か、良くないことがあるんだろうか……。

「何故?政宗がいるのに…。まさか、政宗、危ないことをしてるんじゃ…」
「そんなことないけど、今はダメだ。帰ろう」

そう言うと、成実は私を抱き上げた。

「ちょっ!」

私は、政宗以外にこうして抱き上げられたことがない。
驚いて身体をすくめると、それまで遠巻きに見ていた蝙蝠達が一斉にばさばさと成実に襲い掛かった。

「いてっ!!ああああ、畜生!気まぐれ俺様王子が!!分かった分かった!帰るから!遙ちゃん、行くよ!」

成実は私を下ろすと、手を引き、風のように元来た道を引き返していった。
城に着くと、成実は疲れたように部屋に戻っていった。
私はというと、早めに寝るように小十郎に棺の中に入れられてしまった。
とは言え、まだ夜明けまで数時間時間がある。
いつもは眠りに落ちるまで政宗が手を握っていてくれるから安心して眠れるのに、政宗もいない。

一体、今日は何が起こっているのだろう。

成実の様子がおかしくなったのは、あの砦のそばに行ったときからだった。
そして、私はあそこで政宗を見かけたのだった。

「行ってみようかな、もう一度」

私は、そっと棺の蓋を開けた。
そして、棺の外に出る。
螺旋階段を上り、回廊に出ても、誰の姿も見えず、そして、使い魔も見当たらなかった。
今ならまたあの砦に行けるかもしれない。
私は城を抜け出した。
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