あの砦のそばで、政宗の忍び笑いの気配を感じたのはそのせい…?
でも、ここの所、政宗の気配を感じる事なんてなかった。
吸血鬼になれば、魔法が使えるはずなのに、私の魔力が弱いのか、または誰も使い方を教えてくれないせいか、私はまるで人間だった頃と変わっていないように思えた。
どうすれば、政宗の気配をもう一度感じる事が出来るんだろう?
私は、胸にかけられた護符のペンダントをそっと握った。
私の護符は、政宗のものと二つ合わせると、満月になる。
城の閉じられた扉を開ける鍵として働くものだ。
「政宗、どこにいるの…?」
願いを込めて、目を閉じてみる。
「ダメか…」
もしかしたら政宗に想いが通じるかも知れないと思ったけど、そう簡単にはいかないようだった。
それでも私には祈り願う事しか出来ない。
護符を包むように両手を組んで、私は祈った。
お願い。
政宗のいる所を教えて…!
すると、唐突にまるでフラッシュバックのように、風景の断片がいくつも見えた。
「えっ!?何、これ…!!」
高い塔。
翻る白いカーテン。
小さな窓。
塔から見下ろした、花の咲き乱れる庭園。
それはほんの一瞬の間、瞬く間に映像が次々に変わり、唐突に終わってしまった。
あの塔は、見覚えがある。
私がよく政宗と一緒に過ごす、庭園から見える塔だ。
「今のは、何……?」
急に現実に戻って、何だか眩暈がする。
まるで走馬灯を見たような気分だった。
今の映像は、何か政宗と関係があるのだろうか。
いや、絶対に政宗のいる所はあそこなのだ。
私には妙に確信があった。
政宗の姿はそこにはなかったけれど、政宗が見ているヴィジョンが私の脳裏に浮かんだのだという確信があった。
早くあそこに行かなきゃ!
その塔は、私達が暮らしている部屋の反対側に位置していて、一度も行った事がなかった。
城の窓から顔を出して外を眺めてみる。
私が現在いる塔とは柱廊を挟んで反対側にあるようだった。
私は階段を駆け下りた。
薄暗い階段を駆け下りて柱廊に出ると、色とりどりの宝石のような星の光が私の顔を照らした。
満月の光が太陽のように降り注ぐ。
その明るさと美しさに私は目を細めて、柱廊の向こうの塔を見上げた。
私の記憶が確かならば、あの、白いカーテンの翻る部屋がある塔は、柱廊にの向こう側の塔のさらにその奥だ。
一体どうやって行けばいいのだろう。
何度も外観は見た事があるのに一度も行った事がない。
けれども、私には迷っている余裕はなかった。
いや、むしろ確信していた。
根拠もないのに、この塔を登ってさえしまえば、屋根づたいにでも行けるに違いないと確信していた。
政宗がそんな事を知ったら、蒼ざめて怖い顔をした後、きっと私を外出禁止にしてしまう。
小十郎だって、きっと同じ。
それでも、こうして私にヒントをくれたのだから、それほど危険でもなく、また、私が政宗を見つける事を少しは期待しているのかも知れない。
ここ数日、皆が口をつぐみ、私には味方がいなかったけど、今日は違う。
早く、政宗に会いたい…!!
やっと、やっと、会える…!!
塔に登るのは、吸血鬼の身とは言え、楽な事ではない。
普段なら根を上げてしまっていたに違いないのに、私は高い高い塔を見上げると、ドアに手をかけた。
重い青銅の扉を開けた中は少しカビ臭かったけれど、私は気にせず少し深呼吸をして、そして、一気に螺旋階段を駆け上がって行った。
螺旋階段を登り切った所にある扉を開けると、さあっと夜風が吹き込み、私の髪を撒き上げた。
外に出ると、見晴台のように開けていて、丁度向かいに目当ての塔が立っていた。
この塔からの距離は約2メートル。
塔と塔の間には橋のようなものは全くない。
見晴台の端まで恐る恐る歩いて下の方を見下ろすと、断崖のように目が眩むほど塔は高く、柱廊の屋根が遥か下に見えた。
到底渡る事は出来ないだろう…。
どこか別のルートはないかと見晴台をぐるぐる歩いて回りながら、向かいの塔の周りを観察してみたけれど、不思議な事に、その塔の入口はどこにも見当たらなかった。
どうやらここからあちらに飛び移って窓から入らない限り、あの塔に入る手段はないようだった。
吸血鬼の秘密の隠れ家に相応しい。
政宗は、あの隠れ家に一体何を隠しているんだろう。
私に見つかって欲しくない、何か悪い事なんじゃないかと不安になる。
でも、小十郎は、優しい笑顔を浮かべていた。
きっと私を傷付けるような悪い事ではないはず。
暗く沈みそうになる心を奮い立たせ、私は目の前の塔を見つめた。
あそこに飛び移るしかない…!
もう一度、塔の下の景色を見下ろして、目が眩む程の高さに恐怖感が募る。
落ちたら死んでしまいそうだ。
でも…。
私はあの時すでに一度死んでいる。
バンパイアハンターに背中を刺されたあの時に。
私は政宗の命を分けてもらって復活した。
そして、不死の身になった。
もう、誰に守られなくても私は死ぬ事がない。
私を守って誰かが傷付くのはもうたくさんだ。
私は、私の不死身の身体を信じたい。
この身に受けた、身体能力を。
そして、生命を。
私は数歩下がると助走をつけ。
そして、跳躍した。
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