13.Bodyguard

車を屋敷まで走らせると、屋敷の前にまで芸能人の出待ちのように女子高生達がたむろしていて、頭痛がして来た。
政宗様の高校ともなると、塾の勧誘も必死で名簿が売買される事もある。
流石に在校生を取り締まるのは学校に任せるしか方法はないから、伊達ではどうする事も出来ない。
せいぜい学校に抗議するのが関の山だ。

仄香はすぐに女子高生の群れに気付き、後部座席のカーテンを閉めて、その隙間から様子を窺って溜息を吐いた。

「小十郎、どうしよう…。これじゃ、屋敷に入れない。名簿の漏洩か。うちの学校にもあったな、そう言えば」
「ああ、一芝居打つしかねぇな。幸いこの車は黒塗りのメルセデスSクラスだからな。あの女共にどれだけ効果が期待出来るかは賭けだが、やるしかねぇな」
「小十郎、どうするつもりだ?」

政宗様は苦々しく外を眺め、イラついたように俺に尋ねた。

「ありのままにこの小十郎が伊達家に何の用か尋ねます。政宗様のボディガードという事で。あながち間違いではございません。そして、仄香には、俺の色として協力させます」
「仄香がお前の女だと!?」
「落ち着きなよ、梵。それしかないよ。ここは小十郎のヤクザ顔を利用した方がいいよ。車だってぴったりだしさ。仄香姉ちゃん、ホステスメイク出来る?」
「ちょっと待ってね。髪はどうしようもないな。でも茶色だから何とかなる。あとは、マスカラで盛って濃いめのメイクに赤いルージュか。ルージュのキットを持ってるから、赤過ぎて使ってないし、それで何とかなるかも!アイシャドウパレットも使ってない色でやるしかないね。でも、今日は服装は誤魔化せないなぁ。小十郎、中のカーテン閉めるね」
「ああ、構わねぇ。銀座のホステスならそういう服装の女もいるから大丈夫だ。出来れば少し髪を盛れ」
「分かった。ワックスで出来る範囲で頑張る」

俺は、後部座席との仕切りのカーテンを閉めた。
後ろで明かりが点き、仄香が何やらメイクをしている。
成実がカーテンの中に顔を突っ込み、茶々を入れながら、もっと派手にしろとか色合いはこうだとかアドバイスをしている。
元々メイクをしていたから、そんなに時間はかからないだろう。
15分ほどすると成実の歓声が聞こえて、俺はカーテンの隙間から後部座席を覗いた。

銀座系の若い清楚系ホステスのメイクをした仄香がそこにはいた。
髪の盛り方も控え目で、むしろパーティに出席するような感じだ。
ナチュラルメイクを少し派手にした感じで、どちらかと言うと、外人メイクと言った方がしっくりと来る。
赤いルージュがよく映えていて、ヤクザの若い愛人でも通りそうだ。
こんなメイクでも、似合うのだから、やはり仄香は元の素材がいい。
外人メイクなんてなかなか出来ないものだ。

「仄香、よくやった。演技次第では、ヤクザの色に見える。車を降りたら、俺の腰に腕を回して甘えてろ。そして、面倒くさそうにあの女共を眺めて、最後に嘲笑え。出来るか?」
「うん、確かに面倒だし、面識もないのに家まで追いかけるなんて愚の骨頂だからね。演技でも何でもなく侮蔑は出来るよ」
「よし、それでいい。あとは、とにかく俺に媚びるように抱き付いてればいい。それで俺が恫喝したら、すぐに退散するだろ。行くぞ」

俺はエンジンを切って、鍵を引き抜くと、車から降りて、仄香をエスコートし、すぐに車のドアを閉めた。
仄香は打ち合わせ通り、俺に甘えるように俺の腰に腕を回してしなだれかかった。
その肩を抱き、女子高生の群れの前まで近付くと、女子高生達の顔色が変わった。

「てめぇら、伊達の屋敷に何の用だ!?」

そう恫喝すると、一気に女共は青褪めた。
それでも立ち去る気配がなくてイラつく。

「伊達君に、直接チョコを手渡したくて…」

中の一人が震える声で囁いた。
それを聞いて、仄香はくすりと笑った。

「それは出来ない相談ね。この人は政宗君のボディガード。そうねぇ、貴女達の制服見た事あるわね。ちょっと証拠写メ撮らせてもらうわ。ね?小十郎。政宗様のお父様にご報告したらどうかしら?」
「輝宗様のお手を煩わせるまでもねぇな。お前ぇら、チョコレートをここに出せ!!今すぐだ!!」

そう恫喝すると、びくっとしたように逃げ出そうとする女もいた。
それを仄香が優しい声で呼び止めた。

「あら、政宗君に渡してあげても良くってよ?これでも女心は分かるつもりだから。そうね、チョコの手紙にお名前だけじゃなくて学校名も書いてくれる?心に響いたラブレターがあれば政宗君も、会いに行くかも知れないわよ?ねぇ、小十郎?」

俺は退散させる事だけを考えてたが、仄香は身元を確認して抗議するつもりだ。
身元さえ割れれば、親元に脅しをかけられる。

「チッ、仕方ねぇな。さっさと名前と学校名を書きやがれっ!!さもねぇと、それなりの法的手段に出る。伊達の警察官僚との繋がりを甘く見るんじゃねぇ!!さっさとやらねぇと、通報だ!!」

胸ポケットから携帯を取り出すと、女共は慌ててカバンの中からペンを出して学校名と名前を書いた。
仄香は、それを取り上げるようにして受け取ると、冷たい目で検分して、無造作にバッグに放り込んで行った。
そして、侮蔑を込めた目で女共を見つめた。

「雑誌に載ったから家まで追っかけだなんて、貴女達本当に幼稚ね。最っ低!!」
「ああ、そうだな。俺の女と同じくらいに、俺を魅力して男から追わせるくらいじゃねぇとな」

俺は、仄香の顎を少し上げて頬にキスをした。
その瞬間、女子高生達は息を呑んだ。

「たかが、ホステスの癖に、不潔よ!」

中でも気が強そうな女が反論した。

「ホステスじゃねぇ。俺のイロだ。帝国ホテルのバーで一目惚れして、何度も口説いて口説き落とした。てめぇらの浅知恵で俺の女を侮辱したらタダじゃおかねぇ。女は一人前に化粧も出来ていい女だ。それも生まれも育ちも学歴も最高の女だ。乳臭ぇガキ共が生意気言ってんじゃねぇ!!俺を舐めんなよ。てめぇらの親父の会社に圧力をかけて左遷させるくらい、明日にでも出来るからな!!てめぇの顔は特によーく覚えたから、明日帰って来た時の親父の顔、楽しみにしてろ。俺の女を侮辱するからにはそれ相応の覚悟があるんだろ?それが嫌なら二度と伊達に関わるんじゃねぇ!!」

父親の事を出されると流石に顔色を変えて、逃げ帰って行った。
俺はやっとホッとして、仄香をそっと引き離し、車に戻った。
政宗様も成実もやっとホッとしたように、荷物を持って外に飛び出し、屋敷の中に飛び込んで行った。
俺と仄香はガレージに車を停めてから、荷物を持って屋敷へ戻った。
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