23.First Date (Good End Route)

「それなら、今すぐ小十郎と付き合いたいな。正直、自分に自信がないのは本当なの。小十郎の周りの大人の女の人達に嫉妬しちゃうかも知れないくらい、子供だもん。仕事と私、どっちが大事?なんて言葉、絶対に言いたくないけど、もしかしたら、そんな気持ちになる事だってあるかも知れない。不安でたまらない気持ちでいっぱい。でもね、本当に小十郎ほど尊敬出来て、一緒にいてすごく安心出来る人はいないの。小十郎も、私の事を価値観の合う貴重な女の子って言ってくれるなら、それが本当だと思う。小十郎に釣り合うまでって思ったけど、一生敵わないって思える事が幸せな事なら、社会に出なくてもそれは変わらないと思う。まだ恋愛感情も幼くて、小十郎から見たら子供かも知れないのが不安でいっぱいだけど、小十郎はそれでもいいの?」
「ああ、覚悟の上だ。何度も言うが、俺は周りの女なんて愛した事はねぇな。お前ぇが小さい時から俺はお前ぇが可愛くて仕方なかった。俺がお前ぇから距離を置き出したのは、お前ぇを女として意識し始めたからだ。仕事で寂しい思いをさせる事も分かってる。お前ぇが、浮気じゃないかと心配する覚悟も出来てる。でも、俺はずっと長い事、お前ぇ一筋だ。それこそお前ぇが中3くらいの頃からな。あの頃だって、俺とお前ぇの立場は違った。今だってお前ぇと俺の立場は違う。それでも俺の気持ちは変わらねぇ。いや、あの頃よりももっとお前ぇに惹かれてる。浮気が不安なら、毎晩俺の部屋で待てばいい。政宗様と成実の家庭教師をしてたら、時間なんてあっという間だろう。出張がない限り、必ず俺はこの部屋に帰って来るし、ここでしか俺は寛げない。そんな時にお前ぇがここで俺の帰りを待っててくれてたら最高だな。お前ぇの両親にはきちんと挨拶に行く。結婚前提ってな。それでもお前ぇは不安か?」

真っ直ぐに仄香を見つめてそう言うと、仄香はまだ少し不安そうに、それでも首を横に振った。

「ううん、小十郎がそこまで言ってくれるなら信じる。大学から帰ったら、ここで小十郎を待ってる。毎日小十郎の顔を見てたら不安は消えて行くと思う。でも、やっぱり私はまだ子供だから…。小十郎の周りの女の人に嫉妬しちゃいそう」
「さっきも言っただろ?俺を取り囲んでるのは、旦那ハンターだってな。そうだな…牽制のためにプロミスリングでも買いに行くか。それでもしつこい女はしつこいし、ライバルがいる方が燃える女もいる事にはいるが、ないよりはマシだし、俺も気が楽になる。それに、お前ぇに悪い虫がつかないってのが俺は安心だな。お前ぇ、それでも嫉妬するか?」
「プロミスリングって婚約指輪の事?」
「いや、婚約指輪はプロポーズの時に渡す。まぁ、そう遠くない未来だな。少なくともお前ぇの大学卒業までは待つ。お前ぇの両親次第だな。欧米では、恋人同士の証として互いに揃いの指輪をする。そうだな…シルバーは手入れが面倒だから、俺にはゴールドかプラチナが妥当だな」
「ええっ!?結婚指輪みたいだよ!?」
「結婚指輪は、また考える。長く着ける物だから、飽きの来ないデザインのやつをまた考えればいい。今は、若気の至りで、好きなデザインを選べばいい。俺もお前ぇも数年じゃ体型も変わらねぇし、エターニティタイプのを選ぶのも今のうちだぜ?」
「エターニティ?」
「指輪一周装飾で覆われてて、サイズの直しが利かないタイプの指輪の事だ。結婚指輪は、歳を取るとサイズを直さなきゃならねぇからな。エターニティを着けるなら今のうちだ」
「わぁ…」

仄香は夢を見るようにうっとりと微笑んだ。
やっぱり、女はアクセサリーが好きなもんだな、としみじみと思う。

「安物のプロミスリングだったら俺が甘く見られるからな。お前ぇには背伸びなのは分かってるが、会社での牽制のために、それなりのを選ぶぜ?うるさい旦那ハンターを黙らせるためだ。お前ぇもその方が安心だろ?俺も安心だ。大学生に軽々買えるような代物だったら何の牽制にもならねぇからな」
「小十郎、本当に本気なんだね…」
「当たり前だ。お前ぇを守るためだったら、これくらいどうって事ねぇな。仄香、とりあえずシャワー浴びて来い。着替えに帰っても構わねぇ。これから銀座へ行くぞ。遅めの昼飯でも食って指輪選びだ。仕事はどうしても重要なやつだけ片付ける。今日はお前ぇのために一日空けるから、夜までここにいろ」
「うん…。小十郎のお仕事見てもいい?私、小十郎について行くなら、伊達グループに入る。小十郎のお仕事が見たい」

俺は、ホッとして思わず笑顔が漏れた。
そもそも仄香の就活を止めるのが目的だったが、俺の女になる事で、ついでに就活も諦めてくれて、願ったり叶ったりだ。

「ああ、いいぜ?銀座から帰ってからだな。それでもいいか?」
「うん!えーと、どうしよう…。着替えに戻ったら時間がなくなっちゃう…。ここでシャワー浴びていい?」
「ああ、行って来い。その間に着替えて、メールのチェックをする。お前ぇも着替えをバスルームに持って行って着替えて来い」
「分かった」

仄香は、ソファの上に畳まれた服を抱えると、戸惑うように立ちつくし、そして、決心したように屈み込んで、俺の頬にキスをした。

「小十郎、大好き!」

素面で言われたのが嬉しくて、思わず笑みが漏れた。

「ああ、俺はお前ぇを愛してるぜ?さぁ、行って来い」
「うん」

仄香はバスルームへ消えて行った。
その間に、俺はワードローブから服を選んだ。
オフの日にしか着られなくて、一流ブランド店でも舐められない服となると、アルマーニ・コレッツィオーニのラフなスーツがいい。
中に薄手のアルマーニのニットを合わせれば、車ならば外を歩くのもGUCCIのマフラーで十分だ。
念のため、GUCCIのコートも用意して着替えた。

仄香がシャワーを浴びている間にざっと全てのメールに目を通して、簡潔に指示を与えて、添付のスライドを見た。
スライドをKeynoteで作り直すよう指示をして、見本のスライドを添付して、とりあえず仕事は一段落した。

仄香はゆっくりとシャワーを浴びて着替えて部屋に入ると、俺の姿を見て目を瞠った。

「小十郎、カッコいい!!どこのスーツ?ビジネスじゃない!」
「ああ、オフ用だからな。アルマーニ・コレッツィオーニだ」
「すごい…。センスいい…。あっ!マフラーもGUCCIだ!イタリアブランドをここまで着こなせるなんてすごいね!全然ホストなんかに見えないし、本当に似合ってる!!」
「そうか?そうだな…。お前ぇにはサルヴァトーレ・フェラガモのジャケットとスカートか、ワンピースが似合いそうだな。俺の隣りで気後れしそうなら買ってやる」
「ええ!?いいよ!!…気後れするけど…」

最後の言葉に俺は思わず笑ってしまった。

「じゃあ、気後れしないように、アウトレットも行くか。好きなだけ選んでいいぜ?先にアウトレットで着替えて銀座に行けばいい。アウトレットは値段が知れてる。お前ぇも気を遣わなくていいからな」
「いいの!?」
「ああ、いいぜ。フェラガモでトータルコーディネートすればいい。俺もアルマーニとエトロで少し服を調達したいしな。お前ぇと出かける機会が増えるなら、持っていた方が俺も安心だ」
「わぁ…。小十郎、流石だ…」
「銀座に着くのが遅くなるが、まぁ、いいだろう。お前ぇを着飾るのも楽しみだしな。結納もその格好ですればいい。そう言えば、お前ぇの両親も気を遣わねぇだろ」
「小十郎、そこまで考えてるんだ…。結婚の約束に買って貰ったって言えば、うちの両親は喜ぶと思うよ?」
「なら、善は急げだな。出かけるぞ」
「うん!」

俺は、仄香と車に乗り込み、少し遠いが木更津のアウトレットへ向かった。
アクアラインを使えば1時間ほどで着くから問題ない。
首都高から川崎に抜け、海ほたるを過ぎると、仄香は窓に張り付くように景色を眺めた。
海の上を真っ直ぐに東京湾を横切って千葉に繋がるこの道路は滅多に使わない。
車の数も少なくて走りやすい事、この上ない。

「すごーい!本当に海の上を走るんだね」
「ああ、夜は街頭が海に反射して綺麗らしいが、ぎりぎり見られるかどうかだな。出来れば銀座に5時までに着きたいから急ぐぞ。アウトレットも、今日はアルマーニとエトロとフェラガモだけだ。ゆっくり見たかったら、また次の休日にでも連れて行ってやるから」
「うん。その時は、ゆっくりアウトレット見て、夜にアクアラインとレインボーブリッジが見たいなぁ」
「ああ、いいぜ。そうだな、アクアラインを抜けて横浜で夜景を見て、お台場経由で帰ってもいいな」
「わぁ、嬉しいな。やっぱり小十郎と付き合って良かった!同年代の男の子じゃ、そんなデート出来ないもん。アウトレットも楽しみ!横浜も憧れだなぁ」
「じゃあ、赤レンガ倉庫の見えるホテルで食事をすればいい。車に乗らないなら、一度帝国ホテルのバーに連れて行ってやりたいけどな。車なら、帝国ホテルに泊まりだな」

そう言うと、仄香は驚いたように俺を見て、頬を染めた。

「お、お泊り…?」
「飲酒運転出来ないだろうが。終電も気にしなくていい。まぁ、タクシーで帰ればいいけどな。昨日、俺の部屋に泊まるって聞かなかったのに今更だ」
「そうだけど…」
「それとも、お前ぇは俺の部屋の方が落ち着くか?まぁ、スコッチを飲むなら俺の部屋が最高だな。カクテルなら、ホテルのバーの方がいい」
「ううっ、私、そんな大胆な事、言って泊まったのね…」
「今日は金曜日だ。何なら今日も泊まって行け。着替えのストックくらい俺の部屋に置いておけ。俺と付き合うってのはそういう事だ。結婚前提だからな。後で、お前ぇの両親にメールしておく。都合のいい日に挨拶に行くからな」
「小十郎、気が早いよ…」
「何年お前ぇを待ったと思ってる?それに俺はもう26歳だ。軽々しく付き合ってるなんてお前ぇの両親に思われるのは心外だからな。だから、挨拶もするし、お前ぇを俺の部屋にも入れる。当たり前の事だ」
「そっか…。小十郎は大人だもんね。学生みたいに気軽に女の子を取っ替え引っ換え出来ないよね」
「その気になれば30過ぎても出来るが、お前ぇはそれでいいのか?」
「やだやだ!!ううっ、小十郎の意地悪…。小十郎、モテモテなんだ…」
「ああ、そうだ。ウザいくらいにな。だが、お前ぇしか眼中になかった。やっとお前ぇが俺と付き合う気になったからには、もう誰にも渡さねぇ。お前ぇの両親公認で付き合うからな。それだけの覚悟は決めろ」
「ううっ、ちょっとずつ大人の階段登る感じでいい?」
「ああ、構わねぇ。今すぐどうこうしろって言ってる訳じゃねぇしな。お前ぇの両親、今夜は家にいるか?」
「ううん、仕事で海外」
「じゃあ、泊まって行け。俺もお前ぇと離れがたい」

片手でハンドルを握り、仄香の頭をくしゃりと撫でると、仄香は嬉しそうに笑った。
そして、そのまま俺の手を握った。

「小十郎とお揃いの指輪かぁ。まさか一晩でこんなに状況が変わると思わなかったよ」

それは俺のセリフだ。
まさか、就活を止めさせるために部屋に呼んだのに、仄香を抱く事になると思わなかった。
いっそ、今夜、昨日の事を告げるか思い出させて、もう一度抱くか…?
帰りに渋谷に寄って、シガーと酒の調達だな。

俺は、仄香の頭をもう一度撫でると、タバコを取り出し吸い始めた。
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